104 最初の罠部屋攻略

 ミリアとの夜狩りが終わって帰ってきた後。

 俺は寮の自室でラトレ迷宮ダンジョンの情報本を開いていた。


 フィンは言った。

 迷宮ダンジョンを『この世界で生きていく人の訓練にも適するように作られている』と思っていたと。

 なら迷宮ダンジョンの先の階層はどうなっているのだろう。

 そう思ったからだ。


 第16階層から第20階層までは第12階層とほぼ同じ。

 蒸し暑い環境で、敵が少しずつ強くなっていく。


 第21階層から第25階層は第13階層と同じ環境。

 砂漠の中、敵がやはり強くなっていく。


 第26階層からは第35階層まで10階層ほど続く。

 環境は第14階層と同じくやや寒い。

 第36階層から第40階層は第15階層と同じかなり寒い環境だ。


 第41階層からはまた様相が変わるらしい。

 同じように天井が高く空が見える階層。

 だがあるのは無人の集落のようなもの。

 敵として出てくる相手は人型の魔物が中心となる。


 階層ごとに集落の発展度が変わっていく。

 第49階層は現実の街より更に進んだ街で、しかもそれが戦争の後のように崩壊している状態だそうだ。


 第50階層、つまり行くことが出来る最終階層については『理解困難な階層』と記されている。

 経路そのもの一本道だが、そこに存在する物が理解しにくいものらしい。

 そして最後、第50階層の階層主の部屋には地竜がいる。

 情報本に書かれているのはそこまでだ。


 第40階層まではフィンが言っていた事の続きだ。

 ならそれ以降は何を意味しているのだろう。

 そういった集落は何を意味しているのだろう。


 俺達が日常の中で行くことが出来る範囲には限りがある。

 学校を卒業するか長期休みの間でもなければエデタニア近辺を離れるのは困難だ。

 フィンが言ったような海の先、境界山脈の先なんてとてもいけない。


 だがそんな俺達でも平日に行くことが可能な『その先』が実はもうひとつある。

 迷宮ダンジョンだ。

 迷宮ダンジョンの深層、第50階層以降。

 これはきっと海の先、境界山脈の先と同じような極限だ。


 なら目指してみる事に意味はあるかもしれない。

 いや、意味という単語は適切ではない。

 知らない事を知りたい、そういう欲を満たしてくれるかもしれない。

 そう言うべきだろう。

 実際に第50階層以降に入る事が出来なくとも。


 最近の俺達の活動は迷宮ダンジョンが中心だ。

 平原よりも稼ぎやすく、そこそこ強い敵が多いから。

 ならより下層を目指してみてもいいだろうか。

 勿論安全には十分注意をして。


 この件は後でミリアとも相談をしてみよう。

 だが明日の迷宮ダンジョン活動では俺はショーン達と浅い層を担当だ。

 その辺はミリアと約束したし、仕方ない。


 ◇◇◇


「いきなり第5階層というのも緊張しますね」

「一度第4階層の罠部屋まで戻るんだよな」

「ああ。まずは罠部屋で収入確保とウォーミングアップだ」


 本日のこっちのパーティはフルメンバーだ。

 つまり俺を入れて合計7人編成となる。


「罠部屋はウォーミングアップというのとは違うと思いますけれど」


 ケイトから控えめな抗議が入る。

 だが問題ない。 


「もう何度かクリアしたんだろ。ミリアの援護無しで」

「まだミリアの指示や援護無しでは1回だけよ」


 メラニーの返答。

 しかしやっぱり問題ない。


「1回出来たなら充分だ。罠部屋の出現パターンは毎回ほぼ同じ筈だからさ。

 今回も俺は指示その他一切しない。最後尾で自衛だけするから指示役は誰か頼む」


「罠部屋だったらケイトだな」

「そうね」

「僕もそれがいいと思うんだな」


 なるほど、こっちのパーティでは指揮役はケイトが担当しているのか。

 でも罠部屋だったらというのが気になる。


「参考までに罠部屋で無い場合は指揮担当は誰なんだ?」


 聞いてみた。


「それ以外の場合はクーパーです。私より索敵範囲が広いですし、敵が何でどれくらいで接触するかの判断も早いですから。ただ私より近接攻撃も連射も得意なので、敵が多い罠部屋の場合はクーパーに支援攻撃全般を担当して貰っています」

 

 なるほど。

 うちのモリさんとフィンの関係とは少し違うのか。

 うちの場合もフィンとモリさんそれぞれ得手不得手が少し違うけれど、他の面子がその分をカバーできるからな。


「それでは中で前後2列になるよう、いつもの隊列で行きましょう」


 ケビン、クーパー、ショーン、ケイト、エマ、メラニーの順で罠部屋へと入る。

 俺はメラニーの後だ。


 俺が入って少しして背後の扉が閉まる。

 ケビン、ショーン、メラニーの3人がさっと前に広がった。

 前衛3人が広がって後衛3人をカバーする形だ。


 さて、俺はメラニーの右横方向に少し離れる。 

 それでは戦い方を見せて貰おうか。

 

 部屋のあちこちで魔力が一気に反応した。

 ケイブバットとスライム、ポイズンフロッグが沸き始める。


「ショーン、前上方向に熱波。ケイトは右側のケイブバットに集中してください」


 なおケビンは既にガンガン特殊弓を放っている。

 こちらもケイブバットを主体に攻撃しているようだ。


 スライムとフロッグは極端に動きが遅い。

 だからケイブバットさえ倒せばかなり楽になる。


「熱波なんだな」


 大盾を構えたままショーンが魔法を起動した。前方に広がって十匹以上のケイブバットを一気に落とす。

 

 左右に回り込んだケイブバットはケイトとケビンで半分近くまで減らした。

 ただケイト側の方が若干バットが残っている。


 接近したケイブバットが前衛3人に襲い掛かる。

 ショーンは盾で防ぎながら魔法で、ケビンは槍、メラニーは双剣で倒していく。

 なるほど、メラニーの方が手数が多い分、多少敵が多くても問題ない訳か。

 勿論敵が弱い場合に限るけれど。


 およそ20数える位の間でケイブバットは一掃された。

 あとは動きの遅い魔物ばかりだ。


「ショーン、一掃」

「わかったんだな」


 再び熱波が飛んでいく。

 今度は少しずつ方向を変えて3発。


 中央方向にいた魔物は全滅、左右の端方向にいた魔物も弱って極端に動きが遅くなった。


「ケビン、メラニー」

「OK」

「わかったわ」


 2人が列から出て倒していく。


 最後に死骸を集めてショーンの魔法で焼く。

 残った魔石を取れば罠部屋、攻略完了だ。


 全体にセオリー通りのそつない戦い方だった。

 もうこの部屋レベルなら問題なさそうだ。

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