50 1日目の実習

 俺達のパーティの1日目は商隊護衛任務の実習だ。

 この実習は2パーティで教官や学校職員が乗った馬車を護衛しながら移動するという実習。

 勿論相手パーティはミリア達のところではない。

 俺の知らない連中ばかりのパーティだ。

 全員2組で女子ばかり、D級3人とE級3人の組み合わせ。

 なおフィンやクーパー、ショーンやケビンは同じクラスで知っている模様。


 そして本日俺達の担当をするのがブランカ教官とナタリエさん。

 ブランカ教官は回復魔法をメインに教えている教官で見た目は中年の女性。

 ナタリエさんは応援に来てくれた冒険者ギルドの職員で20代前半くらいのお姉さんだが、B級冒険者でもあるそうだ。


 それにしても女性が随分多くて正直ちょい気押される。

 俺自身は女性は少々苦手だ。

 いつもの面子なら慣れたので気にならないのだけれども。


 出る前にフィンと向こうのリーダーのカラチが話し合った結果、ポジションが決まった。

 俺達のパーティだと馬車の前にクーパーとライバー、左横が俺、右横がケビン、後ろがフィンとショーンだ。

 

 今回指定されたコースはエデタニアから一度東へ向かい海岸に出て、そこから海沿いに北上、プラーヤの集落から内陸に入ってパトレス大平原に向かうという道筋。

 途中で昼食と1時間の休憩。

 それ以外は馬車にあわせてやや速足で歩くので慣れてなければそこそこ厳しい。


「今日は全員に持久力に重点を置いた身体強化をかけておいてよ。今日のメンバーではハンスの他にケビン、カラチ、ミメイが身体強化の魔法を使えるけれど、間違いなくハンスが一番魔力の余裕がある筈だから。他のパーティも身体強化魔法は使っているようだしね」

 フィンにそう言われたので取り敢えず全員に身体強化魔法をかけて出発だ。


「今日このパーティと一緒だと聞いてアンジェが羨ましがっていたよ。安全と昼食が確保されていいなって」

 俺と同じ左横ポジションのミメイが話しかけてくる。


「ショーンの作る食事は美味しいからな。今日も期待していいと思う。ただ護衛任務で狩りが出来ない分、本来よりボリュームは落ちるかもしれない」


「食堂で食べるより美味しいから、ここのところ毎日カペック平原まで行っていたって聞いたけれど」


「最近ずっと晴れていたしな。授業終了後すぐ集合してまずは牙ネズミか牙ウサギを狩ってなんてやっていた」


「運悪く魔獣が出て来た方がラッキーかもね、なんて言っていたわ」


「それは危険発言だな。でもこの道は人通りが少ない分、出易いかもしれない」


 この海岸沿いの道はメインの街道と比べると少し落ちる道だ。

 メインの街道は馬車や人が多い分、魔獣や魔物が出てもすぐ退治される。

 それでは訓練にならないという事で、あえて少しマイナーな道を選択した模様だ。


 そして海沿いを歩く事少し、早くも反応を感じた。

 俺とほぼ同じくらいでクーパーも気付いたようだ。

50腕100m程度先、小物だけれど数が多い。俺っちの知らない反応だ」

 早速皆に知らせる。


「すみませんナタリエさん、停止お願いします。魔獣の気配です」

 フィンがそう言って馬車を停止させた。


「反応的には牙ネズミかそれより小さいサイズだな。でも牙ネズミじゃねえ。俺っちの知らない反応だ」

「クーパーがそう言うという事はおそらく海系の魔物か魔獣だね。確かこの先道は川を渡るんだよね。だからそこに魚系の魔物が群れているんじゃないかな、小物だけれども。ハンス、答え合わせいいかな?」

「反応的にはその通りだと思う。だが俺も海は初めてだからよく知らない」


「それにしても索敵が早いわね。私は全然気づかなかったわ」

「クーパーとハンスの索敵はかなり強力だからね。それでカラチ、どうする?」

「海系魔物なら私が行きます。雷属性の魔法を使えますから。そちらから1人ガードをお願いします」

「なら俺が行く」

 ガードと言えばライバーの出番だ。


「あとハンスも念のためついて行ってくれるかな」

「わかった」

「では行きましょう」

「俺が先頭で行くぞ」

 ライバー、カラチ、俺という順番で先行する。

 道が川を越えている場所に出た。

 川の水面と比べて高さがあまりない石造りの端だ。

 多分洪水の際は橋より水面が高くなるタイプなのだろう。

 そして確かに魔物の気配がビシバシとする。

 

「情報本に載っていた槍ダツだな」

 海の魚だが川もある程度遡り、水面から跳ねて陸上の動物まで狙うというとんでもない魚だ。

 俺は初めてだが情報本にも載っていたし、大きさからも間違いないだろう。


「それじゃもう少し近づきましょう。ライバーさん、よろしくお願いします」

「おう、わかったぜ」

 俺も注意しながら進む。

 川まであと数歩という距離まで来た時、いきなり魚が跳ねて来た。


「おっと」

 ライバーが盾で受け止める。

 魚としてはそこそこ大きい。

 全長50指50cm位だろうか。

 槍ダツという名の通り、頭がとんがって槍のようになっている。 


「球雷!」

 短詠唱でカラチが魔法を起動する。

 水面のすぐ上、波が触れそうなあたりに黄色く光る球が出現した。

 飛び跳ねようとする魚にバチバチと電撃が襲い掛かる。


「球雷!」

 更に別の方向の水面にも雷の球が出現。

 こっちもバチバチと水面を叩いている。


 ほんの10数える程度で水面は静けさを取り戻した。

「どうでしょうか。私はもう気配を感じませんけれど」

「あとは普通の魚だけだろう」

 どうやらここに居ついて通行人を襲うタイプの魔物らしい。

 魚が魔力で変化したものだから分類上は魔獣だな。

 

「ついでだから回収しておこう。荷物的にはギリギリだが何とか入る」

 水魔法と風魔法を併用で今の魚を集め、自在袋に入れる。

 いつもの自在袋なら余裕なのだが、今の自在袋では10匹がやっとだ。


「ライバー頼む。残り5匹を収容してくれ」

「おい任せた」

 情報本には槍ダツは美味しいと書いてあった。

 ショーンが何とかしてくれるだろう。


「おーい、そっち終わったか?」

 馬車のところからクーパーが大声で聞いてくる。

 反応が無くなった事を気付いたようだ。


「こっちは終了だ」

「なら馬車を動かすね。ナタリエさんお願いします」

 馬車が再び動き始める。

 

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