112 世界のかたち
『ところでハンス。僕から質問なんだけれど、ハンスはこの大陸、いやこの世界はどんな形をしていると思っているのかな?』
なかなか微妙な質問が来た。
何故微妙かといえばだ。
『世界の姿を問う事は確か教会から禁止されていた筈だ』
『確かにそうだけれどね。本当に考えた事がないかい?』
考えた事が無いとは言わない。
誰だってある程度は考えるだろう。
『最初は平らな世界だと思っていた。地図のように平らな世界で真ん中に大陸があると』
『なら今は?』
『この大陸もきっと大きな星の一部なんだろうと思う。なら夜空に浮かぶ星と同じように球形をしているのだろう』
フィンは頷く。
『そうだね。それがきっと自然だ。僕もそう思っていたんだよ。ついこの前、
ちょっと待ってくれ。
『どういう事だ』
『僕の
確かに聞いた。
なら、それならば。
『平らでも球形でもない姿が見えたという事か』
『そういう事だよ。今ひとつ僕にも信じられないけれどね』
『どういう形だったんだ』
平らでも球形でもない形。
俺には想像できない。
『それはまだ言えないな。僕もぼんやりとしか見えなかったし、未だに信じられないというところもあるからね。正直とんでもない形なんだ。でもそれなら、世界の姿を問う事が禁止された理由もわかる気がするんだよ』
どういう事だ、そう聞きたい。
しかしフィンも今は教えてくれないだろう。
だからあえてフィンの次の台詞を待つ。
『僕はね、確かめたいんだ。僕が
そして僕が
『何処だ』
思わずそう聞いてしまう。
『前も言ったよね。行ってみたい場所があるって。
ひとつは境界山脈だよ。厳密には境界山脈の先にある場所』
確かに聞いた。
あの時の行きたい、知りたいというのはこの事、世界の姿が関わっていた訳か。
『あの時は第12階層等は存在する場所を模したものかもしれないって言ったよね。ただ実は少し誤魔化したんだ。
本当は、少なくとも東西の海の先にはそんな場所はない。何故僕がそう言えるか今は言えないけれどね。
ただ南の海の先、そして北、海や境界山脈の先ならそういったこの大陸とは違う世界へ行ける可能性があるんだ』
東西は行けなくて南北なら行けるのか。
随分いびつな世界だな。
そしてふと気づく。
『ひとつは境界山脈か。ならもうひとつは何処なんだ』
『
どういう事だ。
そう思う反面、なるほどと感じる気持ちもある。
『
『それを知りたいと思っているんだよ、僕はね。僕の予想が当たっていればそこには何故この世界がこんな形をしているのか、その答えに直結する手掛かりがある筈なんだ。あくまで予想だけれどね』
『どんな手掛かりなんだ』
『わからない。でも見ればきっとわかる筈なんだ。予想通りなら』
どんな予想なんだろう。
何があって、何故見ればわかるのだろう。
何もわからない。
ここまで想像がつかない事態というのは初めてだ。
『本当は境界山脈へ向かう方が正しいと思うんだ。考えられる正規のルートはきっとそっちだから。
でも今の僕らに行く時間はない。だからこれからは余裕があれば
『わかった』
ただ、第50階層まで辿り着くのはきっと難しい。
第40階層までは行ける自信はある。
出る魔物や魔獣は勿論強い。
しかし予想が出来る範囲だ。
いくつかの魔物や魔獣とはメディアさんの山小屋に住んでいた時代に戦った事もある。
確かに暑かったり寒かったりする階層もある。
しかしそれなりの装備をして、それなりの魔法で対処すれば今のうちのパーティで充分行けるだろう。
問題は第40階層より先だ。
ここから先の階層はそれまでとかなり様相が違う。
ここからの敵は俺も出会った事がないタイプだ。
主に人型の魔物とはあるけれど。
正直なところ、冒険者学校に来てからの俺は本気で怖いと思う敵と戦った事はない。
勿論俺より強そうな相手というのはいる。
シャミー教官にはおそらく勝てない。
アルストム先輩にもおそらく勝てない。
しかし彼らは敵じゃない。
戦った魔物や敵は既にメディアさんの山小屋時代に倒した事があるものか、更に格下ばかりだった。
野外実習で戦った翼竜ですらはじめてではない。
倒し方を知っていたし、倒した現場を見た事がある。
だが第40階層から下は違う。
怖いのは確かだ。
それと同時に楽しみだという気持ちもある。
「久しぶりに本気になる必要があるのかもな」
「えっ? どういう事?」
フィンに言われて気付く。
つい口に出てしまった事に。
「いや、下の階層を目指すなら今までとは比べ物にならないくらい強い敵が出るかもしれない。そう思ったんだ」
「ハンスでも本気になる必要がある敵か。楽しそうだな」
おいおいライバー聞こえたのかよ。
でもそうだなと思う。
俺はここ半年、忘れていた気がするのだ。
俺自身もまだ発展途上で、挑戦者である事を。
だから俺はライバーにこう返す。
「ああ、楽しみだ」
「ハンスが本気になるような敵なんて考えたくないなあ」
モリさんは平常運転。
でもそれでいい。
なんやかんやいってやるべきことはしっかりやる奴だから。
「何話していたの」
ミリアが聞いてくる。
「これから
「なるほどね。それはそれで楽しそうね」
「やめてくれ。ハンスやミリアが本気にならなきゃならない敵なんて、俺っち考えたくねえ」
クーパーがまぜっかえすのはまあ予定通りかな。
確かにそんな敵が
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