103 僕は知りたい

 帰り道。


「今日通った階層や罠部屋って、何の為にあると思う?」

 俺の横にいたフィンがそんな台詞を口にした。


「考えた事が無かったな。罠部屋は魔素の集中処理用だという説があるらしいが」


「それなら迷宮ダンジョン内の広い範囲で魔物を増やせば済む事だよね。罠部屋に定期的に冒険者が入るなんてのは期待できないから」


 確かにフィンの言う通りだ。

 俺は頷く。


「第10階層までは下へ行くごとに少しずつ難しくなるという仕組みだったよね。まるで初心者用の練習課題のように。違うかな」


 俺は頷く。そして頷きついでに思いつく。


「なら罠部屋や階層主の部屋はどういう意味になる」

「その階層までに出てくる魔物が出る実在の場所で、出会う可能性を否定できない驚異の示唆ってところかな。それでも注意していれば避ける事が可能だという事を、回避可能な罠部屋や階層主の部屋で示しているって感じで」


 言いたい事はわかる。

「つまり迷宮ダンジョンは冒険者の訓練用として出来ている。そう考えている訳か」


「もちろん迷宮ダンジョンの目的がそれだけだとは思わない。実際に魔素マナの処理にも関わっているだろうとは思うよ。ただ迷宮ダンジョンの構造は冒険者をはじめ、この大陸で生きていく人の訓練にも適するように作られているんじゃないか。そう思っていたんだ」


。という事は疑問が出てきた訳か」

「うん」

 フィンは頷く。


「この大陸に関してはほぼ隅々まで人が行き来して調べられているよね。その中には第12階層からのような寒すぎる場所、暑すぎる場所、乾き過ぎた場所は無い。それはハンスも知っているよね」


 俺は頷く。その通りだ。高山の頂上部分であってもそこまで極端に寒い場所は無い。

 そう思って、フィンが考えている事に気づいた。


「ならフィンは第12階層から第15階層までの状態は、存在する場所だと思うのか? それとも存在する可能性がある場所だと思うのか? 存在した、存在した可能性があった場所だと思うのか?」


「どれも可能性は否定しないけれどね。存在する場所だと思いたい、かな」


 フィンはそう言って続ける。


「この大陸の周りのほとんどは海に囲まれているよね。でも海の深い部分には魔物が出る。船上からはどんなに強力な冒険者でも魔物に勝ち目はない。だから大陸から10離20km以上離れた場所には船は行けない。そうだよね」


 俺は頷く。その通りだ。


「大陸の北東部は海に挟まれつつも細長くなっていて続いている。でもそこには境界山脈があって先に進めない。強力な魔物や魔獣、険しすぎる山があるから。冒険者でも到達できたのはアンダナ公国のパス・ダ・ラ・カザまで。

 その事もきっとハンスは知っているよね」


 俺は頷く。


「だから海の先、境界山脈の先には何かがあるのかもしれない。ひょっとしたら他の大陸に行けるのかもしれない。そこには第12階層からのような世界が広がっているのかもしれない。違うかな」


「可能性は否定できない。確実にないと言えないのと同じくらいに」

「その通りだよ」

 フィンは頷く。


「だから試してみようと思うんだ。ハンスやミリアのおかげでかなり強くなれたしね。これでも足りないかもしれないけれども。


 この大陸より先に行ける可能性があるとすると、やっぱり境界山脈経由だと思う。海の上や空で魔物や魔獣と互角以上に戦う方法を思いつかないから。


 かつて鉄で船を作って沖を目指した冒険者がいたらしいけれど、試験航海の時点で帰ってこれなかったらしいからね。

 だから卒業して時間が出来たらアンダナ公国に行って、パス・ダ・ラ・カザの先を目指してみるつもりなんだ」


 俺とは目的が違うが、目指す場所は同じようだ。

 だがその事を言う前にフィンに聞きたい事がある。


「フィンは何故、パス・ダ・ラ・カザの先を目指そうとするんだ。危険だし、得になりそうな事は何もないだろう。むしろ今の知識と能力を活かして大陸で生活した方がよっぽど楽な筈だ」


「それはハンスの本心かな? 違うよね、きっと」

 フィンはそこで少し間を置いて、そして続ける。


「理由は単純、知りたいからだよ。それ以外何もない。得だとか損だとかそんなもの関係ない。ただ僕は知りたいから。その先に何があってどうなっているのかを見たいから。


 僕が新しい装備を作るのだって、元々はそうだったんだよ。僕は力も無いし身体も大きくない。だから最強の冒険者より遠くへ行く為には工夫が必要だって。


 最初は魔法も使えないし技術力も低かった。だから実際に使える物を作れるようになったのはこの学校に入る少し前からだけれどね。作れるようになったらこれも結構面白いという事で、つい作る方に重点置いちゃった時期もあるけれど」


 なるほど、理解した。

 知りたいと思う事も理由にしていいのだと。

 なら俺が遺跡で調べたい、あの伝説について更に知りたい。

 そう思う事も理由にしていいのだろう。

 少なくとも普人なら。


「今日行った階層は前から行ってみたかったんだ」


 フィンの話は続いている。


「この大陸と違う環境で、かつそれに適応した魔獣や獣、小動物や植物がある。これはきっとこの大陸以外の場所がある、もしくはあったという証跡なのじゃないかって。


 だから是非見て見たかったんだ。実際に目で見て、単に想像で作り上げただけの環境なのか、実際にあった、あるいはある環境なのか確かめようと思って。


 パーティ全員がより強力になった今こそそれが出来ると思ったんだ。だからモリさんには申し訳ないけれど、今日は先へ先へと進ませて貰った訳だよ」


 それで今日はやけに積極的だった訳か。

 全部了解だ。

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