49 実習直前準備
明日からは2泊3日の野外遠征実習。
だから今日の午後は実習の準備だ。
「食糧計画はこんなものでいいよね」
「問題ないと思うんだな。水も魔法が使えない事態になると困るから、念の為1人
うちのパーティの食糧計画は基本的にショーン監修だ。
他はともかく食に関してショーンの上に出るものはこのパーティにはいない。
自在袋のおかげで食料の鮮度その他を気にしなくていい点はかなり楽だ。
ただし今回の実習では俺やミリアが持っているような通常より大きいサイズの自在袋は使用不可。
「特にハンスの自在袋は魔獣を50頭単位で入れても問題無いですよね。これでは他の生徒に対して有利過ぎるでしょう。ミリアの自在袋やフィンの自在袋束も駄目です。今回は公平を期すため全員学校標準の自在袋で統一しますから」
直前になってシャミー教官にそう言われてしまったのだ。
「普通の自在袋って思った以上に入らないわよね」
ミリアの言いたいことはよくわかる。
何せ普通に入れた場合、概ね
体積を極端に減らせばもっと重さを稼げるし、逆に体積が大きすぎる場合は軽いものでも入らなくなったりもするけれど。
結果として食料と寝袋、衣類に最低限の装備を詰めると残りは僅か。
普段身の回りのものを含め所有物全てを一つの自在袋に入れていた俺としては非常に心もとない。
「持っていく装備を厳選しないとな」
「僕も試作武器のほとんどは置いていくことになりそうだよ」
フィンは普段、この標準自在袋を10袋束ねたものを愛用している。
こういった自在袋束は普通は交易商人等が使うのだが、フィンは自作の装備や素材を入れる為だけに使っている。
「参考までに聞くけれど、フィンって普段どれくらいの物を持ち歩いているの?」
ミリアもその辺が気になったようだ。
「うーん、僕もあまり把握していないかな。作ったり手に入れたりしたものは全て持ち歩いているから。足りなくなりそうなら自在袋を買い足すしね」
フィンは金属性魔法を中級に近い状態まで習得している。
だからバイト代だけでも普通のD級冒険者より稼いでいたりする訳だ。
そしてその稼ぎのほとんどを素材とか自在袋に費やしている。
何と言うか……まあいいか。
そんな訳で俺もミリアも、そしてフィンも今回持ち歩くものは最小限となる。
ただパーティで用意した天幕や料理セットがフィンオリジナルの物なので、他のパーティが使用しているものより軽くて小さい。
その分他のパーティと比べればまだ余裕があるのかもしれない。
「各自寝袋は用意したよね」
「今回は学校の貸出用だけどな。羊毛のだとごついよな」
ちなみに俺のとミリア、あとフィンの寝袋は自前の羽毛タイプだ。寝心地は同じでも小さく軽くなるので便利。その代わり濡れたら悲惨な事になるけれども。
「流石に寝袋に使える羽毛のちょうどいいのは手に入らなかったんだ。コカトリスを2頭狩れば寝袋1個分程度の羽毛はとれるけれど、この辺じゃ出ないし」
フィンがとんでもない事を言う。
「そんなの出たら困るわよ。生徒の何割かが石になるわ」
確かにミリアの言う通りだ。
そんな化け物出て来られたら困る。
コカトリス討伐はB級以上の魔術師パーティ用の依頼だ。
俺やミリアなら問題ないけれど。
「でもどうせ出ないだろ。ギルドで買った情報本でも出てなかったしさ」
モリさんの言う通りだ。
今回の実習は基本的にエデタニアから
だから出てくる魔物や魔獣はいつもの討伐とほとんど同じだ。
強いて言えば海沿いを通るので、その辺で少し変わった魔物も出るかもしれない。
だが基本的にはそれほど強い魔物は出てこない筈だ。
少なくとも本ではそうなっている。
「これで準備は大丈夫な筈ね」
「でもフィン達のパーティとルートが違うのが悲しいよね。ショーンのお昼ご飯が食べられないから」
「でもモリさんも充分上手だと思うんだよな」
ショーンがそう言う。
実際モリさんもかなり料理は上手な方だ。
力があまり無い代わりにかなり器用だし。
しかしアンジェは力を込めて言い放つ。
「確かにモリさんの料理も悪くはないわよ。でもショーンの料理を知ってしまうと後に戻れなくなるのよ!」
確かに言いたい事はわからないでもない。
でも実習が終わったらこのパーティも解散なのだ。
だから今のうちに慣れておいた方がいい……かもしれない。
「さて、僕らのパーティは明日は海沿いにファーナルスとサガント経由で商隊護衛だけれどモリさんの方はどう?」
「こっちは荷物運搬。だから初日は気楽だな。でもどうせなら帰りが荷物運搬の方がいいよなあ。先に面倒なのが終わった方が気が楽だしさ」
「確かにそうだよね」
これはモリさんとフィン、つまりパーティリーダー同士の会話だ。
今回の実習内容は商隊護衛、荷物運搬、魔獣討伐の3種類。
うち魔獣討伐については2日目にパトレス大平原で実施予定。
そして1日目か3日目のどちらかが荷物運搬で、どちらかが商隊護衛訓練となる。
荷物運搬は基本的にパーティ自身の判断で行程を決めていい。
運搬する荷物も冒険者が運ぶ場合は一般的に自在袋束で持ち歩くからそんな量がある訳ではない。
つまり比較的気楽な任務だ。
これが商隊護衛となると商隊が使用する馬車と歩調を合わせなければならない。
また魔獣や魔物が出そうな時も護衛なら護衛対象に極力被害がないよう動く必要がある。
なお野営地はパトレス大平原近くの野営指定地でどの班も同じだ。
野営指定地とは
〇 魔獣を防ぐ柵があり、
〇 飲用可能な井戸が整備されている
〇 草地または砂地
の場所。
街道沿いで街が少なく宿泊が不便な地点に国または領主が設置し整備している。
広さはそれぞれだが、今回行くパトレス大平原手前の指定地はかなり広いらしい。
なおかつこの季節はあまり商隊が使用しないので空いているとの事だ。
「2日目のパトレス大平原で出る討伐対象は、基本的にカペック平原と同じだよな」
「その筈だよ。少なくとも本にはそう出ていたかな。だから最悪ではぐれオーク、そこそこ運が悪いと
「あとはゴブリンが上位種含め集団で出て来た場合は大変かもね」
「でもまあ、落ち着いて対処すれば問題ないだろ」
ライバーが達観したような事を言った。
でも俺もその通りだと思っている。
毎日実戦をしているのでその分皆も魔獣や魔物に慣れているから。
更に装備もフィンのおかげで充実しているし。
特にパーティに元々いたモリさん、アンジェ、ライバー、フィンの実力はかなりものものだ。
レベル上げもやっているから基礎的な身体能力や魔力は普通のB級冒険者以上。
これは俺とミリアの共通認識だ。
本人達は気付いていないようだけれども
だから今回の実習程度では何も問題はない筈だ。
そう俺もミリアも思っていた。
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