第25話 ドワーフの里へ

77 フィンについての雑談

 さっそく俺もその紙を読んでみる。

 ふむふむ、どうやらフィンはこの街の外れで鍛冶屋を営んでいるドワーフ達と知り合いになったらしい。

 その辺の経緯は書かれていないが想像はつく。


 そのドワーフが材料の金属塊インゴットを仕入れに行く予定だそうだ。

 目的地は鉱山のあるドワーフの里で、この村から概ね半日程度の場所。

 1日目で行ってドワーフの里に宿泊。

 2日目の昼頃出て帰ってくるという日程だ。

 もし同行するなら出発日はこちらの休みに合わせてくれるそうだ。


「ドワーフの里か。服とか美味しいものとかは無さそうだよね」

「どうだろうなあ。ドワーフについては金属関係に詳しいという事しか知らないしさ。あとは酒にうるさいとか」

「酒にうるさいならつまみとしての料理は美味しいのがあるのかな」

 アンジェの興味の方向は大変わかりやすい。


「ハンスはどう思う?」

「面白そうだな」

 思わずそう答えてしまう。


 ドワーフは獣人と違い、普人の社会とうまく共存しているように見える。

 獣人とその辺の違いを見てみたい。

 無論1泊2日でどれくらいドワーフの社会を見る事が出来るのかはわからない。

 それでもこういう機会はめったにないだろう。


「そうじゃなくて、ドワーフの里に美味しいものがあるかどうかって事だけれど」

 おいおいそっちについての質問かよアンジェ。

 仕方ないので書物で読んだあり合わせの知識を総動員する。


「案外独自の食文化は発達しているらしい。洞窟トカゲの肉とかの他、最近は独自の甘味もあるようだ。鉱山労働等で疲れた時の回復用に甘みのある食物が発達したらしい」


「行くわ」

 アンジェ、即断。

 おいおい最近完全にアンジェ、ライバー化していないだろうか。

 単純になりつつあるという面で。


「私もこの案に賛成かな。フィンも喜ぶだろうしさ」

「俺もだな」

 意見はあっさりまとまった。


「それじゃどんな準備をすればいいのかな」

「特別な準備はいらないと思うなあ。フィンはどうせ金属塊インゴットとか買って帰るだろうから、自在袋束をまた準備していると思うけれどさ」

「そっか。無い装備があってもフィンかハンスが作ればそれで済むよね」

 おいおい。


「あれはこのパーティでしか出来ない独自過ぎる方法だからさ。あまり考えない方が今後の為にいいと思うけれどな」

 うんうんモリさん、いい事を言う。

 そう思ったらだ。


「でも確か野外実習の時、そっちの班は鍋や食器類は全部金属インゴットとして持ち込んで、使う時に金属性魔法で作っていたんだよね」


 アンジェに懐かしい話を持ち出されてしまった。


「あれはフィンが自在袋の容量を極限まで節約するために考えた、常人ではまず思いつかないし出来ない方法だから。金属性魔法を持っていても普通はあの早さで鍋や食器は作れない」


「ハンスでも?」

 アンジェが不思議そうな顔をして聞いてくる。


「無理だ。魔力があって魔法を使えても普通は思った通りの形にするには時間も手間もかかる。粘土で造形するの以上に手間がかかるんだ普通は。自在袋から出す早さで出来るなんてのはフィンくらいだ」


 あれが金属性魔法持ちの標準だと思ってもらっては困る。

 どういう鍛え方をすればあれが出来るのか、俺も知りたいくらいだ。 


「でもその割にフィン、攻撃魔法はからきしだよね」

「それは私も謎なんだけれどな。何故だと思う?」

「俺もわからない」

 そこがフィンの謎? だ。


 フィンは元々そこそこレベルが高かった。

 そこに強化習得レベリングを数回行った結果、現在のフィンのレベルは既に50近い。

 魔力だけなら学校入りたての頃のミリアに匹敵するくらいはある。

 ただし何故か攻撃魔法は一向に上達しない。

 弓の腕と索敵能力、金属性魔法の能力はかなり上がっているのに。


「でもフィンの魔法って便利だよね。装備を常に更新してくれるし手入れもしてくれるし」

「そうだよな」

 モリさんも頷く。


 確かに俺の装備以外は機会あるごとに更新されている。

 わかりやすいのがライバーの盾だ。

 フィンと俺との共作だったスパイクシールドから何度も改良した結果。

 今は全体が鉄製のやたら重くて頑丈な代物になっている。

 

 スパイクを廃止したのはライバーがシールドチャージを使いこなせるようになったから。

 タイミングをあわせて盾を構えたまま高速で押し出すだけで、牙ウサギ程度の魔獣は失神する。


 頑丈になったのは魔小猪イベルデミボアばかりか魔猪イベルボア戦鹿ワーディアの突進すら止めてしまう事を求められた為。

 今のライバーの腕力ならこの非常識な重さの盾でも問題ないという判断だ。

 実際、奴は学校の大盾の三倍以上重いこの盾を余裕で振り回す。


 アンジェの魔法槍も以前より柄も穂先も長くなっている。

 アンジェの腕力と槍術、魔力に対応していった結果だ。

 モリさん用の弓や矢も同様。

 照準器がついたり弓そのものが強くなったり。


 なお最近、ついにミリアもフィン製作の魔法槍を使い始めてしまった。

 ちなみにミリア専用はアンジェ用とはかなり形が異なる。

 穂が剣並に長く少し反りがあり、柄が短く、全体に細身。

 俺の刀の柄部分を伸ばしたような形状だ。

 フィンによればミリアの魔力と剣術を十二分に活かせる設計とのこと。


『だってこの槍、便利なのよ。氷を纏わせても炎を纏わせても使えるしそこそこの魔法杖と同じくらいの操魔力もあるし。剣の操法も槍の操法でも使える。近接戦でも使えるし魔力を大目に流せば間合いも伸ばせるしね。欠点は一つだけ。これを使い出すと普通の剣や槍を使えなくなりそうな処よ』

 そうミリアは言っている。

 

「夏休みが終わったらショーン達のパーティも装備変更かもね。あそこもフィンの装備の便利さに慣れているから」

「放っておいてもフィンが自分で改良点を聞きに行くだろ。それにクーパー達も改良するとどれだけ使いやすくなるか、わかっているだけに断れなくなるしさ」


 確かにそうなるのは目に見えている。

 どうせ休息日には一緒に狩りに行くだろうし。

 モリさんとアンジェの会話に俺も頷いてしまった。

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