52 シャミー教官からの課題
翌日。
朝食後、フィンとモリさんはパーティリーダー会議へ。
本日の魔獣討伐訓練の打ち合わせだ。
天幕等は明日も使うのでこのまま張りっぱなし。
食事の片づけをしたりディパック内をまとめたり寝袋を干したりしていると、フィン、モリさん、カラチが戻って来た。
「今日は残念だけれど別の場所ね」
「一番西、モネ・カンパに近い方の森だよ」
「今日の昼食は期待していいかな。フィンのパーティと合同だ」
いっぺんに言われると非常にわかりにくい。
「つまり今日はカラチ達のパーティとは違う場所で、モーリ達の班と合同で、パトレス大平原の一番西側が受け持ち区域という事か」
クーパーがまとめてくれた。
「よし! 今日の昼食はこれで勝ちだわ」
アンジェがガッツポーズをしている一方で、
「残念!」
ミメイがががっくりポーズをとっている。
「そういう事。指示を説明するからうちのパーティとモリさんのパーティ集合」
12人集合した中、モリさんとフィンがここパトレス大平原の地図を広げる。
「僕らの割り当てはこの辺、つまりパトレス大平原の一番西側だよ。具体的にはこの山、ビルフランクが方位磁針で北微西に見える場所より西側。地形でいうとこのナッガルパ岩、トッセリネ湿地が目安になるかな。
この受け持ち区域は広いけれど、パーティ2つで一緒に行動するようにだって。あと採点と助言、万が一の際の要員でシャミー教官がつくそうだよ」
「北微西って何だ?」
「北北西と北の中間の方向よ」
ライバーにミリアが説明している。
32方位なんて普段は使わないから仕方ない。
「任務は勿論魔獣や魔物の討伐。何も無ければ概ね昼4の鐘まで現地で討伐を行う事だってさ。4の鐘の時間は轟音魔法で知らせるから、それが聞こえたら戻ってこいだそうだ。
あと魔獣討伐の実績は魔石で計算で組になったパーティで等分。肉や素材になるものは自分たちで使ってもいいし売ってもいい。この野営地でギルドと同じように受け付けてくれるそうだ」
フィンとモリさんが説明してくれた。
「でも妙よね。わざわざパーティを分散してまで戦力を平準化したのに、また一緒のパーティにするなんて」
確かにミリアの言うとおりだ。
何か意図がありそうな気がしないでもない。
「それでもこのパーティなら問題ないと思うけれどね。それじゃシャミー教官が来たら出発するから準備よろしくね」
そう言っても持ちだす装備は食料も非常用品も朝食から今までの間に準備済みだ。
だから干していた寝袋を畳んで天幕の中に放り込んだ後、革鎧を装着する程度。
「カラチ達はどっちへ行くの?」
「うちは逆、東側かな。4パーティ共同だって。ここと一緒の方がいいのにな」
「それじゃまた夜ね」
「またね」
なんてやっているとシャミー教官がやってきた。
「みなさん、もう準備は宜しいでしょうか」
俺達が頷いたのを確認して続ける。
「それでは行きましょう。遠いので少し速足で。移動時間を節約する為に現地に着くまではハンス、前をお願いします。現地までは魔獣や魔物討伐は最低限、薬草取り等も無しで移動速度重視で。ただ疲れると困るので馬車と同等程度の速さで行きます。身体強化魔法は全員にかけておいて下さい」
「それじゃ今日は私が全員分かけるわ」
確かにミリアの魔力なら余裕だろう。
あっさりと全員に身体強化がかかる。
「それでは歩きながら今日の事について説明しましょう。ところでハンス、道は大丈夫ですか」
「大丈夫です」
「それでは出発します。隊列はハンスが先頭であとは適当で結構です」
何か妙だなと思いつつも歩き始める。
「それでは今日の実習の説明です。場所や時間については既に聞いたと思いますので省略します。この区域ですと例年なら討伐する魔獣や魔物は牙ネズミ、牙ウサギ、
シャミー教官が非常に気になる言い方をしている。
「今年は何か違うんですか」
フィンがまさに気になった部分について質問した。
「ええ、多少。それが今回、ここの担当をこの2パーティにした理由です。でもその前にハンス、お願いします」
もう嫌な予感しかしないが、取り敢えずやるべきことをやっておこう。
進路前に出てきそうな牙ネズミ4匹を氷弾1発ずつで仕留める。
歩きながら風魔法で取り寄せ、自在袋へ収納。
「ハンスご苦労様。それでは続けます。例年ならこの時期、ゼネガ山脈の北側は弱い北風が山脈側に向けて吹いている筈です。ですが今年、この一帯には東への強い風が吹いています。この風の影響でこの平原の西側、まさにこのパーティの受け持つ区域に普段と異なる魔物や魔獣が出てくる可能性があります」
ちょっと待ってくれ。
その辺について俺は冒険者ギルドで購入した情報本で読んだ記憶がある。
おそらくミリアも、モリさんもフィンも読んだだろう。
確かパトレス大平原の西、モネ・カンパ山の高域には……
「まさかと思いますが、トロルとか翼竜じゃないですよね」
フィンがずばり核心を尋ねる。
「風向きが変わったのは数日前の事のようです。ですからトロルは影響をそれほど受けないでしょう。ただ翼竜はその生活上、風の影響を受けやすい魔獣です。特にこの季節は飛行に不慣れな若竜もいますから、万が一という事もあります」
ちょっと待ってくれ教官!
「翼竜ってA級の魔物よね。高空を飛ぶから攻撃しにくいですし、魔法耐久力もかなり高い」
ミリアの言う通りだ。
「ええ。元々風系統の魔法を使用して飛行していますから、風属性の魔法はほとんど効きません。また火と水属性の魔法にも耐性があります」
勘弁してくれ。
水属性に耐性という事は、俺の得意な氷弾魔法の効果が低いという事だ。
火属性にも耐性があるからミリアや俺の熱線魔法も同様。
「ミリアの雷属性はどうだ?」
「飛行する魔物には雷属性はほとんど効かないのよ」
やばい、詰みかけている。
「まさか翼竜の討伐も今回の採点のうちですか」
シャミー教官はモリさんの質問には首を横に振る。
「流石に翼竜は1年生の課題として適切ではないでしょう。ですからもし無理だと判断したならそう言っていただければ減点しません。その場合は私の方で対処します」
そうだよなと思いかけで、そして気づく。
つまりシャミー教官は1人で翼竜に対処できる自信があるという事だ。
やっぱり何者なんだろうこの教官。
そんなの普通の冒険者の腕ではない、絶対に。
シャミー教官の台詞は続く。
「ただしこのパーティなら、他のパーティではなくこの2組のパーティの組み合わせなら翼竜を相手にしても倒せる可能性がある。そう判断した結果、ここの担当にはこの2組のパーティを選びました。ただし、他の教官は翼竜が飛来する可能性に気づいていません。
そんな訳で皆さんはどうしますか。出会う前に考えておいてください」
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