98 職業変更

「面白いわね。私も付き合わせてもらっていいかしら」


 意外な反応が返ってきた。

 遺跡へ行ってみたいというのは俺のごく個人的な夢というか希望だ。

 ミリアには関係ないし、危険に巻き込んでしまう事にもなる。


 しかしミリアがいてくれると確かに楽になる気がする。

 戦力になるという意味だけではない。

 表現しにくい何か、俺が普人の世界に来て感じるようになった何かが一緒にいてくれるといいなと感じるのだ。

 うまく言語化できないし、正面向かって言える事でもないけれど。


 だから返答は一言にとどめる。

「ありがとう」


「更に言うと他の皆もついてくると思うわよ。フィンなんてそんなの好きそうだし、ライバーは魔獣が強いというだけでノリノリなんじゃないの」


 確かにそうかもな。


「楽しそうだな」

「そうね」


 さて、少し早いが4人の方はどうだろう。

 見ると魔力はかなり安定してきたようだ。


「そろそろ大丈夫そうだ。進化スペルドをかけてしまおう」

「わかったわ」


 2人で天幕の中へ。

 4人に近づいて再度魔力を確認する。


「フィンから行くか。一番安定しているようだから」

 魔法は賢者になる際に自動的に頭に入ってきている。

 無詠唱であっさりと起動。

 フィンの身体を魔力が包む。


「かなりの魔力を感じるわね。起動は簡単そうに見えたのに」

進化スペルドそのものは進化する本人の力らしい。魔法は進化を開始する単なるきっかけに過ぎないようだ」


 さて、次はアンジェかな。

 そんな感じで順番に進化スペルドの魔法をかける。

 最後にモリさんにかけて、また待ち時間だ。

 天幕内というのは微妙に気恥ずかしいし、警戒という意味もあるので外へ。

 立っているのもなんなので、魔法陣を描いた近くへと腰掛けた。

 ここは土を焼いてあるので座っても服が汚れない。


「そう言えばミリアは賢者まであとどれくらいだ?」

「生命魔法が初級で風魔法が中級ね。他は何とか上級になったけれど」


「なら今年度中には賢者になれるな」


「生命魔法が自信無いわ。一応授業で取っているけれど」


「俺もそうだった。ドワーフの里への行き帰りで回復魔法を使いまくってやっと上級になれた」


「なら冬休みに頑張るしかないわね。そうでなければ休息日にでもちょっと疲れる事をするか」


「この辺の狩り場はほぼ行っただろ」


「あとは迷宮ダンジョンね。メラニー達を4階層や6階層の罠部屋で何度も鍛えれば回復魔法が必要になるかしら」


「あまり無茶するなよ。あのパーティはモリさん達と違ってレベルは普通なんだからさ」


「まあそうだけれどね。ただ戦い方次第でその辺位は出来ると思うのよ。それに次の昇級試験でE級の3人は次にD級になってもらわないとね。特にエマは単独でも外に出られるようになってもらわないと。そうすれば自力で薬草を採取する事が出来るようになるわ」


「確かにクーパーとショーンなら次は確実にD級になれそうだしな。エマは特殊弓以外に使うとしたら槍だろうか」


「その辺はフィンに頼んであるわ。特殊弓にも剣や槍としても使えるものが出来ないかって。いざという時に武器を持ち替える隙を無くしたいから」


「フィンの武器と言えばショーン用はまた新しくなったんだっけか」


「そうそう。武器として使いやすい普通の大盾にしたんだって。もう鍋の形をしなくても魔法を出せるようになったから。盾を構えたまま盾の向こう側へ火水風の魔法を使えるからかなり強いわよ、今は」


 前から思っているのだがミリアはかなり面倒見がいい。

 ショーン達のパーティにもかなり目を配っているようだ。


 時折発生するスライムを見つけては魔法で倒して魔石を取る。

 あとはほとんどミリアと話しているだけの状態。

 でもそれが何故か自然に感じる。


 考えてみれば俺の場合、授業と寝ている時間以外のほとんどはミリアと一緒だ。

 そのせいだろう。

 きっと多分。


 天幕内の魔力が動いた。

 誰かが目覚めたようだ。

 これはフィンだな。

 元々のレベルが高かった分、睡眠魔法に抵抗力があるのだろう。

 魔力の流れも安定している。

 無事に進化種スペルドになったようだ。


「それじゃやるか」

「そうね」

 俺とミリアは立ち上がる。


 フィンが天幕から出てきた。 

「どう? 進化した感想は?」


「もう進化しているんだ。確かに身体が軽く感じるね。ステータスも全部2割増し位増えているかな」

「寝ている間にハンスが進化の魔法をかけたのよ。でもステータスは職業変更ジョブ・チェンジすればもっと上がるわ。それで何を選ぶか決まった?」


「一応ね」


「なら早速やりましょうか」

 ミリアがフィンを案内してくれるようだ。

 俺もミリアに頷いて発側の魔法陣へ。


 フィンが魔法陣の中に入り、ミリアが離れた。

 それでははじめるか。


「俺が呪文を唱えた後、神がフィンにこれから変更可能な職業を教えてくれる。その中から希望する職業を選んで神に告げてくれ。それで職業選択ジョブ・チェンジの儀式は完了だ。

 レベルアップと同じように身体を作り変える痛みがあるから、俺が睡眠魔法をかける。起きた時は完全に職業が変わっている筈だ」


「わかった。僕は言われた中から選べばいいんだね」

「ああ」


 よし、それでははじめよう。

神へ申請アプルク・ア・デウス規定22条に準拠リ・ドドアフィア職業を変更マタラ・レ・プラハレ


受諾アセプタ

 俺にはそれだけ聞こえる。

 あとはフィンに説明が流れるのだろう。

 しばらく待つ。


受諾アセプタ申請手続き完了アプルク・コンプレ

 終了したようだ。

 同時に俺は睡眠魔法をかける。

 倒れかかったフィンをさっと抱えて天幕へ。


 フィンは何を選択したのだろう。

 フィンにはどんな選択肢があったのだろう。

 俺の時は魔導士の他には獣戦士と魔獣戦士、狂戦士、探索士だったかな、選択肢は。

 そんな事を思いながら。

 

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