110 森での討伐実施中

「盾役がショーンの場合とおんなじ感じ」

 メラニーがそんな事を言う。


「ショーンの場合もこんな感じなのか」


「大体の場合はね。クーパーが指示してショーンが倒して終わっちゃうから」


「ショーンは盾を構えた状態で盾の向こう側へ攻撃魔法を放てます。だから前方向に出てきた魔獣や魔物はだいたい1人で倒してしまうんです」


「魔力も多いしね。この体制のまま1時間くらいは普通に魔法を出したり出来るし。まさか魔法無し腕力だけで同じ事が出来るとは思わなかったけれど」


 メラニーとケイトが説明してくれる。


「あ、前、止まって下さい。モリさん、右前の方はお願いします。後ろは私が狙います」

「わかった」

 メラニーの指示でモリさんは弓を構える。


 今、ケイトが指示したのは猫魔獣、小型の肉食魔獣だ。

 樹上から主に小型の動物類を狙う。

 人間を襲う事はあまりないが、念の為狩っておこうという事だろう。

 家畜を襲う事もあるから一応報奨金も出るし。


 ドン、ドン、ドン。

 ケイトの特殊弓が独特の響きをあげる。

 バサッ、バサッ。

 2匹が地上へ落ちてきた。

 全長80指80cmくらいの猫魔獣だ。

 モリさんの矢を抜いて前に渡し、死骸は収納する。


「この特殊弓、威力はあるし狙いやすいのですがどうしても音は響きますね」

「でも弓と違って連射しやすいし便利だよなあ。これくらいの距離なら矢より威力が大きいしさ」

「音については後ほどフィンと相談かな」


 再び前進し始めたが今度はモリさんがすぐに声をかける。

「止まろう。今ので気づかれた感じ。ゴブリンが出てくる」

「3匹ですね。真横から来ますので前進した上で対処しましょう。50歩ほど前進します」


 うん、偵察能力も指揮系統も問題無い。

 50歩ほど行ったところで隊列を組み直す。


「モリさんの魔法で出た直後に動きを止めて下さい。あとはアンジェとメラニー、お願いします」


 うんうん、無難な対応だ。

 ゴブリンが出てきたところでモリさんが魔法を起動する。

 いつもの水魔法ではなく氷魔法だ。

 どうやら職業変更ジョブ・チェンジで氷属性の魔法も問題無く使えるようになった模様。


 あとは動きを止めたゴブリンをメラニーとアンジェがばっさり倒すだけ。

 アンジェがそのまま高熱でゴブリンの死骸を分解。

 俺が魔石を取ればOKだ。


 おっと、更なる気配がこっちに向かってきた。


「ライバー、前方向から猪小魔獣イベルデミボア

「よし任せとけ。俺一人で倒してやるぜ」

「大丈夫ですか?」


 本来なら心配するケイトが正しい。

 ただし今回は盾役がライバーだ。


「まあ問題無いと思うなあ」

 このモリさんの反応で問題無い。


 ドッドッドッドッドッドッ。

 魔小猪イベルデミボアの足音が聞こえ始める。

 ライバーがにやりと笑みを浮かべ、盾を低く構えた。

 右足を後ろへと出して左足の膝を曲げ低く踏ん張る。


 正面から魔小猪イベルデミボアが迫ってきた。

 ライバーは軽く盾を引き付け、次の瞬間押し出す。


 ドン! ドドッ!

 盾が魔小猪イベルデミボアと正面からぶつかり、倒した。

 魔小猪イベルデミボアは横倒しになり動かない。


「相変わらず無茶な倒し方をするよな」

「無茶じゃない、実力だぜ」

 俺、モリさん、アンジェは半ば呆れ顔。

 メラニーとケイトは絶句状態。


「こんな事、鍛えて出来る気がしないわ」

「しなくていいと思う。きっと人間の埒外だから」

「ふふふふふ、ついに人間を超えたぜ」

「誉め言葉じゃないんだけれどな」


 そんな感じで討伐を続けていく。

 魔獣もゴブリンもそこそこ多い。

 久しぶりの野外肩慣らしとしては悪くない。

 でも穴場でこの数という事はやっぱり魔獣が多いな。

 そんな事を思った時だ。


 俺の感知範囲にひときわ大きい反応が現れた。

 俺達よりミリア達に近い方向だ。

 とっさに伝達魔法を使う。


「ミリア、気付いたか」

「問題ないわよ。ただ自在袋に入りきらないから応援お願いね」


 よし、ならケイトに言っておこう。


「ケイト、向こうのパーティから応援要請が入った」

「何かとんでもないものが出てきましたか」

「急ぐ必要は無い。はぐれオークだ。収納できる自在袋が無いから来て欲しいそうだ」


「オークってかなり強いですよね」

 普通に考えればその通りだ。

 たかが冒険者学校の学生が相手にするような対象ではない。


「でもメラニーは実習で倒しただろ」


 今のライバーの常識ではオークと言えども慌てるような敵ではない。

 確かに野外実習の時に倒してもいる。


「あれは全員で寄ってたかってだから。しかも向こう、あの時のメンバーはケビンしかいないわ。他は全部こっちよ」

「今はショーンも充分強いだろ。クーパーとエマ、フィンは威力がある遠距離攻撃が出来るし。ケビンは1回経験済みだしさ」

「というかミリアがいる時点で問題ないよね」


 ケイトとメラニー以外は大した事と思っていない様子だ。

 正直前からのパーティの皆さんは鍛え過ぎた。

 最弱だったモリさんでさえ実力は既にB級冒険者以上だろう。


「それでは急ぎましょう。モリさん、先導お願いしていいですか」

「わかった。そんなに遠くないし途中強そうなのもいないし、少し急いでいこう。ライバー、そこの木の先、細い獣道を右」

「オッケー」


 隊列は動き始める。

 それにしてもモリさん、攻撃魔法もだが索敵能力もかなり進歩したようだ。

 ミリア達の位置だけではない。

 最短でかつ楽に行けるルートも見えている模様。


「モリさん。途中の獣道とかも全部見えているのか」


 疑問に感じたのでつい聞いてしまった。

 ちなみに俺はそこまでは出来ない。

 せいぜい魔物や魔獣、人の位置がわかる程度まで。

 途中の地形はその気になればある程度掴めるけれど、獣道だとか細かい状況までは把握できない。


「此処から向こうのパーティくらいなら何とか。見えるというよりわかるという感じかなあ」


 この辺は選択した職業ジョブの違いだろうか。

 モリさんが探索士レンジャーを選んだとすればの話だが。

 賢者は探索士レンジャーの上位職の筈だが、個別スキルの習得具合が違うのだろうか。


 ならフィンは何が出来るようになったのだろう。

 俺が知らない技術士ファクタマとか研究士ラリサチマのような職業ジョブに就いたとしたなら。

 そんな事を考える。

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