第23話 村付き冒険者のお仕事

63 新しい作戦

「ここワーニャの村は2本の谷が合流した出合の上側にあります……」


 2日目朝、ラウルさんの説明は村の地形から始まる。

 地形と近隣の普人の集落の位置、普人が入り込む可能性の高い場所、魔素マナの流れ、主な魔物・魔獣の種類と発生場所。

 説明されているうちに俺も大体この村の状況がわかってきた。


「つまり普段は主に上方向からの魔獣や獣を中心に狩っておけばいいのでしょうか」

 折衝も担当してくれているミリアもわかっているようだ。


「ええ。ただし下の堰堤に水が貯まった場合、谷側からゴブリン等が上がってくる事があります。ですので現に雨が降っている場合、もしくは山に雨雲がかかっている際は下方向の警戒をお願いすることもあります。うちの村の衛兵は対人専用で魔物は得意としていませんから」


 谷の出合部分が増水した結果、堰堤に水が貯まり池が出来る。

 その池で普段は下へと降りていくゴブリン等が通行路を遮られる。

 結果、下へ降りる代わりに上にある村方向へ上ってくる可能性がある。

 そういう事だと理解した。


「わかりました。それでは本日、重点的に見た方がいい場所はありますでしょうか」

「山側を向いて左の上側、エスタロック地区に魔獣や獣の被害がやや目立ちます。目撃情報によると一角山羊が谷向いから侵入しているようです。これを駆除していただければありがたいのですけれども」


「わかりました。今日はそこから見ていくことにします」

「お願いいたします。非常の際は伝達魔法で連絡します」

 互いに礼をしてから事務所を出る。


 外に出てすぐライバーが大きく息をついた。

「やっと身体を動かせるぜ」

「そうね。話を聞くのに疲れちゃった」


 そんなライバーとアンジェにモリさんがちょっと苦い顔。

「今のラウルさんの説明、結構重要だしわかりやすかったと思うけれどな」


「考えるのは皆に任せるわ。やっぱり身体を動かしてこそ冒険者よね」

「だな。速くその何とかという場所へ行ってガンガン狩ろうぜ」

 脳筋コンビは態度を変えるそぶりは無い。

 最初はアンジェ、魔法メインでどちらかというと知的なタイプだったと思うのだけれどもあれは錯覚だったのだろうか。

 それとも前衛職は人を脳筋にするのだろうか。


「それでそのエス何とかってどっちだっけ」

「私が先頭で行くよ」

 諦め顔のモリさんが前に立って歩き始める。


 そう言えばエデタニアでも街中はだいたいモリさん先導だったな。

 モリさんが一番エデタニアの街に詳しかったからだけれども、ここでも街中の先導担当はモリさんの模様。

 その辺パーティ内での役割は半ば固定してしまったようだ。


 モリさんは初めての村の筈なのに、迷う様子なく歩いて行く。

 今回のルートは大通りメインという感じだ。

 おかげで俺も行き交う人の顔を何気なくチェック出来る。

 今のところ知り合いはいないようだ。


「場所は山奥だけれど結構賑やかだね。この村」

 確かにフィンが言う通りだな。

 活気があるといった方がいいかもしれない。

 

「建物はあまり大きいのが無いよな」

「でも店なんかの品揃えは悪く無さそうだよ」

「少なくとも野菜類は新鮮だし種類も豊富に見えるなあ。値段も安いしさ」

 ライバーとフィンやモリさんの見方が違うのがちょっと面白い。


 30軒くらいの商店が連なった場所から住宅地に入り、そしてすぐ畑が広がる地区になる。

 こういった造りはエデタニアとは明らかに違う。

 かといって俺が昔いた獣人村ともかなり違う。

 あの村は自給自足と物々交換メインで商店街なんて無かったから。

 このウーニャ村が普通の村というものに近いのか。

 それともこの村が特殊なのか。

 今の俺ではまだわからない。


 さて、そろそろ仕事モードに入ろう。

 魔獣らしい魔力は既に検知している。


「さて、どうするの、モリさん、フィン。2人とも魔獣を確認出来たわよね」

 ミリアの質問に2人は頷く。

「ああ。でも妙な場所にいる。多分谷間の崖の中腹だ。あそこで追いかけるのは無理そうだな」

「そうだね。魔法と弓で遠距離攻撃かな。近づければ、だけれど」


 2人の結論は正しい。

 ただし2人の現状では、だけれども。


「さてハンス、どうする?」

 このミリアの質問、おそらくは隠形魔法や気配隠匿魔法を使うか聞いてきているのだろう。

 そしてこの場合、答えは簡単に出る。


「被害を増やすわけにはいかない。隠形魔法と気配隠匿魔法を使おう」

「あ、私をつけてきた際に使ったアレか」

 モリさんは気づいたようだ。


「そうか。ハンスやミリアなら実用レベルで隠形魔法も気配隠匿魔法も使えるんだね。でもあれをかけるとパーティの他の人にも感じられなくなるよね。それは危険じゃないかな」

 フィンの言う通りだ。


「ああ。だからその辺は工夫する。ミリア、俺が説明していいか」


 ミリアは頷く。

「お願いするわ。どうせ考えている作戦は同じだと思うし」

 なら俺が説明しよう。


「隠形魔法も気配隠匿魔法は確かに便利だ。だが欠点がいくつかある。

 ひとつは今、フィンが言った通り、魔法をかけると自分達のパーティにも見えないから同士討ちをしてしまう可能性が高い事だ。

 もうひとつは音や魔力の変化で相手に感知されてしまう事だ。こういう人や獣の少ない場所では動きながら使う事は難しい。ある程度の距離、おおむね10腕20m程度で向こうに察知されてしまうだろう。街中のような人の気配が多い場所なら別だが。

 更に言うとこれらの魔法を使った状態で攻撃魔法を使う事もお勧めできない。魔法発動時の魔力で気配を感じられる虞がある」


 そこで一度台詞を区切り、全員を確認する。

 前衛のうち1人は全くわかっていないようだけれど無視だ。

 もう1人も半分くらいしかわかっていないようだけれどこっちも無視。

 あとはわかっているようだ。

 予定通りなので話を続ける。


「そんな訳で隠形魔法と気配隠匿魔法を併用する場合はセオリーがある。

  ① 弓を使える者を

  ② 見晴らしのいい場所に魔法を使用したうえで待機させて

  ③ 獲物を弓の攻撃範囲へ追い立てる。

  ④ 出来れば罠を一緒に活用すると更に効果が高い。


 今回の場合はモリさんとフィンに見晴らしのいい場所でいつでも弓を撃てるよう準備しておいて貰って、俺達が追い立てるという形にする。

 弓で狙うのは必ずしも致命傷でなくていい。傷が出来れば逃げる速度も遅くなるし隙が出来る。後から攻撃魔法をかけたり追いかけていって格闘戦も出来るだろう」


 ここまで話して再び確認。

 うんうん、大丈夫だな。

 でも一応前衛2人の為に分かりやすく解説しておこう。


「具体的に言い直そう。

 まずは魔獣が逃げる際に通りそうな場所に魔法陣を描いて罠を仕掛ける。

 描けたらあそこの岩場の上でモリさんとフィンに隠形魔法と気配隠匿魔法を使った上で待機して貰う。

 そこまでしたら、俺とライバーで遠方から視界に入るよう追い立てる。

 ミリアとアンジェは適当な場所で隠形魔法と気配隠匿魔法を使って待機。

 罠の起動とその後の作戦はミリアに任せる。

 以上だ。何か質問は」


 特に無さそうだ。


「それじゃ作業開始よ。まずは設置型魔法陣で罠を描く事。これくらいは授業でやっているわよね」

 ここでライバーが視線を逸らすのは予想通り。

 前衛業のみで魔法関係は苦手というか逃げまくっているからな。

 まあ奴は前衛としてはかなり頼りになるので、それでもいいと最近は思うけれど。

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