81 ドワーフの里

 ドワーフの里は洞窟の中にあった。

 書物で出てくる典型的なドワーフの里といった雰囲気だ。

 だが実際にドワーフの里に来たのは俺は初めて。

 普人や獣人の集落と何もかも違ってなかなか興味深く感じる。


 なお部屋は個室では無くパーティ用の大部屋。

 ちょうど6人部屋があったのだ。

 この方が広いし話し合いをするにも便利。

 個室を6個とるのの半額程度の料金だし。


 でも一息入れてさあ観光だと言えるような状態では無い。

 部屋に入った時点で皆さん力尽きてしまった。

 俺でさえ足がつりそうな状態だ。


「ケイトがいればもう少し強力な回復魔法をかけて貰えたかな」

 アンジェがベッドに倒れたままそんな事を言う。


「無理だと思うなあ。ケイトだと多分途中でついて来れなくなるだろ」

 モリさんも同様、ベッドに倒れ込んだまま動けない状態だ。


「もう少しあの方法で体力を上げれば何とかなるのかな」

 フィンも表情だけはにこやかだが動けない。

 あの方法とは強化習得レベリングの事だろう。


「無理ね。これは種族の違いだからどうしようもないわ。ラウルさんの忠告の意味が身にしみてわかった」

 ミリアが屈伸をしながら諦め口調でそう告げる。


「膝がもう限界だ。帰りが恐ろしいぜ」

 ライバーもやっぱり動けない。


「今はその事を考えるな。気が滅入る」

 俺も余裕は無いながら、何とか全員に回復魔法をかけている状態。


 ドワーフは小柄だから1歩あたり進む距離は決して大きくない。

 でもその分1歩あたりの時間が短い。

 普人が2歩歩く間に3歩歩くと思えばいいだろう。


 そしてそのペースはどんな場合でも全く変わらない。

 最初から最後まで、急坂の上りだろうと足場が悪かろうと怒涛の下りだろうと。

 そんな歩き方をされた結果が今の状態という訳だ。

 現在、俺とミリアで交互に治療魔法や回復魔法をかけている。


「動けるようになったらストレッチしておいた方が治りが早いわよ」

 ミリアはそう言うしそれは正論。

 だが皆さんストレッチ出来る程の体力は残っていない模様だ。

 

 ◇◇◇


 それでも1時間程経過した後。

 俺とミリアの魔力が半分以下になったかわり、何とか皆歩けるようになった。


「よし、これで買い出しに行けるぞ」

「美味しいものと、甘い物中心で」

「おう、当然だろ」

 元気も出てきたようだ。

 なお前衛2人は意見が一致している模様。


「皆はどうするの?」

「僕は武器屋や防具屋を見てから鉱山ギルドで素材の買い出しかな」

「私もそうするわ」

「私もそうしようかな」

 フィン、ミリア、モリさんはドワーフの里といえばという王道コースの模様。


「俺もそうしよう」

 やっぱりここは王道コースだろう。


「それじゃ6の鐘でこの部屋集合だな」

 夕食の時間を考えると妥当な処だ。

「それでいいわね」

 ミリアが頷く。


「それじゃ行ってくるね」

「それじゃ行ってくるな」

 前衛2人がそうハモって出て行った。


「あれって、つきあっているんじゃないよね」

 ミリアが出て行く2人を見ながら呟くように言う。


「単なる利害の一致だと思うよ」

「私もそう思うな。アンジェは細身系の方が好きだと言っていたしさ」

 これはフィンとモリさんだ。


 その辺の機微というか感覚は俺には今ひとつわからない。

 年中発情期の普人と年に半月程度しか発情期が無い獣人との差なのだろうか。

 ドワーフとかエルフあたりはどうなのだろうか。

 特定の発情期は獣人しかないと聞いた気もするけれど。

 でも今はそんな事よりドワーフの里を見るのが先だ。


「それじゃ行こうか。ブルグハルトさんに一般の客でも入れるおすすめの場所を聞いてきたから」


 フィン先頭で歩き出す。

 何気にこれは珍しいなと思った。

 街中では基本的にモリさん先頭、野外や迷宮ダンジョンでは前衛2人が先頭というのが普通だから。


「そう言えばこの街って名前を聞かないなあ。ブルグハルトさん達も単に里って言っていたけれど、街の名前は何と言うんだろ」


「ドワーフの里はだいたい鉱山か元鉱山にあるからね。必要がある時は街の名前ではなく鉱山の名前で呼ぶんだよ。ここはソシエルマイン鉱山だね」


「この街の部分の洞窟も元は鉱山だったのかな」


「そうだと思うよ。この辺にあった鉱脈は掘りつくしたから街として整備したんじゃないかな。普人が来るようになってからかなり手を入れたと思うけれど。

 たとえばこの辺の天井の高さはドワーフ基準と違うしね。ドワーフ基準の坑道なら中央以外は普人はかがまないと通れない高さの筈だよ。それに坑道の最先端部分は鉱山用ゴーレムが掘っているからね。ドワーフですら立って歩けない高さだって聞いたし」


「でもそんな低いならゴーレムも入れないんじゃないか?」

 モリさんがいい感じに質問してくれる。


「大丈夫だよ。鉱山採掘用のゴーレムは人間型じゃないみたいだから。僕が聞いた事があるのは小型の狼型のゴーレムかな。前脚で土を掘って鉱石を体内に飲み込んで戻ってくるってタイプ。


 でもどこの鉱山も使用しているゴーレムの詳細は秘密にしているんだ。その結果鉱山ごとに独自な形に進化しているんだって。だからここの鉱山がどんな形のゴーレムを使っているのかはわからないんだよ」


 ゴーレムを使っているというのは聞いたことがある。

 でも狼型とか、独自に進化しているというのは俺も知らなかった。


「ここの里って何処かの国に属しているのかな。それともドワーフの国というのがあるのかなあ」


「ドワーフの里は何処の国にも属していないよ。ドワーフそのものも国という体制を持っていないようだしね、少なくともこの大陸では。里それぞれが独立していて、その里同士がゆるく連携しているという感じみたいだよ。更に言うと大きな街でも国王とか市長みたいな存在はいなくて、だいたい長老格の10人位による合議制でやっている感じだね。僕の知っている限りだと」


 フィンはドワーフにかなり詳しいようだ。

 疑問だらけのモリさんにそんな説明をしている。

 元々家が鍛冶屋だからそういう知識があるのだろうか。

 それとも今回の旅行にあたって調べたのだろうか。


 ドワーフは普人が亜人と呼ぶ3種族、獣人、エルフ、ドワーフの中でかなり特異な位置を占めている。

 エルフは普人の前にほとんど姿を現さないし、獣人は普人とむしろ敵対的。

 普人とも獣人ともエルフとも友好的なのはドワーフだけだ。


 この大陸のほとんどの鉱山はドワーフが運営している。

 かつては普人運営の鉱山もあったが、作業効率や精錬の質でドワーフに太刀打ちできず、廃れたらしい。


 故にどの種族であっても金属関係はほぼドワーフを介して入手している。

 代わりにドワーフは他種族から食糧や日用品等を仕入れるという関係だ。

 この状態が確立されていて、普人や他の亜人と競争となる分野が無い。

 これがドワーフという種族をどの種族とも共存可能にしたのだろう。


 こんな感じで獣人も普人と共存できればいいのにと俺は思う。

 やはり生活圏が重なるから無理なのだろうか。

 それとも何か方法があるのだろうか。

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