73 寝る前のお仕事
それ以上はゴブリンも他の魔物・魔獣も近づいてこなかった。
それでも一晩寝ないでいると眠くなる。
翌朝、ミリア達と交代した後はまっすぐ家へ。
でもまだ寝る訳にはいかない。
最後の仕事が残っている。
「さて、甘焼きふわふわトーストとつまみの量産をするか。夕食つくりは起きてからでいいよな」
「だな。それじゃハンス、手伝い頼む。アンジェは買い出しと出来上がった差し入れを持っていく担当でさ。買い出しするものはメモを書くから」
眠る前のお仕事、開始だ。
「ハンスには甘焼きふわふわトーストを頼んでいい。私は唐揚げを作るからさ」
「わかった。今度の差し入れは唐揚げか」
「ああ。毎回串焼きを買ったら高くつくだろ。唐揚げなら割と皆食べられるしさ」
唐揚げはショーンに教わった料理のひとつだ。
下味をつけた肉に小麦粉とジャガイモ粉を混ぜたものをつけ、高温の油に入れて仕上げるというもの。
この高温の油で仕上げる料理方法を揚げるというそうだ、
この揚げるという料理というのはショーンに作って貰ったものが初めてだ。
他にないのかと思ったらここウーニャの村では山魔リスを揚げたものがあった。
でもショーンがやったように粉をつけたり肉を小さく切ったりはしない。
内蔵を取って開いたそのままの肉に下味をつけたものをそのまま高温の油に入れる形式だ。
だからこの唐揚げ、確かに当番の間のつまみとして喜ばれるだろうと思う。
食べやすい大きさだし食感がサクっとして味もかなり美味しい。
うちのパーティ内でもかなり好評なおかずのひとつだ。
さて、俺は甘焼きふわふわトーストの生産にとりかかる。
かなり好評だったし、朝晩持っていくし、うちの3人を入れて合計9人分だし。
だからとにかく数を作っておこう。
「モリさん、今あるパン全部使っていいか?」
「ああ、牛乳や卵、水飴が許せば作れるだけ作っておいた方がいいと思う。一気に数作った方が楽だよな。パンはアンジェに買って来るよう頼んであるしさ」
パーティ食料担当者のOKが出た。
なら作れるだけ作ってしまおう。
卵と牛乳、水飴に甘いハーブを混ぜた漬け込み液をまず作成。
大量に作るつもりなのでかなり多めだ。
これを特製の漬け込み容器に入れて、更に切ったパンを魔法で少し暖めてから入れ、蓋をがっちり閉める。
この漬け込み容器はショーンが料理を作っている状況を見てフィンが作ったもの。
風魔法が使えれば容器の中から空気を出したり余分に入れたり出来る。
中の空気を出して、少しだけ放置した後、空気ネジ蓋を少しだけ開くと中に入れたものに味が早く染みるのだ。
「ハンス、こっちも空気を抜いてくれ」
「わかった」
モリさんが持ってきた漬け込み容器の方も中から空気を抜く。
こっちはきっと肉漬け込み用だ。
さて、漬け込んでいる間に焼く用意をしよう。
鍋というよりは盾という趣の四角い縁のある鉄板にバターを溶かす。
ここで漬け込み液に浸したパンを焼くのだ。
この焼き方もただ熱を加えるだけではない。
ショーンからモリさんが教わった方法がある。
『まずは鉄板を熱くするんだな。バターがジュウジュウ言って泡が出てくる位がいいんだな。そうしたら漬け込み液に浸したパンを置く。この時最初はパンを暖めず、鉄板だけを熱くするのが重要なんだな。表面が固まった時点でひっくり返して焼いて、両面同じ色になったら、パンを含む全体にパンの中に浸み込んだ液体が辛うじて固まる程度に熱を通す。これで完成なんだな』
確かにこの方法だとただあたためたものより美味しいのが出来上がるのだ。
なお唐揚げの方も同様に熱の通し方の手順が存在する。
上手く作れば中がジューシーで柔らかくて美味しいが、失敗するとただの硬い肉になってしまうのだ。
この辺は俺よりモリさんの方が少しだけ上手い。
だから今日は唐揚げはモリさんに任せる。
焼いているといい匂いが広がる。
この匂いが腹の虫をくすぐるのだ。
何せ仕事明けで腹も減っている。
「モリさん、そっち少し貰っていいか」
「少しくらいは大丈夫だろ。私も少し貰うかな」
2人でちまちまつまんだりしながらとにかく作成。
自在袋があるので作ってすぐ入れればいつでも作りたて状態だ。
「これくらい作っておけば終わるまで持つかな」
「雨がいつやむかだよな。1週間は続かないと思うけれどさ」
「9人分って多いよな」
「ああ。ショーンは毎回12人分以上をあの時間で作っていたけれどさ。毎回絶対真似できないと思いながら手伝っていたけれど」
そんな事を話してながら肉もパンもほぼ終わり処でアンジェが帰ってきた。
「いい匂いがする。一つ味見するね」
唐揚げとふわふわトーストをさっと口に運ぶ。
「うん、唐揚げは85点でふわふわトーストは80点。ショーンのを100点としてね。唐揚げはもう少し中のお肉が柔らかい方がいいかな。トーストは表面がもう少しかりっとしている方が好み」
結構自分ではうまく出来たと思ったのだけれども。
でも比較対象が比較対象だけに仕方ないという気もする。
「ショーンのと比べてその点数なら合格点だよな」
「ああ」
モリさんも同じように感じた模様だ。
確かに奴は料理については別格。
アンジェも同意という感じで頷く。
「まあそうだけれどね。それじゃ今日の差し入れ用、入れて持っていくね」
アンジェが手早くスペアの自在袋に詰めて出て行った。
「それじゃ朝食でも作るか」
「ああ。向こうの3人分も一緒に作っておくよ」
モリさん、お疲れ様だ。
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