79 魔熊狩り
ミリア達がいる門近辺の場所から
「この辺でいいだろう。小物が出なくなるまで待って、それからライバー、大声を出してくれ。魔熊は典型的な肉食魔獣だ。人の声を認識すれば必ず向かってくる」
「わかった」
ライバーが頷く。
歩くのを止めてもまだまだ山魔リスが出てきている。
そのたびにライバーの盾や俺の冷却魔法で倒す。
「拾えない分はどうする」
「わかった。モリさんのところへ運ぶ」
倒す合間に風属性魔法で倒れた山魔リスをモリさんのところへ。
「それにしても何で魔物って人に向かってくるんだろうな。大物はともかく牙ネズミ以下は自殺行為だろうになあ」
「人や魔獣ではない獣の発生する
俺が言ったのはあくまで一般的な説だ。
だが俺自身は正直信じてはいない。
魔獣や魔物の攻撃は単なる食事の為というのと違うように感じるのだ。
もっと何というか、自滅してでも相手を滅ぼしたいという本能的な憎しみのようなもの。
あくまで俺の感覚的なものだから人に言える程の自信は無いけれど。
「まあいいじゃないか。討伐は向かってくる方が楽だしさ」
「まあそうなんだけれどさ」
確かにライバーのように割り切れば簡単なのだろう。
わからない事を考えても仕方ないのも事実だ。
それでも気になるというのはわからないでもないけれど。
モリさんだけでなく俺もそうだから。
「さて、出てこなくなったぜ。そろそろやるか」
「ああ、山魔リスを集め終わったらやろう」
確かにこうやって会話していても山魔リスが出てこなくなった。
そろそろいいだろう。
「よし、私の方はもういいよ」
モリさんによる山魔リス回収が終わった。
「それじゃ行くぞ。うおおおおおおおおおおっ!」
ライバーの大声、かなり周囲に響く。
俺ではこうはいかない。
本気になると遠吠え風になってしまうし。
「来た」
モリさんの言う通り、魔熊の進路と速度が明らかに変化した。
岩を避けつつ最短経路でこっちに向かってくる。
速度も今までの倍以上だ。
モリさんは短めの魔法杖を構える。
以前は槍だったが、最近は弓を持っていない時は大抵魔法杖の方を手にしている。
この杖もフィン設計で俺とフィンで制作したものだ。
本体は木製だが内部に極細の
相変わらずこの辺のフィンの知識は謎だ。
でもまあ、今はそういう事を考えている場合ではないか。
岩陰から魔熊が姿を現した。
体長1腕半くらい、魔熊としては標準的な大きさだ。
こっちを認め、勢いよく四つ足で走ってくる。
「
モリさんが魔熊の真っ正面に向けて水属性魔法を放つ。
明らかに魔熊の速度が落ちた。
「行くぜ! シールドチャージ!」
ライバーが盾を横方向に構え、低い姿勢で突進する。
更に腕を伸ばしたその勢いで重い大盾の中心が熊の鼻先に激突。
「むん!」
ライバーは左腕も大盾の裏に沿えて支える。
両腕の筋肉が膨れ上がった。
踏ん張った足がずずっと僅かに滑り、そして止まる。
魔熊はそのままの姿勢で静止。
そしてスローモーションのようにゆっくりと横倒しに倒れた。
「やったか」
俺は魔熊の状態を確かめる。
「衝撃で気絶している。このまま冷却してとどめを刺す」
「すげえな。魔熊相手に力押しで勝つかよ」
モリさんが半ば感心し、半ば呆れている。
「ま、モリさんの魔法もあったしな。それに流石魔熊だ。腕が痺れたぜ」
念の為こっちも状態を魔法で確認してみる。
骨折とか怪我とかは一切無い。
本当にただ痺れただけのようだ。
確かにレベル上げはしたし、ライバーの成長は体力系がメインだった。
でも普人がここまで腕力というか筋力を鍛えられるものなのだろうか。
身体強化魔法を使ったとしても。
「なんというか、体力系も極めればここまで出来るんだな」
「まだまだだ。そのうちオーガと同じ装備でタイマンして無傷で勝てるまでになってやるぜ」
それはもう普人じゃない。
そう思ってふと想像してしまう。
学校へ戻った後、ライバーにこのままレベル上げを続けた場合を。
想像を絶する事になりそうだ。
「よし、次に魔熊に出会ったら、モリさんの魔法無しで勝負だ」
「やめてくれ。常識がおかしくなる」
モリさんの言い分はもっともだ。
思わず頷いてしまう。
「だな。それに怪我したら洒落にならない」
「それもそうか」
そんな事を話しながら冷却終了。
これでこの魔熊も完全に死んだ。
「それじゃモリさん頼む」
「ああ」
自在袋に魔熊を収納して作戦完了だ。
「それにしても本当にライバー、腕は大丈夫か」
モリさんは心配そうだ。
当然だと思う。
俺も魔法で確認しなかったら心配だろうから。
「ああ、なんともない。痺れもとれたぜ」
ライバー自身は全く心配していないようだ。
だが一応モリさんの為に言っておこう。
「生命属性魔法で確認した。骨折も他の部分の損傷も無さそうだ」
「ただこの盾、少し凹んだな。フィンにもう少し頑丈にして貰うか」
確かに見てみると大盾の中心が少し凹んでいた。
正確に中心部分でシールドチャージした証拠でもあるが、その凹みの示す事実に俺は戦慄する。
この盾、頑丈さ第一で作ってあるだけに異常な程重いし分厚い。
中心部は
いくら軟鋼で出来ているといっても、その厚さの鉄が凹むとは……。
「逆にそれ以上は頑丈にしない方がいい。凹むことである程度衝撃を緩和するという役割もあるから」
「そんなものなのか」
「ああ」
ただフィンも想定外だろうなとは思う。
その辺は後程確認しよう。
「それじゃまた山魔リスを倒しながら戻るか」
「そうだな」
俺達は門の場所へ向けて歩き始めた。
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