113 念の為の準備

 5の曜日。

 ついに討伐の編成と行先が発表された。


「各パーティの編成、行先、日程は今配った紙にある通りです。行先によって集合場所、時間は異なります。遅れないように前日までに準備をしておいてください」


 今回は移動日の昼食以外、食事や宿の心配はしなくていい。

 持っていくのは移動日2回分の昼食、武器や防具といった装備、他は着替えや洗面道具程度だ。

 他は全て国や冒険者ギルドが手配してくれる。


 ただ俺は記載内容を見て危険の予感を感じてしまった。


 俺達のパーティが向かう場所は西南西方向の街ヤトゥバ。

 知らない街だがそれはいい。


 監督者がシャミー教官というのは少し不穏だ。

 野外実習の翼竜の件があるから。


 そして現地で一緒に行動する事になるパーティ。

 俺達のパーティと行動するのは2年生5名で構成されているパーティ1組だけ。

 そのパーティ構成員の名前にある名前が記載されていた。

 言わずと知れたアルストム先輩だ。


 シャミー教官にアルストム先輩。

 これは絶対何かある。

 俺はそう思わざるを得ない。


 取り敢えず準備だけは充分にしておこうと思う。

 しても意味がない事態が起こりそうな気がするけれど。


 ◇◇◇


「私達のパーティは1年生8パーティ共同でパトレス大平原です。野外実習とほぼ同じと思っていいと思います」

「翼竜とかオークなんてのは無しだと思うけれどな」


 クーパー達のパーティは無難な場所へ行く模様だ。


「なら安心ね。今はパーティの戦力が全然違うから」

「ショーンの盾と魔法攻撃だけで大半は倒せるんじゃないか」


「実際ショーンって反則だよな。盾構えたまま盾の向こう側にいる敵を魔法で攻撃出来るんだから」

「ライバーは腕力そのものが反則でしょ」


 この辺はいつも通りだ。


「ところでヤトゥバの街に何があるのか、誰か知らない? 何か2パーティだけで行くみたいなんだけれど。しかももう片方は2年生のパーティで」


 アンジェがごく自然に尋ねる。


「山の中の谷間にある小さな街よ。木材の集積地のひとつだけれど他には何もない場所」


 おっと、メラニーが答えてくれた。


「知っているの?」

「木こりとか木材関係者くらいね、知っているのは。私は父が昔ヤトゥバの近くで働いていたから知っていただけ」


「それでどんな場所? 特異な魔獣とか魔物とか出るの?」

「うーん」


 メラニーは少し考えた後、口を開く。


「特にそんなのは無かったと思うよ。もっとも魔熊やオーク程度なら現地で倒しちゃうしね。木こりは腕力自慢が多いから。流石にそれ以上が出ると話題になると思うけれど、そういう話は聞いたことはないね。少なくとも去年までは」


 つまり去年までは注意しなければならないような魔獣や魔物もいなかった場所だと。

 非常に嫌な予感がする。

 これはそれなりに備えておいた方がいい。


「悪い。今日は俺、外れていいか。やりたい事が出来た」

「いいけれどどんな用件?」

「国立図書館で調べたい事がある」


 まだ行く時間がなくてアルストム先輩から聞いた本を確認していない。

 だがどうにも嫌な予感がする。

 出来る事はしておいた方がいい。


「ハンスにも調べなければならないような事があるのか」

 ライバー、それは当然だろう。

 そう言いたいが、ライバーに言っても仕方ない。


「魔法理論で調べたい事があってさ」

「ハンスでもまだわからない魔法理論があるの?」

 アンジェ、ライバー並みになっていないか本当に。

 前衛だからと言って奴とあわせなくていい。


「当然でしょ。こういうものはわかればわかる程疑問も増えていく世界だから。

 それじゃ私達は今日はバランコの森に行って、帰りに必要装備の買い足しとか今度の討伐の昼食を予備含めとか、買い物をしてくるから」

「頼む」


 明日は休息日で国立図書館は休みだ。

 だから行くなら今日しかない。


「明日は一緒にカペック平原に行くよね」

「ああ、そのつもりだ」


 図書館で読み終わらなければ本を買ってしまってもいい。

 その程度の金の持ち合わせはある。

 ドワーフの里以来金遣いが荒くなっているなと思うが仕方ない。


「なら今日の夕食で会えなかった場合、明日朝6の鐘で校門前集合で」

「わかった」


 実際は夕食の時間に会えると思うが念のためだ。

 では昼食も食べたし行ってくるとしよう。


「それじゃ俺は行ってくる」

「ああ、またな」


 ◇◇◇


 国立図書館は学校から歩いて4半時間15分程度。

 結構遠い。

 しかも入場料が正銅貨5枚500円かかる。

 昼食1回分以上だから滅多に来ることはない。


 受付で入場料を払って中へ。

 メモと案内図を見比べて魔法学総論の棚を探す。

 確か危険人物アルストム先輩は言っていたな。

 第12属性に関する本は魔法学総論の3段目の棚に3冊あると。


 もし売れて残っていなかったらどうしよう。

 そう思いつつ魔法学総論の棚へ。


 目標の本はすぐに見つかった。

  〇 第12属性を求めて

  〇 魔法属性分類学(下) 光、闇、雷、空属性

  〇 魔法属性系統学概論

 おそらくこの3冊だ。

 中をささっと読んで確認。


 確かにこの3冊には第12属性として、『空属性』が記載されていた。

 この空属性の空とはそらでもからでもなく、空間を示すらしい。

 確かにそれなら遠隔監視魔法がこの属性だと理解できる。


 念のため他にもないか周囲の書棚を見てみる。

 だがそれらしい本は見当たらない。

 ならばこの3冊を徹底的に読み込むべきだろう。


 裏表紙を開いて値段を確認する。

 3冊合計で正銀貨15枚15万円か。

 ちょっと高い気もするが学術書だから仕方ないだろう。

 俺は3冊を手に買取カウンターへ。


 持ち帰って寮の自室で読むつもりだ。

 じっくり読み込むなら此処より集中できるから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る