第19話 冒険者昇級試験

37 昇級試験の日

 入学からちょうど3ヶ月経った。

 本日はいよいよ昇級試験だ。


 昇級試験は1年に2回、初夏と晩秋に行われる。

 希望者だけが受験するが基本的に1年生は全員受験だ。

 これでE級だったほとんどの1年生のうち、半数以上はD級になるそうだ。

 そして2年生も今回の試験でだいたい3割がC級になるらしい。


 なおB級以上になると試験は年1回で秋の終わりだけだそうだ。

 ちなみに危険人物アルストム先輩は既にB級。

 入学時はD級で初夏の試験でC級、初冬の試験でB級と順調に上り詰めたそうだ。

 まああの人なら一流冒険者並の腕は持っているだろうなとは思う。

 性格はともかく腕は確かそうだし。


 俺やミリアはC級受験。

 だからモリさんやライバー、アンジェやフィン達D級試験とは別口になる。

 C級受験者はほとんどが2年生だ。

 1年は俺の他、ミリア、同じ1組のルドルフ、2組のシーラ、同じく2組のオルソン、3組のラーダの合計6人だけ。


 ルドルフは俺やミリアのライバル的な存在で、剣と格闘術以外はほぼ何でも出来る優等生。

 ただし得意なのは風魔法と生命魔法、弓という典型的後衛職タイプだ。

 2組のシーラは入学試験でガリウス教官に無手接近戦で勝ったという強者。

 何処かの道場主の娘らしいが、俺自身は話した事が無いのでよく知らない。

 他はクラスが違うこともあってほとんど知らない。

 強いて言えばラーダはあまり評判が良くないかな位だ。


 あとは金属性魔法の授業の件でもめた2年生の5人も同じC級受験者。

 なお髪はとりあえず生えそろったという程度までは伸びている。

 流石のアルストム先輩も永久脱毛までは術を試さなかったようだ。

 なお彼らは俺の方を見ないようにしている。

 とりあえず今回は害はなさそうなので放っておこう。


 さて、C級受験者はD級が運動場に集められたのと違い、教室に案内された。

 俺の前で毎度おなじみガリウス教官が説明を開始する。


「さて、C級ともなれば立派に一人前の冒険者だ。だから合格するためには冒険者としての総合力を試させて貰う事になる。

 そんな訳で知っているとは思うがC級は筆記試験が必須だ。この国の冒険者として最低限の知識があるかどうか、まずはテストさせて貰うことになる。

 なお筆記試験は1時間、終わり次第実技試験だ。実技試験は選択式で攻撃魔法、補助魔法、剣術、弓術、槍術、無手格闘術のうち2科目選択となる。実技が終わり次第筆記試験と遭わせて合格者を発表する。

 それでは筆記用具以外の物をしまってくれ、準備でき次第、問題用紙を配る」


 一応C級で出そうな場所は事前に予習してある。

 法律問題と地理問題がメインで、あとの計算だの語学だのはここの入試とそう大差ないレベルだった筈だ、

 筆記用具を出して問題が配られるのを待つ。


「それでは用紙を配る。はじめと言うまで書かない事。元の合図とともにまずは名前を記載する事、あとは……」

 この辺は定番の説明だ。


 問題用紙が配られる。

 さっと問題を確認。

 これなら落ちる事は無いだろう。

 法律問題も地理問題も基礎的な事ばかりだ。

 常識的に考えれば問題ない。


「それでははじめ!」

 俺はまず名前をゆっくり書いて、それから問題を解きはじめる。


 ◇◇◇


 筆記試験は簡単だったと思う。

 確かにこれくらいわからなければ冒険者としてやっていけないだろうという程度の内容だった。

 だから特に振り返ったりする事は無いと思うのだが、どうもそうでもない生徒も多いようだ。


「2番は確か4だよなあれ。公平分配の原則」

「それは問題ないだろ。気になるのは7番、カスタレアの王都って確か3のマダルドでいいんだよな」

「それはバジャドリーだろ」

「あああっ」

 何だかなと思いつつあえて無視する。


 今はグラウンドで実技試験待ちの状態だ。

 6種目ある上、受験生が多い。 

 自然待ち時間が長くなる。


「それでは3組、攻撃魔法から」

 やっと俺達の順番が回ってきた。

 順に得意な攻撃魔法を披露する。

 例によって距離別の的が土で作られ、それに当てる形だ。

 流石に入学試験に比べるとかなりレベルは上がっている。

 半数以上は一番手前の的を壊せる程度の腕はある模様。


「次、ハンス」

 やっと俺の番だ。

 ここは使い慣れた氷弾で行こう。

 無詠唱で3発同時に発動させる。

 相手が土人形なので固くて大きめの弾だ。

 あっさり的の土人形が3体とも吹っ飛ぶ。

「宜しい」 


 下がって他の人の魔法を見る。

 ミリアは相変わらず危なげない感じだ。

 今回は雷精召喚ではなく水魔法と熱魔法の複合魔法で爆発させた。

 あとは2組のシーラとオルソン、3組のラーダも攻撃魔法を選択。

 シーラは火球魔法、オルソンは水撃魔法、ラーダも火球魔法で的を3つともクリアしていた。

 最初にD級だった連中はもともと実技はかなりの腕を持っていた筈だ。

 だからこの程度の攻撃魔法は問題無いのだろう。

 2年生の受験生よりむしろ余裕がある。


 さて、実技試験でもう1つ俺が選んだのは剣術だ。

 受験者の中でも攻撃魔法と剣術の選択がもっとも一般的。

 なおミリアは今回、剣術ではなく補助魔法を選択している。

 女子の場合は攻撃魔法と補助魔法というのもそこそこある選択パターン。

 これはどうしても剣術や格闘術では腕力的に男子の方が強いからだ。

 もっともミリアの場合は進化種だから腕力でも普人の男子以上あるけれど。

 その辺を見せない為という理由もるのかもしれない。


 D級の試験をやっていた横の試験場が空いた。

 全員終わってから次の科目だろう。

 そう思っていたのだが、新たに教官達が線を引いたり整備をはじめた。

「こちらで並行して剣術の試験をやる」

 受験人数が多いので少しでも効率よくやるという事だろう。


 どうやら学年順でクラス順らしく、最初に俺の番がやってくる。

「次、ハンス」

「はい」

 剣術は入学試験と同様に教官相手に戦う方式だ。

 ちなみに相手も入学試験と同じガリウス教官。


 今度は前回と同じ居合術は使えないだろう。

 だが今回は自前の武器を使う事が許可されている。

 武器の性能も実力のうちという訳だ。

 その辺入学時の選抜とは考え方が違う。


 だから俺が使うのは以前から使い慣れた細身の両手剣。

 これで今度は正面から勝負を挑むつもりだ。

 レベルは俺の方が上だが、経験では圧倒的に教官が上回る。

 普通に考えれば勝ち目はないだろう。

 でも、正面から何処まで迫れるか。

 それを今回は試してみたいと俺は思った。

 今回も審判はシャミー教官。

 だから本気でやっても問題はない筈だ。


 俺は今度は剣を右やや後ろに下げる構えをとる。

 ガリウス教官も両手剣だが、これは幅広で長いいわゆる大剣。

 重さと腕力で叩きつけるタイプだ。

 対人戦にも対魔獣にも有効で使用者も多い。

 だが今回のように試験でダメージを与えない戦いには不利な剣でもある。

 それでも使い慣れた剣を使うという事なのだろうか。


 教官は前と同様、斜め上段に構える。


「はじめ」


 今回はあえて少し間合いを取る。

 授業である程度ガリウス教官の間合いはわかっている。

 身体が大きい分俺も間合いより教官の方がやや長い。

 それより半歩だけ長めに距離を取って様子を伺う。


「やはり上手いな、ハンス。ではこちらから行くぞ」


 ふっと教官が前進した。

 同時に大剣が振り下ろされる。

 外連味のない攻撃だ。

 俺は右斜めへ踏み出し、教官の剣を受け払うように俺の剣を下から振り上げる。


 そのまま振り下ろすかと思った教官がふっと剣を握る手元を手前に引き寄せた。

 ヤバい。

 剣を払うつもりが避けられた。

 でもここで背後に逃げたら突きが来る。

 ここはあえて更に右へ踏み込む。

 同時に俺も剣をもつ手元を今度は左側へと引き付けた。


 教官が再び腕を前に伸ばし、俺の剣を弾く。

 剣の重さが違うのでそれだけで俺の剣は弾かれる。

 無理をせず剣の先側を弾かれるままに後方に回転させ、俺は蹴りを放つ。

 体格差でダメージは与えられないかもしれない。

 だがこれで俺は右側へと逃れる。

 教官は大剣だから若干モーションが遅い。

 だから無事間合いを取り直す事に成功。

 

 もう一度俺とガリウス教官が最初と同じ構えで向き合う形になった。

 次はどう攻めるか、そう思った瞬間。


「そこまでです」

 シャミー教官の制止が入る。

「C級試験なら今ので充分でしょう」


「それもそうだな。どうにも相手の筋がいいと本気になってしまう」

 がリウス教官が剣を下ろす。

 どうやらこれで試験はOKのようだ。

「ありがとうございました」

 俺は一礼して試験場から出る。

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