第29話 一斉討伐依頼

108 突然の予定

 夏だけではなく秋も農家は結構忙しいらしい。

 麦は終わったがトウモロコシ、大豆や果樹類が収穫時期を迎えるからだ。


 そして草食の獣や魔獣、魔物もそれらを狙って農地に出没する。

 更にそれらを狙って大型の獣や魔獣、魔物も……

 そんな訳で冒険者もやはりこの時期は忙しいらしい。


 しかし俺達冒険者学校の学生は授業がある。

 だから秋のこの時期に俺達までかりだされる事はまずない。

 その筈だったのだが……


「まずお知らせです。突然ですが来週1週間、1の曜日から5の曜日まで、教官及び全校生徒参加による大規模討伐が入りました」


 1時間目、シャミー教官が説明を始める。


「今年は気候も温暖でした。そのため農作物も豊作が見込まれています。

 しかし魔獣や魔物もかなり増えているようです。既に各地で魔物や魔獣による農作物被害が多発しています。

 その為国では冒険者や一部兵士によって大規模な魔物・魔獣掃討作戦を実施する事になりました。

 本校も国から冒険者ギルド本部を通しての要請を受け、これに参加する事となります」


 シャミー教官は全員が聞いている事を確認して、続ける。


「やり方は以前行った野外実習2日目の討伐訓練とほぼ同じです。今回、学校が受け持つ地区が6箇所あります。いずれも片道1日程の距離です。現地には宿泊場所も確保されており、また討伐期間中の食事も準備して貰えるそうです」


 どうやら野宿はしなくてもいいようだ。

 更に期間中は食事代無料。

 その辺は少しありがたい。


「なお行動は野外実習の討伐実習と同様、数パーティ合同で、行動単位ごとに教官か看守者がつく予定です。

 パーティについては野外実習の時と同様、5人から8人編成のパーティを組んでいただきます。今回は実習ではないので調整はしません。3の曜日の午後までにパーティ代表者が名簿を作成して教官室まで持ってきてください」


 その他装備や食料関係についての連絡が続く。

 必要事項のメモをとりながら考える。

 本来のパーティと野外実習時のパーティ、今回はどっちのパーティで行くのだろうと。


 やっぱり順当に元々のパーティかな。

 通常の討伐には完全に戦力過多だけれど気楽だから。

 ショーン達もかなり強くなったからあのパーティはあのままでも問題ないだろうし。


 もっともショーン達は支援業務をやらせるという方法論もある。

 ショーンは調理専従でケイトが治療回復要員、エマが双方の補助という形で。

 その場合はクーパー、ケビン、メラニーは戦力が足りないパーティへの補充要員になってしまうけれど。


 いずれにせよ昼食時に皆で相談だな。


「次に携行装備について説明します。まず必要なのは……」


 シャミー教官の説明はなおも続く。

 俺も忘れないようメモを取り続ける。 


 ◇◇◇


「やっぱり今回は今のパーティ編成の方がいいと思います。野外実習と同じですと自分達の実力を過信してしまいそうになりますから」

「ハンスやミリアが指揮するだけでも強さが変わるしな。ここは無難にいつもの編成だと俺っちも思う」

 

 確かにそれは正しい意見だろう。

 俺やミリアだと自分の実力をいざという際への保険として使えるから。


「うーん、今度こそお昼はショーンの料理かなと思ったのに残念かな」

 アンジェはどういうパーティ編成を考えていたのだろう。


「ただそっちのパーティも今ではかなり強い方だと思うわ。平原や迷宮ダンジョンでかなり経験を積んでいるし、索敵、遠距離攻撃、近接攻撃どれもバランスがいいしね」


「その辺はミリアやハンスに訓練して貰ったのと、フィンの武器のおかげです。私はあの特殊弓が無いと戦力外ですから」

「そうそう、あの特殊弓はいい。攻撃魔法と違って属性関係なく敵に効果がある」

「他の弓と使い勝手が違いすぎるから少し心配だったんだけれどね。うまく使ってくれて僕も嬉しいな」


 確かにあの特殊弓、他の弓とかなり使い勝手が異なる。

 一度試させて貰ったが、射る時にかかる力が思った以上に強く、慣れないと当てる事が難しい。

 それを連射して半分以上当てられるクーパーはかなり練習をしたのだろう。

 クーパーの特殊弓は短くて取り回しこそ楽だが、短い分他の2人のものより当てにくいと感じたし。


「これで決まりなら名簿を書いて出しておきましょうか」

「そうね。早い方がいいと思うわ」

 ミリアとケイトが名簿を書き始める。

 これを教官の誰かに提出すればパーティ確定の筈だ。


「書き終わったら皆で行くか。どうせこの後も迷宮ダンジョンだし」


「それなんだけれどよ。今日は久しぶりに迷宮ダンジョンじゃなくカペック平原に行かねえか? このところずっと迷宮ダンジョンだったしさ。来週に向けて少し勘を取り戻しておきたいと思う訳よ」


「ああ、それならここで昼食食べなければよかった]


 アンジェがそんな事を言う。

 気持ちはわかる。

 この食堂の昼食よりショーンが野外で作る飯の方が遥かに美味いから。


「まあいいじゃないですか。獲った獲物はお金になるんですし」

「そうなんだけれどね。お金では買えない美味しさもあるのよ」

 この辺はショーンとはパーティが違うアンジェとパーティが違うケイトの差なのだろうか。

 それともアンジェの食意地のせいだろうか。

 

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