105 階層主の攻略

 終わったので全員に回復魔法をさっとかける。


「あんがと。大分楽になったぜい」

「なんだかんだ言っていた割に余裕じゃないか。これなら階層主のアークゴブリンも大丈夫だろ」


 歩きながら俺の感想を言わせて貰う。

 皆さん渋い顔をした。


「でもないさ。何せこのパーティ、攻撃魔法を使えるのがショーンとケイトしかいねえ。ケイトの即死呪文は1回しか使えねえし、かと言って接近戦ではケビンやメラニーでも分が悪い。だから近づかねえほうか無難だ。違うか?」


 なるほど、戦力分析はしているという訳か。

 概ねその通りだ。

 だが微妙に自分達を過小評価している。


「なら次は俺が指示を出そう。ただしよほどの事が無い限り俺は魔法を使わない。それで階層主の部屋を攻略するってのはどうだ?」


「ハンスが一緒なら危険はないだろう。でも本当に俺達だけで倒せるのか」

「このパーティ、技能的には悪くないですけれど攻撃力があまりないですよね。私自身、魔物相手には向いていませんし」


 ケビンやエマがそういうのもわかる。

 確かに以前は攻撃力不足だったかもしれない。

 しかし今の罠部屋での戦いを見る限り、既にそんな問題はなくなっている。

 あとは自信がつけばいいだけだ。


「まあ心配するな。実際は皆、自分達で思っているより強い。ただ気付いていないだけだ」


 階段を降りて少し歩けば階層主の部屋の前だ。


「入る時の隊列はさっきと同じでいい。ただ入った後前進するのはショーンだけだ。あとは後列。武器もさっきと同じでいい。


 作戦は次の通り。ショーンは中央の敵めがけて熱波魔法2発。中央の敵が止まらなかったらもう1発。

 中央の敵が止まったら右側の敵にむけて熱波魔法だ。


 クーパーは敵が10腕20mの距離まで来たら左の敵を連射。動かなくなるまで弾が無くなってもいいから連射だ。


 エマとケイトも敵が10腕20mに近づくまで待機。近づいたら右の敵へ連射。


 ケビンとメラニーは指示あるまで最初の位置で待機。以上だ」


「わかったぜ。ただヤバそうなら何とかしてくれよ」

「勿論だ。俺が手を出す必要はないと思うけれどな」

「それじゃ行くぞ」


 先頭のケビンが一歩踏み出す。

 階層主の部屋の入口が開いた。

 先程と同じ順番で中へと入る。

 

 入って来た入口が閉まる。

 ショーンが盾を構えて前に出る。

 魔力の反応が上昇する。

 敵、アークゴブリン3体が出現だ。


「熱波なんだな」

 ショーンの魔法が中央の敵を襲う。

 一撃では倒れない。

 だが明らかに動きが鈍った。


「もう一発なんだな」

 今度は完全に動きが止まった。

 まだ生きてはいるがかなりダメージがあるようだ。


「ショーン、次は右」

「わかったんだな」


 右側の敵向けて熱波が飛ぶ。

「特殊弓開始!」


 3人が特殊弓を放ち始めた。

 近づいてきたアークゴブリン2体の前進が止まる。

 特殊弓と熱波で右側の敵が倒れた。

 ほぼ同時に左側の敵も倒れる。


 一番近づいた敵で4腕8m程度。

 問題なく倒せたようだ。


「ケビン、メラニー、とどめを刺してくれ。ショーン、とどめをさした敵を焼いて魔石を回収」


「勝っちゃった、んだな」

「そうですね。それもまさかこんなにあっさり」

 

 ショーンとケイトだけではない。

 皆さん同じような感想を持ったようだ。

 だから一応説明しておこう。


「ショーンの魔法は範囲攻撃だ。遠くでは威力が弱くなる代わりに外れにくい。攻撃魔法に弱いアークゴブリンなら2発も当てれば動けなくなるのは見た通りだ。


 あと3人の特殊弓はかなり強い。3発も当たればアークゴブリンでも動けなくなる。


 左側をクーパー1人に任せたのはさっきの罠部屋で腕を確認したからだ。現在の位置だけでなく動きの癖や魔力の方向等で位置予測をしながら射撃しているんだろう。10腕20m以内ならほぼ確実に当てるし射る早さも早い。


 逆に遠くて遅い敵だとケイトの方が当てるようだけれどさ。今回は3体だけだから確実性をとって近づいてから射て貰った」


 計算通りという奴だ。


「それにしても想像以上にあっさり行ったぜ」


「今の戦法はもっと敵が多くても通用する。敵もアークゴブリンだけではなくコボルトあたりまでは大丈夫だ。オークくらい大きくなると攻撃魔法に耐えるし特殊弓をもっと当てる必要が出てくるけれどな。その分的も大きくなって狙いやすい」


「それにしても指揮がハンスというだけでこれだけ変わるんですね」


 いやケイト、そうじゃない。


「という訳で魔石を集めたら一度出て、もう一度この部屋挑戦だ。今度は俺は指揮しない。ケイトが指揮してくれ。作戦は同じでいい。

 ショーンはあと3発、熱波魔法行けるな」


 回復魔法を全員にかけながらそう向ける。


「えっ、またこの部屋をやるの?」


 そういう事だメラニー。


「こういう事は。それにアークゴブリンの魔石はそこそこいい値段だ。だから問題ないだろう」


「ミリアの方が言葉が厳しいけれど、実際はハンスの方が厳しい。そう言われた理由がわかるような気がします」


 甘いなケイト。

 実は次回で終わりではない。

 俺は今、と言った筈だ。

 2回とは言っていない。


 実はショーンが魔法を使えなくなってからが本番だ。

 攻撃魔法なし、特殊弓と接近戦で倒す方法も経験して貰う。

 更に次は同じ条件で罠部屋にもチャレンジだ。


 攻撃魔法の使い手が少ないこのパーティだ。

 その経験はいつか必要になるだろう。

 俺の計画に気づいている奴はまだいない……

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