66 1日目の夕方

 本日の収穫は角山羊が大小合わせて6頭、山魔リスが100匹以上。

 なお魔熊や山魔狼は出てこなかった。

「獲物が豊富だからこっちまで出てこないんでしょ」

とはミリアの台詞である。


 午後3の鐘で現場を引き上げて村へ戻り、そのまま事務所へ。

 ラウルさんは事務をしていたが俺達を見るとすぐに立ち上がってカウンターに出てきてくれた。

「どうでしたでしょうか、初日の状況は」


「エスタロック地区近くの谷付近で角山羊6頭を狩ってきました。あとは上の門を出て、山魔リス退治です」

「順番に出していただいて宜しいでしょうか」

「わかりました」


 ミリアは預けっぱなしの俺の自在袋から、まずは角山羊を1頭ずつ出す。

「助かりますね。農作物にかなりの被害が出ていたので。これは丸ごと買取りでいいでしょうか」

「お願いします」


 出して重さと大きさ、程度をメモしては向こうの自在袋束にしまってを6頭分繰り返す。


「確かに。これで被害も収まるでしょう。まずはここまでで討伐報奨金が1頭正銀貨1枚1万円、肉と毛皮、角が総重量80重480kgなので、小金貨1枚10万円正銀貨4枚4万円小銀貨4枚4千円になりますがいいでしょうか」


 妥当な線だなと俺は思う。 

 学校での相場とは微妙に違うけれども。

「ええ、それでお願いします」

 ミリアも妥当だと判断したようだ。


「それでは次に山魔リスの買取りをお願いします」

「わかりました。それではそのまま出してください」

 ミリアは自在袋から20匹ほど取り出す。

 小さいとは言え頭から尻まで俺の肘から手首までの長さはあるし、重さも1重6kg位はある代物だ。

 それだけでカウンターが埋まる。


「これで全部ですか?」

「あと5回分位です」

「それでは私は計量してしまいますので、ある程度場所が空いたら出していただけますか」

「わかりました」

 あとは作業だ。


「相当いましたね。これで少し安心できます。あまりこっち側で増えると山魔狼や魔熊が村に近づいてくる事がありますから。それに山羊と同様、かなり程度がいいようです。これなら肉も毛も文句なく使えます」


 ラウルさんはそう言いながら魔法で大きさと重さを確認してメモしながら自在袋束に仕舞っていく。


「今回は倒したまま持ってきたのですが、魔石を採ったり解体したりした方がいいのでしょうか」

「今回のように魔石を取らず、傷の少ない状態でそのまま持ち込んでいただけると助かります。山魔リスは肉も毛も大変利用価値が高いですから。解体や毛皮なめしの専門職もこの村には多いですので」

「わかりました」


 計って数えて計算した結果、山魔リスだけで報奨金が正銀貨6枚6千円、買取金額が小金貨1枚10万円小銀貨2枚2千円となった。

 山羊とあわせるとかなりいい感じの報酬だ。


「お疲れさまでした。初日からこれだけやっていただけると大変助かります。明日以降もよろしくお願いします」

 こちらも頭を下げて事務所を出る。


「さて、それじゃどうする? 私はちょっとお店とか見て行きたいんだけれど」

「俺は疲れた。帰って休みたい」

 ライバーはかなり疲れた様子だ。確かに本日一番動いたから仕方ない。


「僕もお店を見て行きたいかな」

「私も」

「私もだ」


 ライバー以外は村の店を見てみたいようだ。

 俺も疲れてはいるが、村を歩いてみたいというのは同じだ。

 かつての知り合いを見つけられるかもしれないし、獣人のいる村の様子にも興味がある。

 知り合いを見つけたら魔力を憶えておけばいい。

 そうすれば後で会いに行く事も出来るだろう。


「俺も行こう」

 同行することにした。


「じゃ俺は先に帰って一休みしているぜ」

 1人でもライバーは帰る気だ。

 よっぽど疲れているらしい。


「わかったわ」

 借りた家の扉は各自の魔法で開けられるから問題ない。

 ライバー以外の5人は商店街っぽい通りへ。


 やはり一番賑やかなのは食料品を扱う店だ。

 野菜や肉等の材料だけではない。

 調理済みの惣菜系も結構出ている。


「あれって俺達が狩って来たのと同じ山魔リスかな」

 結構あちこちの店で出ている大きい肉だ。

 焼いたり揚げたりしているが、よく見ると四肢を広げたネズミ的な形だ。


「多分そうよ。私が知っている村でも毛を剥いで尻尾を切った後、焼いたり揚げたりしていたわ。肉の周りに脂肪が多いから、削いで揚げたり焼いて余分な脂を落としたりするのよね。案外美味しいわよ」

 

「そう言えばショーンが牙ネズミをよく半身揚げにしていたわね。あれ、街ではほとんど見ない料理だったけれど、この変種なの?」


「そうかもしれないわね。エデタニアだと骨とか食べにくい部分は取って食べやすくしているのが普通だけれど」


「どれが美味しそうかな。揚げているのもあるし、そのまま焼いたのもタレをつけて焼いたのもあるけれど」


「揚げたのも下味次第で大分変わるわよ」


「最初は売れている店を探してそこで買った方が無難よね」


 アンジェとミリアが食欲モードに入った。

 俺達残り3人は目線で会話する。

 まあ、仕方ないかと。


 商店街を歩きながら左右の店や行きかう人々を観察する。

 この時間だと獣人と普人の割合は6対4くらい。

 あと少数だがドワーフやエルフもいる。

 此処では亜人も普人も特に差はないらしい。


 ただ商店街そのものはおそらく普人風だと思う。

 俺は生まれ育った獣人村しか知らないのでよくわからないけれど。

 でも、そもそも貨幣を使うのは普人文化が発祥らしい。

 他は今でも物々交換が主で、それで釣り合わない時は家畜や穀物を貨幣代わりに使用しているようだ。

 ドワーフだと金属製品やインゴット、エルフだと工芸品が貨幣代わりになる事も多いらしいけれど。


 ただその辺の知識はあくまで本で読んだもの。

 だから今現在がどうなっているのかは分からない。

 ここの村のように普人と同様、貨幣を使う方が主流になりつつあるのだろうか。

 確かに貨幣を使った方が便利だとは思う。

 少なくとも今の俺は。

 

 そこそこ長い商店街を往復して2軒の店に絞る。

 片方は揚げるタイプでもう片方はタレをつけながら焼くタイプだ。

 どちらの店も常に行列が出来ている。


「それじゃアンジェ、私はこっちに並ぶから。後で合流して食べ比べよ」

「わかったわ。それじゃハンスはミリアと、モリさんとフィンは私と並ぶわよ」

 どうやら1人3匹分と個数制限があるようだ。

 だから俺達も並ぶ要員として付き合わされるようだ。


「買い終わったらハンスの自在袋に入れてまたここ集合ね。美味しそうなフルーツも結構あるようだし」

「だよね。ヨーグルトなんかもちょっと違っていておいしそうよね」

 これは買い出し、当分終わりそうにないな。

 見るとモリさんがこっちに向けて両手を開いて上に向けて見せる。

 お手上げ、そういう意味だ。

 確かにそうだなと俺とフィンは頷いた。


 ◇◇◇


 6の鐘が鳴るころまで商店街をぶらつき、その後やっと帰宅。

 山魔リスは焼いたものも揚げたものも鶏肉と似たような味だった。

 なお選び抜かれた2店の品はどっちも甲乙つけがたい。

 それでもミリアとアンジェは納得していないようだ。


「確かにどっちも美味しいけれど、まだ考慮の余地はあるよね」

「そうよね。本物の味を確かめないと」

 2人は頷きあう。


 何が本物なのか。

 これはミリアとアンジェが仕入れてしまった情報のせいだ。

 この料理の材料になっている山魔リス、実は同じように見えても魔獣とそうでないものがあるらしい。


 味は魔獣の方がコクがあって美味しいそうだ。

『うちのは本物の魔獣の山魔リスだよ。魔力の無い偽物とはコクが違うよ!』

 確かにそう言って売っていた店があったなと思い出す。


 だがそういう店で売っているものも、実はほとんどが魔力無しの飼育もの。

『魔獣は危ないから冒険者が狩らない限り入ってこないよ。だから店で売っているのはほとんど魔力の無い飼育もの。それでもこの店のは美味しいけれどね』

 これはミリアが並んでいる最中、近くにいたおばさんから仕入れた情報だ。


「明日は試しに何匹か売らずに持って帰って、ここで料理ね。モリさんお願いよ」

 料理は苦手なアンジェに頼まれててモリさん、苦笑。


「仕方ないな。ハンス、手伝ってくれ」

「わかった」


 このパーティの料理番は基本的にモリさん。

 補助は俺だ。

 他の皆さんは料理をしない。

 正確に言うとさせない方がいい。


 まあ今日がんばった分、明日は楽できるだろう。

 だからまあ、問題ない。多分きっと。

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