36 ボス部屋は瞬殺で

「どうでした、罠に初めてかかった感想は」

 教官はいつもと同じ調子で尋ねる。

 だが俺とミリア以外の4人は疲れ切った感じだ。


「怖かった。洒落にならねえ」

「あんなに一気に魔物が来るの始めて。今でもドキドキする」

「よく何とかなったなと思うぜ。とにかく無我夢中だった」

 モリさん、アンジェ、ライバーの感想はこんな感じだ。


「でも落ち着いて見れば結構何とかなるんですね。勿論何とかなるから教官もわざとここに入ったのでしょうけれど」

 フィンにはそれなりに得るものがあった模様。


「ええ。今回はハンスとミリアなしでも何とかなる程度の罠でした。落ち着いて行動すればこのように、たとえ罠にはまったとしても何とかなる場合は多いのです。勿論罠にかからないよう注意するのが大前提ですけれども。


 部屋に入る前に聞いた時、モーリはここにいない方がいいと言いましたよね。ああいう感覚が実は結構重要なんです。自分では理解出来ていなくても感覚が何か危険を訴えている。そういう時は絶対無理せずその感覚に従って下さい。それが身を救う事も往々にしてあるのですよ。特により強くなってより難しい場所へ行った時などに。


 それでは軽く回復魔法をかけて先に進みます。次はいよいよ第5層、最初のボス部屋です」


 すっと疲労が消えていく感覚がした。

 回復魔法、それも結構強力な奴だ。

 俺ではこの人数にこれだけ強力な回復魔法をすんなりかける事は出来ない。


 本当にシャミー教官、何者なんだろう。

 竜狩人ドラゴンスレイヤーでもあるようだし、どう考えても普通の冒険者レベルではない気がするのだけれども。


「さて、モーリとフィンは装備をまた弓に戻して下さい。あと次のボス戦はせっかくですからミリアに1人にやってもらいましょうか。

 アークゴブリン3体程度ならミリア1人で充分でしょう。ミリアとハンスの強さは皆さんまだ良くわかっていないでしょうから。ミリアは見せ場とか考えないで、一番簡単な方法でやってしまって結構ですよ」


 わざわざゆっくりやる必要はないと言う訳か。

 確かにさっきのモンスターハウスで皆そこそこ経験を積んだだろうし、それで精神的にも疲れているだろう。


 階段を降り第5層へ。

 ここに魔法陣が1つ設置されている。


「そこの看板にも書いてありますけれど、第1層の手前、階層転移陣の部屋へ戻るための魔法陣です。ここで終わりにする場合はその魔法陣の中へ入れば戻ることが出来ます。今回はボス部屋へ行きますからここは素通りですね」


 なお走査魔法で見るとここ第5層は明らかに形が違う。

 いままで円を描いていたその中心へと通路が延びている。

 なお中心はかなり広い部屋のようだ。

 そしてその部屋へ通じる通路には扉がある。


「あの扉を抜ければボス部屋です。先程の罠の部屋と同じく、入った後はボスを倒すか全滅するまで開きません。普通ボス部屋へ行く場合はここで念入りに準備を整えてから行く事になります。ですが今日はそれほど強い敵でもありません。少なくともミリアやハンスに対しては。ですから今日はこのまま行きましょう。

 なお今回はミリア先頭で、次がハンス、後は適当にハンスについていく形でいいでしょう。最後は私で」


 モリさんがそんないい加減な順番でいいのかという顔をする。

 でも実際それで問題は無いだろう。

 たかがアークゴブリンくらい、ミリアなら瞬殺だろうから。


 ミリア先頭でボス部屋へ。

 今度は扉の前に立ったところで自動で扉が横に開いた。

 ミリアを先頭に全員でボス部屋へと入る。

 最後に教官が入ったところで先程と同様に扉が閉まった。


 中は四角い広い部屋だ。

 そして天井がかなり高い。

 いままでの3層分くらいの高さがありそうだ。

 そして俺達が入ってきた正面にも扉がある。

 そこが開き、中から普通のゴブリンの2倍程度の大きさで顔色が青い、アークゴブリンが3体登場した。


 同時にミリアが無詠唱で熱線魔法を放つ。

 あっさり敵3体の胴部分が消失した。

 かなり凶悪な熱線魔法だ。

 残ったのは首から上、手先2つずつ、足2本ずつのみ。


「げっ!」

 モリさんがそんな驚きの声を漏らす。


「ミリアさんでしたらこんなものですね。先程の罠も本気でやれば同じくらい早く片付いたと思います」


「強いとは思っていたけれどさ、こんなに力が違うのかよ……」

「言っておくけれどハンスはもっと強いわよ」

「そうなのか……」


「そうですね」

 シャミー教官はあっさりそう片付けて、そして続ける。


「それでは魔石だけ回収して、今回の迷宮ダンジョン体験は終わりにしましょうか。魔石の回収はハンス、お願いしますね」

「はいはい」


 熱線魔法で頭部分を分解し、風属性魔法で魔石を取り寄せる。


「それではさっきの魔法陣から上へ戻りますよ」

 俺達は開いた扉を戻り、魔法陣の場所へ。 


 ◇◇◇


 受付のカウンターで、迷宮ダンジョンを出るという手続きとともに魔石を全部換金。


「税金と手数料を引いて、合計で正銀貨28枚28万円小銀貨7枚7千円正銅貨14枚1,400円になります」


 硬貨がそれぞれ7の倍数になっているのはこちらが7人だからだろう。

 そういう面はここのギルド、親切でいい。


「教官はどれくらいの割合にしましょうか」

「同じでいいですよ。こういう場合は等分が規則ですから」

 となると1人あたりの金額は正銀貨4枚4万円小銀貨1枚千円正銅貨2枚200円となる。


「かなりいい収入になったよな。これは」

 ライバーはほくほく顔だ。


「今回はあえてモンスターハウスに突っ込みましたから。でも鉱石等の資源が出る下の階層はもっと儲かります。その分魔物は強くなりますけれど」


「うーん、今回の儲けはありがたいけれどなあ。あのモンスターハウスはもう勘弁して欲しいなあ」


 モリさんの意見にアンジェもうんうんと頷きつつ。


「そうだよね。でもこれだけ儲かると、もう一度いいかなという気にもなっちゃう」

 おいおい。


「いずれにせよ次にここに来るのは冒険者ランクを上げてからですね。次の昇級試験、頑張って下さいね」

「儲けの為なら!」

 おいおいライバー。


「ライバーはもう少し索敵を確実にすること! 今のままじゃいずれ死ぬわよ!」


 ミリアのごもっともな意見。


「そうですね。ライバーとアンジェはもう少し野外で索敵の練習をした方がいいかもしれません」


 教官にも言われてしまう始末だ。

 まあその通りなのだけれども。


 こうして俺達の迷宮ダンジョン初体験は無事終了したのだった。

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