第22話 隠れ里へ
59 シャミー教官の依頼
あと1週間で7月だ。
7月と8月は夏休み期間で授業は一切ない。
食堂で出る無料の食事も夕食だけとなる。
事務室前には通常の依頼の他、夏休み期間中の長期依頼がびっしり張り出され、生徒が連日いい依頼は無いかと物色している状態だ。
「夏休みはどうするの?」
夕食時にその話が出る。
「依頼のほとんどが農作業兼害獣討伐だよな。正直あまり惹かれない」
モリさんの言う通り、農作業と害獣討伐がセットになった依頼が過半数を占める。
7月8月は麦をはじめとした作物の収穫期だ。
だからその収穫作業の手伝いと、作物を狙ってくる害獣の討伐を兼ねた住み込み勤務の依頼がかなり多い。
期間は概ね
収入は今ひとつだが三食出るし場所によってはE級でも受付可。
害獣も魔獣ではないウサギやネズミ、鳥等がほとんど。
だから受けるのは戦闘実技系があまり得意ではない生徒が多い。
「モリさんは長期依頼で此処を離れて大丈夫なの?」
モリさんは
ミリアが聞いたのはその事だ。
「この時期は大丈夫だ。農場だとか船着き場だとかで仕事が多い。2週間を越えたらちょっと心配だけれどさ」
なるほど。
「でもいつも通り近くや
「夏休み期間は近場は混むって。それにどうせなら何処か行ってみたいじゃない」
確かにアンジェの言う通り近場は混むらしい。
外だけでない。
ラトレの
いや、
この前の昇級試験で2年生の2割強がC級に上がったせいだろう。
今では第10階層以下に入場制限がかかっている日もあるくらいだ。
「それで何かいい依頼ってあった?」
いつの間にか夏休みもパーティで行動すること前提のようだ。
ただ周りから聞こえる話等によると他の生徒もそんな感じの模様。
これが普通の普人の行動様式なのだろうか。
それともこの学校の生徒、もしくは冒険者に特有の行動様式なのだろうか。
別に文句は無いからいいのだけれども。
「毎日確認しているけれどよ、今のところ特にないな。農場系は安いし護衛系はあまり良さそうなのが無い」
「メラニー達はどうするんだっけ?」
「高地地方のタルエラで牧場の常駐警戒だって」
「あそこは飯に困らなそうでいいよな」
「うちだって困った事はないじゃない。言いたいことはわかるけれど」
確かに言いたいことはわかる。
それにあのパーティは索敵能力が高いし他には少ない貴重な回復担当もいる。
攻撃魔法は得意ではないが、他はほぼ何でも出来る万能系だ。
魔獣が強い場所でない限り何処へ行っても問題ないだろう。
「何ならうちもムーシアとかに遠征して討伐活動をする?」
アンジェの提案にモリさんが顔をしかめる。
「宿代がもったいないよ。夕食だってここなら
「モリさんらしいよな」
「でもお金は重要よ」
モリさんの次に経済観念に煩いのはミリア。
彼女はお金には困っていない筈なのに謎だ。
ちなみに経済観念が一番破綻しているのはフィンで、次点がライバーとアンジェ。
フィンは稼ぐそばから素材と自在袋に小遣いが消える。
ライバーとアンジェはすぐ気が大きくなり服だのなんだのに使ってしまう。
俺はこの中では節約派だろう。
特に無駄使いはしないから。
「特に受ける依頼が決まっていないなら、こんな依頼はどうでしょうか」
背後からそんな声がした。
このパターンと声にはおぼえがある。
魔力を確認する必要もない。
「シャミー教官、聞いてらしたのですか」
「ええ。実は皆さんを探していたところです。こちらの席、失礼しますね」
シャミー教官は俺達の横の空いている席に座る。
「それでどんな依頼なのでしょうか」
ミリアが尋ねる。
この辺は注意しなければならない。
シャミー教官は割と実力の限界近い事をさせてくる傾向があるからだ。
この前の翼竜退治しかり、ラトレ
「ここから高速馬車で1日、その後歩いて半日、セラニア山地付近にある村の村付き警戒です。常駐の村付き冒険者パーティが休みに入るので、その間代わりに村や耕作地、放牧地等を警戒するお仕事になります。期間中は全員分の個室がある充分な広さの一軒家を無料で貸してくれます。食事は自炊ですが食材は無料提供です。
ただし出るのは往復の交通費だけです。その代わり討伐した魔物は全てパーティの収入になります。村には冒険者ギルドはありませんが、肉や毛皮などの素材の大半はギルドと同等以上の価格で買い取って貰えますし、それ以外の魔石や素材も他の街のギルドやここの事務室で買い取って貰えば問題ありません。
また村の警戒以外にも冒険者ギルドにあるような依頼を頼まれる事があります。主に山麓の街への買い出しとか荷物運搬ですね。その辺の仲介は村長代理が一括でやっています。基本的に無理な依頼はありません。報酬は冒険者ギルドと同等以上に支払ってもらえます。
例年ですと私が受けていたのですが、今年はちょっとした用事が入ってしまったので行く事が出来ません。そこで皆さんに御願いしようと思った訳です」
言っている事は悪くない。
だが他ならなぬシャミー教官が持ってきた話だ。
だから裏がないだろうかと、皆真剣に考えている。
「オークが集団で住んでいるとか、近くにトロルがいるとか、そういった強力な魔物や魔獣が出るって事はないですよね」
フィンが尋ねる。
「それは大丈夫です。難易度的にはこの前のパトレス大平原と変わりません。勿論翼竜が出ない、例年の大平原が基準です」
その点の心配はないと。
「村が閉鎖的で人間関係が難しいとか、そういう事はありませんか」
「仕事の話をする村長代理のラウルさんは親切な方です。それに村そのものも大変穏やかでその辺の心配はいりません。ただし」
あ、シャミー教官、さっと
間違いなく何かある。
俺達の視線が教官に集中する。
「依頼の村は獣人と普人、双方が共存している村です。ミリアもハンスも獣人に対して融和的で偏見が無いことは知っています。2人以外も普人以外に獣人の皆さんと同じ村で生活する事で、感じる事や考える事があるでしょう。そういう意味でこの仕事が皆さんの成長に繋がるのではないか。そう思ってこの話を持ってきました」
何だって!
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