82 鍛冶ギルド直営店

 宿屋のある洞窟は普人の街では商店街にあたるメイン洞窟の一番出口側。

 だから店に行くのは迷わない。


 今歩いているメイン洞窟はそれなりに広い。

 5人で横一列に歩いたとしても問題無い幅だ.

 高さもその際一番端に背が高めの普人が立っても手を伸ばしてかろうじて天井に手が届く程度にある。


 壁や床、天井は掘ったままではなく赤く焼き固めてあるので服が汚れる事も無い。

 所々に魔法照明があって本が読める程度の明るさも確保されている。

 

 洞窟の中なので店が横方向に連なっている訳では無い。

 店がある穴はだいたい50歩以上の間隔で、概ね左右互い違い。

 普人や来訪者を受け入れられる店は穴の入口に普人の共通文字で看板が出ている。

 そのうち1軒の前でフィンは立ち止まった。


「まずはここだね。鍛冶ギルドの直営店だよ。いろんな店の品物が出ているから、まずはここを見てから次に行く店を決めればいいんだって。ブルグハルトさんが言っていたよ」

 なるほど、便利な店があるものだ。

 早速フィンを先頭に中へと入る。


 中はメイン洞窟並に広く、しかも奥行きが入口から見えにくい程長い。

 入口にカウンターがあり、その奥の両側に武器や防具、更には農具、鍋、釜、各種類のインゴットまでとにかく金属製品が種類別にずらりと並んでいる。

 客は俺達の他にも十数人くらい。全員が普人だ。


「凄い。王都の店でもこんなに並んでいる店は無いわ」

 確かにこれは一見の価値があるなと思う。


 フィンは早速剣のコーナーからじっくり見始めた。

 俺も早速見てみることに。

 最初は大剣、次が片手剣、短剣……じっくり見ると時間がなくなりそうなので、まずは全体を見るつもりでささっと見ていく。


 だが途中で俺の視線が止まってしまった。

 王都の店には無かった武器がある。

 刀だ。俺が今使っているのと同じ、細くてややそりが入った両手持ちの剣。

 メディアさんの処以外では初めて見た。

 ここで作っているのか。


 並んでいる刀は3振り。

 説明を見るといずれも同じ鍛冶職人の手によるものだ。

 いずれも値段は正金貨2枚100万円程度。

 高いが買えない金額では無い。


 購入しようか、それとも実際に鍛冶場に行ってみるべきだろうか。

 真剣に悩む。

 でも、そもそもこの鍛冶職人のところは直売をしているのだろうか。

 わからない場合は聞いてみるに限る。

 そんな訳で俺はカウンターへ。


 カウンターにはいかにもドワーフという感じのひげの人が座っていた。

 見てわかりにくいがおそらくは女性だ。

 早速尋ねてみる。


「すみません。あそこに展示してあるジャンナヴェッグさんの工房には、実際に行ってみて買うことは出来ないでしょうか」


「変わったものに目をつけましたね」

 カウンタ―の女性は俺の方を見る。


「今使っている剣はありますか。あるなら見せて欲しいのですが」


 何故だろうと思いつつ俺は自在袋から刀を取り出す。

 女性が一瞬驚いたような表情をした。


「これですが」

「拝見させて貰います」


 カウンターの女性は鞘ごと刀を受け取って、そして鞘から出す。

 全体を舐めるように見た後、俺に尋ねた。


「これは本物の刀ですか」

 おっと、刀という単語をメディアさん以外からはじめて聞いた。

 でも本物のとはどういう意味だろう。


「師匠のような存在から譲り受けたものです。彼女も確かに刀と呼んでいましたけれども」


「これは紹介しないとジャンナヴェッグさんに怒られそうです。紹介状を発行します。少々お待ち下さい」


 どうやら行くことに決定してしまったようだ。

 行こうかどうか考える材料のつもりだったのだけれども。

 でもまあいいかとも思う。

 確かに行きたいとも思ったのは事実だから。

 それにしても『本物の刀』とはどういう意味だろう。


 彼女は何か書類をささっと作成した後、封筒に入れて俺に手渡した。


「こちらの封筒内に紹介状が入っています。あとこちらがジャンナヴェッグさんの工房への案内図になります。所々にある番号を見て歩けば迷わないはずです」


「ありがとうございます」

 封筒と案内図を受け取り、そして今の疑問を聞いてみる。


「ところでこの刀という種類の剣は、ここでは一般的に知られているのでしょうか」


「本物らしい刀を見たのは初めてです。ですがドワーフで鍛冶に携わる者なら、刀の事についてはある程度知っていると思います。ただ詳しくはジャンナヴェッグさんに聞いた方がいいでしょう。私よりも詳しい筈ですから」


 ううむ、刀というものに何かありそうな感じだ。

 メディアさんはそんな事全く言っていなかったのだけれども。

 ちょっと興味がわいてきた。


「ありがとうございました。早速行って聞いてみます」


 でも行く前に一言誰かに言っておこう。

 一番近くにいるのはフィン。

 だが剣を見る目が真剣すぎて声をかけるのがためらわれる。

 だから次に近くにいたミリアのところへ。


「工房を案内してもらったから行ってくる。宿屋で合流する」

「わかったわ」


 よし、では行ってこよう。

 今のやりとりで刀について興味がわいてきた。

 ここは是非とも話を聞きたいところだ。


 あと出来れば予備も1本はほしい。

 もし見て良ければ多少高くても買っておこうと思う。


 今の刀は確かに俺には使いやすい。

 でも替えが無いので慎重に使う必要がある。

 乱戦でも普通の剣以上に有効だが、両手剣に比べると遥かに細い。

 使い方が悪いと折れるとメディアさんにも言われているし。

 耐久性強化の加護はついているから大丈夫だとは思うけれど。


 もう1本あれば気分的に楽になる。

 何なら普段使い用と危険な敵用に使い分けてもいい。

 そんな事を考えながら店を出る。

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