109 本日の討伐体制

「カペック平原は混んでいると思います。現在、全国的な対策の一環で魔獣の報奨金が2割ほど上げられていますから。あの場所は魔獣の狩り場として有名ですし」


 念のために立ち寄った学校の事務室でそんな事を言われる。


「ならお勧めの場所はありますか」


「難しいですね。強いて言えば西門を出てしばらく行った南側、バランコの森でしょうか。

 平原と比べて見通しが悪くゴブリンも多いので冒険者は敬遠しがちです。ですので通常は騎士団が討伐しています。ですが今は騎士団も対策の為、チェステーの更に西に行っています。

 ただ見通しが悪くゴブリンも多いので、索敵能力に自信がない場合はやめた方が無難です」


 なるほど。

 そう言えば俺、賢者になった時に遠隔監視魔法が使えるようになったのだった。


 思い出して早速使ってみる。

 まずは北方向、カペック平原へ。

 おっと、既に6パーティも入っているのが見えた。

 これはやめた方がいい。


 次は西、バランコの森だ。

 確かに魔力の気配はかなり感じる。

 ゴブリンだけでなく魔小猪や牙ネズミ、牙ウサギの反応も多い。

 冒険者も1組しか確認できない。


「わかりました。ありがとうございます」

 事務員のお姉さんい礼を言って、廊下で相談。


「遠隔監視で見たんだが確かにカペック平原は多そうだ。さっと見ただけで6パーティ、周囲をふくめればもっといるかもしれない」


「此処にいてそんな場所まで見えるのですか?」

「ああ、最近修得した魔法だ」

 ショーン達のパーティには俺が賢者に職業変更ジョブ・チェンジした事を言っていない。

 だからこういう言い方になる。


「便利ですね。そんな魔法を使えるなんて」

「それじゃバランコの森はどうなんだ?」

「そっちは1パーティしかいないようだ。森は広いから場所さえ選べばかちあう事はない。確かにゴブリンも多いが魔獣もそこそこいる」


「森だと視界が悪いから少し怖いんだな」

「訓練にはちょうどいいじゃない。討伐場所が平原とは限らないし。それに索敵はそっちのパーティも得意でしょ」


「確かにそうだけどなあ」

「後衛に保険で私かハンスがつくわ」


「そっちのパーティはそれで大丈夫ですか」

「ああ、問題ないぜ」


 一番索敵に問題がある奴がそう言って胸を張る。

 まあ今の奴なら防御失敗しても問題はないかもしれないけれど。


「なら行くか」

「それじゃバランコの森のガイドを貰ってくる」

 モリさんが事務室カウンターへ顔を出し、案内と説明が記載された紙を2枚持って来る。


「それじゃ行くか」

「少し遠いみたいだから速足でね」

 案内図には森の入口まで2離半5kmとある。


 ◇◇◇


 久しぶりの方向へ行くとエマの薬草探知が捗ってしまう。

 その結果、森の入口まで結局1時間かかってしまった。

 成果は充分あるけれど。


「よくもまあ、こういった普通の街道でこれだけ薬草を見つけられるよね」

 この辺は俺もミリアも真似できない。

 というか誰もきっと真似できない。


「あまり採る人がいないようです。ファイザ草など、そこそこ珍しいものも生えていました」


 既にエマが採取した薬草は束ねられ、物によっては魔法で乾燥処理までされた上で俺の自在袋に入っている。

 これだけでそこそこの報奨金になってしまいそうだ。


「それじゃ今日は私がこっちのパーティにつくわ」

「それじゃそっちが2人多くなるだろ。野外実習の班にした方がよくないか。この森なら問題ないだろう」

 

 周辺にどんな魔獣や魔物がいるかはわかっている筈だ。

 離れた場所にいる敵についても魔力や生命力の反応で数や種類がわかる。

 少なくとも俺、ミリア、モリさん、フィン、クーパー、そしておそらくケイト辺りは。

 そしてこれらの魔獣や魔物なら難易度的には問題ない。


「なら野外実習の班を少し変更して、私とハンス、エマとライバーが交代でどう? 盾持ちが1人ずついるほうが安心でしょ。遠距離攻撃も魔法もこれならバランスがとれるし」


 確かにそうだ。

 野外実習の班そのままだと男子班に大盾持ちが2人重なってしまう。

 攻撃魔法持ちも男子は俺とショーンだけだ。


「確かにその方がバランスがいい感じがするなあ」

「そうですね」

 クーパーとケイトも賛成のようだ。

 残りの皆さんからも反対は出ない。


「それじゃ私達はもう少し行った先を左から入るわ」

「わかった。こっちはここから右に入る」

 ちょうどいい獣道のところでミリア達と別れる。

 

「それじゃケイト、あとは任せた」

「わかりました。それではライバーが先頭で、アンジェ、モリさん、メラニー、私、ハンスで行きましょう。モリさん、ルートファインディングはお願いします」

「わかった」


 モリさんが先頭から2番目にいるなら心配する事は何もない。

 索敵能力も判断力も信頼できる。

 まあ先頭がライバーなら何も考えずに進んでも何とかなるだろうけれど。


「ライバー、盾下左。牙ネズミ3匹」

「おいさっと」

 ライバーがシールドチャージだけで出てきた牙ネズミを倒す。

 小さい魔獣にはシールドチャージは効きにくいのに流石だ。


「ハンス、回収はお願い。あとは更に先に進むよ。次はケイト、ゴブリンでいいかな」

「お願いします」

「了解。ならライバー、この道をゆっくり前進で」


 何かモリさんとライバーだけでもかなり狩れそうだよな。

 他の人の出番があるだろうか。

 そんな事を思いながら俺は最後尾を歩いていく。

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