102 罠部屋の攻略

「もう次の階層を攻める時間はないだろうなあ」

「なら階層主の部屋を攻めようぜ」

 モリさんとライバーの会話はいつもの調子だ。


 だがライバーは気付いていない。

 モリさんはきっと気付いていて、その上であえて言わなかったのだと思うけれど。


「でも罠部屋もあるよね。疲れたけれど出来ればどっちか片方だけでも攻めたいな。両方は流石にやめた方がいいと思うけれど」


 フィンが罠部屋の存在を口にしてしまった。

 モリさんの表情筋が一瞬だけひくっと動く。

 やはりわかっていて言わなかったようだ。


 モリさんの気持ちはわかる。

 今までの罠部屋に比べて明らかに高く広い空間。

 感じる気配の強さ。

 全ての感覚が今までの罠部屋とは別物と感じている。


 中に何が待っているのかは情報本でわかってはいる。

「確か魔狼がいっぱい出るんだよね。白銀魔狼1匹、白魔狼4匹、灰魔狼20匹以上だっけ」


 間違いない。

 フィン、明らかに罠部屋に誘導しようとしている。

 勿論俺達の今のパーティで苦戦するとは思えない。

 油断さえしなければ被害なく倒せるだろう。


 ただフィンはいつもは慎重派だった筈だ。

 モリさん程ではないけれどこういった場所は避けるのが普通だった。

 何か今日はいつものフィンと違うと感じる。

 進化して職業変更ジョブ・チェンジした事で何かが変わったのだろうか。


「なら今日は罠部屋ね。その方がきっとお金になるし」

「だな。今日は下の罠部屋パスしたから儲けも少ないしよ」

 前衛2人は予想通りの反応。


「情報本には入らない方がいいと書いてあったけどなあ」

「でも今のこのパーティなら問題ないよね」

「確かにそうかもしれないけれどさあ」

 仕方ないな、これは。


「行くか。ただここの魔狼は連携して攻撃してくると情報本にあった。こっちも慎重に行こう。隊列は前衛3後衛2で」

「わかった」

「まあ俺は前から来る奴を叩くだけだけれどな」

 

 ライバーは進化して職業変更ジョブ・チェンジした結果、更に脳筋方向へと行ってしまった。

 ただこれを退化という訳にもいかない。

 確かに前衛としては強くなっているから。

 ちょっとした怪我や状態異常は自動回復するし攻撃力と防御力はもはや冗談レベルだし。


 フィンが壁の一部を押す。

 罠部屋の入口が開いた。


「さて行くぞ」

 やる気満々のライバーを先頭に罠部屋へと入る。


 入ってすぐは洞窟上の通路。

 10腕20m程度で広い場所に出る。

 この階層の他の場所と同様に空がある空間だ。

 広さはそこまで無いけれど、天井の高さは同じ。

 気温や植生は第11階層と同じく俺達が住んでいる場所と同様だ。


「囲まれている。後ろは頼む」

 出てきた洞穴の上が崖になっている。

 崖の高さは2腕4m程度。

 上にやや平らな場所があるようだ。

 そこに魔狼5匹の気配がある。


「よっしゃ行くぜ」

 前から魔狼が一列に壁状になって攻めてきた。

 ライバー以外の3人から攻撃魔法が放たれる。

 心配する必要は無さそうだな。

 俺は自分の担当範囲の魔狼相手に専念することにした。

 勿論全体の状況を常に見ながらだけれども。


 ◇◇◇


「勿体ないよな。焼けた分は安くなるだろうしさ」

「皆が皆ライバーみたいに腕力だけで倒せる訳じゃないのよ」

 

 そんなしょうもない口論が出る程度には大変だった。

 もしくはその程度の敵だったと言うべきか。

 罠部屋を無事クリアして、俺の自在袋に死骸を収納。

 転移魔法陣で1階へと戻る。


 既にミリア達は受付についていた。

「今日は遅かったわね。何処へ行っていたの?」

「第11階層から第15階層まで。新しい罠部屋も1つ攻略したかな。階層主は今回倒してない」


 ミリアの表情が変わる。

「えーっ何それ。今度階層主の部屋を攻める時は私もそっちに行くわよ。ハンスと交代して」


「とすると次回こっちは一段と厳しくなるかなあ」

「何でそう思うの?」

「ハンスは言葉はミリアより大人しいけれどやる事は厳しいって言っていたから」


 おいおい待ってくれ。


「そんなつもりは無いけれどな」

「いや、あの雨の日の魔法特訓。あれは鬼だった」

「そうそう。あの『地獄へ、ようこそ』と言った時の笑顔、今でも時々悪夢で見る」


 さては前衛2人が噂の出所か。

 そう思ったらモリさんもふいっと明後日の方向を見た。

 まあいい、追及しないでおこう。


「そっちはどうだった?」

「前回と同じよ。第1階層から順に行って第5階層まで。こっちのパーティは索敵が完璧だから楽でいいわ」

「罠部屋2回はちょっと厳しかったです」

「その分儲かったからいいでしょ」


 なるほど、大体のレベルはわかった。


「なら次回は転移陣で第5階層まで行って、罠部屋と階層主に挑戦した後、第6階層体験だな」

「第6階層の罠部屋なんていいよね。あそこは武器を持ったゴブリンが大量発生するからいい儲けになるし」


 おいおいアンジェ、それはまだショーン達には厳しすぎる。

「第6階層の罠部屋はおいておいて、第5階層の階層主を自分達だけで倒せるかが課題だな」

「あれって結構強いし速いよね」


「ショーンに盾役をやって貰って、ケビンとメラニーで攻撃でしょうか」

「だよな。俺っちやエマで支援でケイトはいざという時の為に待機で。それしか無いよなあ」


 そんな話をしつつも魔狼をはじめとした今回の収穫を受付に出して、報奨金を計算して貰う。


「第15階層の罠部屋1回と第6階層の罠部屋2回がほぼ同じ収入か」

「ゴブリンは素材にならないけれど、魔狼は素材になるからなあ」

 無事収入をキープしたので、全員で迷宮ダンジョンを後にした。

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