67 村付き冒険者の日常狩り

 ここウーニャの村は住宅地だけでなく耕作地や放牧地も含んだ範囲を囲っている。

 魔獣を狩らなければならない範囲もかなり広い。


 そしてミリアの言う通り、山魔リスの繁殖速度は非常にはやい。

 大雑把に見て山魔リスを狩らなければならない場所は3カ所。

 だから3日に1度となると結局、毎日1回は山魔リスを狩る事になる。


「これって楽だけれどさ、こればかりというのも何だよな」

 ここへ来て4日目の朝。

 初日と同じ村の防壁の西北側の門の外で山魔リス狩りをしながら、ライバーがそんな事を言う。


「贅沢いわないの。これでも結構いい収入になるし美味しいじゃない」

「そうそう。やっぱり持ち込みで仕上げて貰うの最高だよね」

 女性陣が言う通り、山魔リスは美味しい。

 収入もあるが彼女達が重視しているのは味の方だ。


 俺達が狩った山魔リスが事務所を通じて店にも出回ってきた。

 あの特に美味しい店2軒でも『本物の魔獣山魔リス』として出てきたのだ。

 普通の山魔リスと比べると若干肉が固め。

 でも脂部分の甘さ、ひと噛みごとにじわっと出てくる汁の旨さ。

 全てが一段上の味だった。


「今日ももう少し狩って、私達用の取り分を確保して帰るわよ」

 ちなみに既に30匹は狩っている。


「こんなに狩って絶滅しないのか?」

「山魔リスはこの時期、強烈な勢いで繁殖するの。成獣は1週間に一度は子を産むわ。それも平均8匹ずつ。子も食物だけでなく魔力を吸って育つから1週間もすれば成獣になる。村のすぐ外だからそこそこ魔力はあるし、この季節は餌になる草なんかも多いわ。しかも斜面が多くて天敵が少ない。だからとにかく全力で狩らないと酷い事になるのよ」

 やけに詳しい。

 案内本ガイドブックを暗記しているかのようだ。

 ここは隠れ村だから案内本ガイドブックなんて無いけれど。


「よく知っているな」

「知っている村で村付きが狩りをさぼって酷い事態になった事があるのよ。山魔リスが増えすぎた結果、山魔狼まで増えて大被害が出たの。冒険者30人規模の討伐隊を出して山魔狼狩りをしたけれど、ただでさえ山岳地で動きにくい地形だし、収まるまでに一般人にも冒険者にも家畜にもかなり被害が出たのよ。だから山魔リスを甘く見ちゃ駄目。とにかくこまめに討伐しなきゃ」


 これは脱走時の村ではなさそうだ。

 貴族時代の領地でそんな事故があったのだろうか。


「要はゴブリンみたいなものかな。勝手に増えるからとにかく狩れと」

「そうね。山魔リスの出る場所はゴブリンは出ないらしいわ。その分の魔力を山魔リスが捕食しているのかも」


「だったら食べられる分だけ山魔リスの方がいいよね」

「そういう考え方はあるかもしれないわね。でもとにかく数が多いからゴブリンより討伐の難易度は高いと思うわ。うちはライバーに盾持たせて歩いて、私かハンスの氷属性魔法、またはモリさんの水魔法で倒せば問題ないけれど」


 確かに襲ってくる数が多すぎて剣や槍では対処しきれないだろう。

 小さくとも魔獣だ。

 魔力によっては分厚い革の装備でも爪や牙を貫通させて攻撃してくる。

 噛まれたり引っ掻かれたりしたら怪我だけでなく病気にすらなりかねない。

 

 ただ倒すのに氷属性魔法を使う理由はそれだけではない。

 傷が無い方が買い取り額が高くなるからだ。


「肉が旨くて毛も使えるって便利だよね、山魔リス」

「確かにそうだよな。服だけじゃなくて毛布や布団の中身まで山魔リスだって聞いたし」

 フィンとモリさんが話している通り、この村では山魔リス素材は余すところなく使われている。

 骨すら焼いて砕いて肥料に使うと聞いた。


「そんな訳であと4往復はやるわよ。今度の目標は左の細長い岩まで、帰りは村の防壁へ真っすぐ向かって、村壁から5腕10m位のところをここまでまっすぐ。今度は私が2番目で魔法攻撃やるからハンスはここで警戒お願い」


 ミリアの宣言にライバーがうっという顔をする。


「また俺が先頭か」


「うちのパーティにはライバー以外に盾役はいないわ」


「足場は悪いし坂きついしで何気に疲れるんだけれどさあ」


 平原では無く山地だから仕方ない。

 ただライバーが言いたい事もわかる。

 踏み跡も何もない岩場や坂道や草地、それも斜面を先頭で歩くのは疲れるのだ。

 おまけに油断すると山魔リスがぶつかってくる。

 

「ならあと1回やったら盾役はハンスに交代するから」


 なに! と思ったがまあ仕方ない。

 ライバーの大盾はかなり重い。

 なまじライバーが腕力強いので、フィンが改良しまくった結果だ。

 だから本気になれば魔猪イベルボアの突進でさえ耐える強度を持つ代わり、モリさんはおろかフィンでも持ち上げられない代物となってしまっている。

 つまりこんなの持ち歩いて山地を歩けるのはライバーの他には俺とミリアだけ。

 しかもミリアだと身体の大きさ的に結構厳しかったりする。


 そして確かにライバーはかなり酷使されている。

 盾役は本来、奴しかいないから。

 少しは面倒をみてやるとしよう。


「わかった。ライバーは休憩してくれ。残り3往復は俺がやるから最後の1往復はミリア、頼む。あと俺の後ろは回収担当だけでいい。だからモリさんとフィンが交代で頼む」


 モリさんとフィンなら魔獣の魔力を見逃す事はない。

 前衛2人はその辺あまり信用が無かったりする。


「そうね、仕方ないわ。それじゃ次はハンスとモリさん、お願い。コースはさっき言った通りで」

「ああ」

 体力は使うがやる事は簡単だ。

 魔力探知で多い場所を選んで盾を構えて歩いていくだけ。

 山魔リスは魔獣だから人の反応で勝手に出てくる。

 氷属性魔法で体温を下げて倒し、回収は後ろの担当に任せる。

 それだけだ。


「それじゃモリさん、これ頼む」

 俺の自在袋を渡す。

「ああ」


「それじゃ行ってくる」

 俺達は歩き始めた。

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