61 ウーニャの村
7月1日は途中のコーンカまで高速馬車で移動し、そのまま宿屋で1泊。
翌日朝5の鐘で宿を出て歩くこと半日以上。
太陽の位置が大分斜めになったあたりで、やっと村の防壁らしい柵と木で出来た門が見えた。
「遠かったなあ。途中道がわかりにくい場所が何カ所もあったし」
「わざとでしょ」
ミリアの言う通りだろう。
村の場所も名前も存在も秘密にしている位だ。
知らなければたどり着けないようにしているに違いない。
実際、明らかに人為的にわかりにくくしている場所が途中3カ所ほどあったし。
門のところに衛兵が2名立っている。
2人とも獣人ではなく普人だ。
「失礼します。この村に何の御用でしょうか」
言葉は丁寧だがかなり警戒している様子がわかる。
「こちらです」
ミリアが教官から渡された手紙を渡した。
受け取った衛兵が手紙の裏を確認して頷く。
「悪かったな。こういう村だからさ。それじゃ村長の家まで案内する」
「お願いします」
ミリアと一緒に俺達も頭を下げ、そして村の中へ。
入ってみると思った以上に賑やかな村だ。
勿論エデタニアのように大きな建物がある訳ではない。
でもそれなりに建物が並んでいて、人々も多く活気がある。
そして何よりエデタニアと違うのは行きかう人そのものだ。
「俺、獣人って初めて見たな」
ライバーの言う通りだ。
行きかう人の半分以上が獣人。
『確かに珍しいかもしれないけれど、失礼になるからじろじろ見ない事! どうせこの村に滞在するんだから幾らでも見れるわよ』
ミリアが伝達魔法で注意する。
なおこの伝達魔法は俺達のパーティにのみ聞こえるようにしているようだ。
「確かにそうだな」
ライバーは頷く。
商店街のような場所を横切り、付近では一番大きい2階建ての家に入る。
中は冒険者ギルドというか、学校の事務室に似た感じの空間だった。
カウンターがあり、その奥が事務室風になっている。
ここの村の役場のようなものだろうか。
「どうしました、ダリオ」
中から獣人の女性が俺達を連れてきた衛兵さんに声をかける。
耳の形からみて熊系統の獣人だろうか。
年齢は普人なら30代前半くらいだろう。
熊の獣人はよく知らないから自信はないけれど。
「ラウルさん案件だ」
そう言ってダリオと呼ばれた衛兵さんは俺達から預かった手紙を女性に渡す。
「わかりました。それではダリオは戻っていて下さい」
「わかった」
守衛さんはこっちに軽く一礼して出て行く。
「それではこちらへどうぞ」
事務所スペースの片隅にある10人用位のミーティングテーブルに案内される。
「どうぞおかけになって下さい。話は少し長くなるでしょうから」
そう言って彼女も座ったのを確認して、俺達は腰をおろす。
「さて、シャミー様から既に聞いているかもしれませんが、私はここウーニャの村の助役をしているラウルと申します。見ての通り熊の獣人と言いたいところですが、実際に獣人を見るのは初めてでしょうか」
俺とミリアを除く4人が頷く。
だが俺はラウルさんがシャミー教官の事を様付でよんでいるのが気になった。
一体何があったのだろう。
「ここウーニャの村はウァーレチアに何カ所かある獣人の隠れ里のひとつです。掠われてきて奴隷にされた者や戦争等で居場所が奪われた者等が逃れて住んでいます。ですのでシャミー様からも聞いたと思いますが、外部に対してこの村の事は秘密にして下さい。特に最近は難民を装ってこの村の事を探り出そうとする者もいるようです。そういった本当に保護するべきかわからない者を発見した場合は、必ずそちらで判断せず私に報告して下さい。こちらで調査させますので」
俺の父や母、兄妹もこの村に逃げてきているかもしれないと気付く。
そうでなくともあの村の出身者がこの村にいる可能性もある。
思わずあの村の事を聞こうとしてそして気付いた。
俺はあの村の名前も、正確な場所も知らない事に。
あの頃はあの村が全てだったから、わざわざ名前をつけて呼ぶ必要が無かった。
村の皆もだいたい『うちの村』としか呼んでいなかった。
メディアさんの小屋も魔の森も何処にあるかはわからない。
何処かへ行く際はメディアさんの移動魔法を使ったし。
だが方法は無いわけではない。
この村の中を片っ端から歩き回れば知っている顔に会える可能性がある。
でも向こうは俺だと気付かないだろう。
俺は魔法で姿を変えているから。
だからそうやって探すなら姿を元に戻してからだ。
そしてミリア以外は俺が獣人だという事を知らない。
その作業をするなら一人になれる時だろう。
焦る事はない。
最低でも2週間はこの村にいるのだ。
俺は何とか自分の心を落ち着かせる。
「さて、仕事は付近に出没する魔獣・魔物退治が主ですけれど、その辺の話は明日にしましょう。仕事始めは明日からですし。明日2番目の鐘が鳴った後、この事務所へ来てください。
さて、それではここにいる間に住むことになる家を案内します」
どうやらラウルさん自身が案内してくれるようだ。
俺達は彼女の後をついていく。
先程の入口とは反対側の、おそらく裏口と思われる扉から外へ。
出た通りを右側へ3軒目、かなり大きい家の前で立ち止まった。
「この家になります。昨日掃除をしておきましたので、今日から使えると思います」
「大きいですね」
思わずそう言ってしまう。
「ええ。10人パーティでも問題ないように建てましたから。ここ数年はシャミー様しか使用していませんけれど」
「本来の村付き冒険者の方はどうしているのでしょうか」
「彼らはこの村に家がありますから」
なるほど。
あと気になる事がいくつかある。
「すみませんがシャミー教官はこの村ではどう扱われていたのでしょうか。私達は冒険者学校の教官としてしか知らないのですけれど」
ミリアがいつもと違う口調で尋ねた。
俺と同じことが気になっていたようだ。
「あの方が貴方方に教官として接しているなら、私はそれ以上の事は言わない事にします。ですがこの村の者のほとんどはあの方を尊敬、あるいは敬愛していると思ってください」
どういう事だろう。
何かこの村の危機を救ったとか何かだろうか。
でもそうなると更に気になる事がある。
「ならその代理でこんな若い者ばかりのパーティが来た事に不安はありませんか?」
「確かにシャミー様が今夏来られないのは残念です。ですが貴方方の実力の方は心配していません」
ラウルさんはそうはっきりと言い切って、そして続ける。
「シャミー様がこちらに寄越したのだから問題ないでしょう。でもそれだけではありません。私は相手の強さを見ただけでもある程度知ることが出来ます。かつての獣人にはよくあった能力なのですけれど、魔力、体力、今までの経験、そういったものをある程度感じ取る事が出来るのです。
そうやって感じた限りでは、貴方方は一流と呼ばれる冒険者パーティに匹敵する能力を持っています。ですので能力的な心配は一切していません。
ただ年齢からくる冒険者としての貫禄と対人折衝能力は、年齢的に多少不足してもおかしくないでしょう。ですからそういった面の相談事等があれば遠慮なく私の方へお願いします」
「わかりました。こちらこそよろしくお願いいたします」
ミリアにあわせて俺たち全員、頭を下げた。
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