31 大盾の完成

 少しでも攻撃できる距離が長くとれるよう、少し大回りをする。

 あとはメインの魔小猪イベルデミボアを誘い出すまでは他の魔獣に感づかれないように。

 街道を一度北側に行き過ぎた後、やや戻る形で麦畑跡に入る。

 ゆっくり近づいて、20腕40mの距離から軽い風属性魔法を一発。


 魔小猪イベルデミボアがこっちを向く。

 続いて倒さない程度の風属性魔法を2発。

 完全に俺の方を視線に捕らえた。

 グオォーと一声鳴いて、こっちを向く。

 よし。


 来た時と同じルートで街道に出て、そこからまっすぐに皆の方へと走る。

 全速力だ。

 魔獣と俺の間を少しでも引き離さないとまずい。

 途中で2匹ほど牙ネズミがおまけでついてきた模様。

 気配だけ確認したが振り返る余裕は無い。


 一気にライバーの横を駆け抜ける。

 全速力なので急には止まれない。

 10腕20mちょい走って止まって、そしてライバーの斜め後ろへと戻る。

 モリさんが弓、アンジェが魔法で応戦中。

 ライバーは魔獣を押せるよう盾を横方向に低く構えて待機。

 ミリアは4匹に増えている牙ネズミを熱線で1匹ずつ始末している。


 モリさんの矢が魔小猪イベルデミボアの頭に刺さった。

 でも魔小猪イベルデミボアの勢いは止まらない。

 ここで有効なのは魔小猪イベルデミボアの勢いを落とす水圧ウォータープレスのような水属性魔法か土属性魔法だ。

 だがアンジェはどちらの属性も苦手。

 そして火属性魔法も突進する魔小猪イベルデミボアを倒すにはやや力不足。


 このままだとライバーが吹っ飛ばされるな。

 仕方ない、何か魔法で勢いを止めようと思った時だ。

「風属性魔法、衝撃波!」

 ミリアが魔法を発動した。

 魔小猪イベルデミボアが何かにぶつかったかのようによろける。


「火属性魔法、炎球ファイアボール!」

 アンジェの火属性魔法が魔小猪イベルデミボアの顔面に直撃した。

 そのすぐ後、モリさんの矢が魔小猪イベルデミボアのちょうど眉間に突き刺さる。


 魔小猪イベルデミボアはよろけるように横に倒れた。

 でも勢いが殺しきれず、そのままライバーの盾にぶつかる。

 だがライバー、腕力で耐えた。

 魔小猪イベルデミボアは完全に止まる。


 ミリア、最小限の魔法で他の3人で倒せるように仕向けた訳か。

 その辺の調整が見事だなと思う。


「それじゃ回収よ。ハンス、いつも通り自在袋に入れておいて」

 魔小猪イベルデミボア1頭と牙ネズミ4匹を収納。


「さて、次は私が誘い出しをするわ。私に攻撃を当てたら魔法で本気で反撃するからね。絶対当てないこと!」

 おいおい反撃はないだろう。

 でも言いたい事はわかる。

 結構牽引トレイン役は怖いのだ。

 まだ3人に試させる訳にはいかないけれど。


 ◇◇◇


 狩りの時間そのものはせいぜい3時間程度。

 あとは移動時間と解体時間で2時間。

 でも狩りの効率が良かったので収入はかなり良かった。

 1人あたり正銀貨1枚1万円をちょい超えた程だ。


「まだ夕食までには時間があるから、ちょっと買い出しかねて出かけてくるわ」

 ミリアとアンジェがモリさんを連行するという感じで出ていく。


 多分きっと貧民街スラムへ持っていく食料とかだろう。

 そうは思うがそれ以上の買い出しもありそうな気がする。

 モリさんの目が助けてくれと訴えていたような気もしないでもない。

 でも俺は関わらない方が正解だろう。

 そう思う事にする。


「それじゃハンスはどうする?」

「フィンが部屋で倒れている。だからそろそろ起こそうと思う」

「なら俺も一緒に行くぜ。ついでに盾の改良も頼みたいしさ」

「何かその盾に不具合でもあったか?」

 何せ盾については詳しくないので自信が無い。


「いや、盾そのものはいい感じだ。今日みたいに魔獣相手だと特にさ。でもフィンが絡んだらもっといい感じになりそうじゃん」

 確かにそうだな。

「なら行くか」

「ああ」

 2人で俺の部屋へ。


 フィンは俺のベッドでぐっすり熟睡中だ。

「これって睡眠魔法を使っているんだよな」

「ああ。レベルアップ時には結構痛いからな。睡眠魔法をかけたおいた方が楽だ」

 おそらく次回もその次もそうするだろう。

 

「俺達の時もそうだよな」

「ああ、睡眠魔法を使った」 

「睡眠魔法を使うとそう簡単に起きないよな」

「ああ。魔法の威力にもよるが、5時間くらいは起きない筈だ」

 その気になればもっと強力な睡眠魔法もかける事は可能だ。

 でも今回の場合はレベルアップに要する時間だけ気を失っていればいい。

 だから最小限の威力でかけている。


「となるとあの時、モリさんもここで起きない状態で寝ていたんだよな」

「流石にライバーと隣はまずいと思ったからベッドに載せておいたけれどな」

 それがどうかしたのだろうか。


「いや、実際にどうという訳じゃないけれどさ。何をしても起きない状態の女の子がすぐそばで寝ていたというのは何か興奮しないか?」

 おい待てライバー。


「俺は何もしていないぞ」

「ハンスを疑っている訳じゃない。ただその気になればあれやこれや出来る。それって興奮しないか」

 そう言われてもだ。


「相手はモリさんだぞ」

「でも今日見たら結構可愛くなっていたじゃないか」

 それでもだ。


「だいたいそう考えたら、睡眠魔法を使える全員が何らかの形で危険だろう。その気になれば隠形魔法と気配隠匿魔法だってある」

「それもそうか」


 何だかなと思う。

 やはり普人の特に男子はそれなりに性欲過多なのだろうか。

 ここの女子寮にあそこまで念入りに侵入防止措置が必要な程に。

 それともライバーだけなのだろうか。


 とりあえずこの話題をこれ以上進めるのは避けた方がいいだろう。

 そう俺は判断する。

「それじゃフィンを起こすぞ」

 状態異常回復リーマを起動。


「ん、ここは……」

 フィン、あっさりと目覚める。

「あ、そうか。確か強化習得レベリングで……」

 すぐ状況を思い出したようだ。

 なかなか寝起きがいい模様。


「それで成長した実感はあるか?」

「ちょっと待って。水属性魔法、鑑定っと……おっと、魔力がいい感じで上がっている。これならもう少し成分調整なんかも楽になるかな」


「ならフィン、お願いがある」

 ライバーは背負っていた大盾を外す。


「魔獣退治の為にこの盾をハンスに作って貰ったんだけれどさ。何かちょうどいい改良って思いつかないか? 使い勝手そのものはいいんだけれど何か外見が簡単すぎてさ」

 確かに木の枝を形態変化と構造調整しただけだからな。

 外見は盾の形をした大きな板だ。


「いいけれどライバー、何か適当な素材はないかな」

「それは俺が集めておいた」

 今日は魔獣狙いだったがどうしてもある程度ゴブリンには出会ってしまう。

 倒した際に装備は回収済みだ。

 こんなものは売れないので加工して自分や仲間用に使うしか無い。


 ボロボロの短剣、革鎧、木の盾、あと拾った枝等を自在袋から出す。

「うん、これくらいあれば大丈夫かな。それでライバー、何かどうしたいという方向性はある? あと重さはもう少し大丈夫?」 


「重さはまだまだ大丈夫だ。強いて言えば盾で食い止めている時は攻撃できないのがちょい悔しいかな。魔法でも使えれば別なんだろうけれどさ。盾で食い止めている時は向こう側へ剣を振り下ろせないし」

 フィンはうんうんと頷く。


「なるほどね。それじゃちょっと加工するよ。ただちょっと加工にハンスの魔法が必要かな。僕は木属性はあまり得意じゃ無いからね」

「どんな盾にするんだ?」

 俺も興味があるので聞いてみる。


「シールドバッシュなんて技があるよね。あれなら盾で防ぎながら攻撃出来るよ。具体的な改造は2点。ひとつは板が割れて外側に広がらないよう、まわりに鉄で枠をつける事。もうひとつはシールドの表面にスパイクをつける事だね」

 なるほど。

 頑丈なとげ付き盾で殴りつけたり体当たりしたりする訳か。


「まずはゴブリンの剣を材料にして盾の側面に枠をつけるよ。その次にスパイクを数カ所つける。持ち手の反対側には強力な金属性のスパイクを2カ所。他に牙ネズミや牙ウサギなんかの小物用に木製のスパイクを5列くらい。こっちのスパイクは本当は動物の角がいいんだけれどね。とりあえず牙ネズミ程度なら木製でも充分だよ。

 そんな訳で僕は金属部分をやるからハンスは木のスパイクをお願い。スパイクは長さが小指の第二関節くらいまで。太さも根元は小指くらいであとは牙や角みたいに先を尖らせる。それを長さと同じくらいの間隔で20本並べた細長い板を作って盾の表面に構造調整で融合させるんだ。それが12本必要かな」


 出来上がりを想像してみる。


「なかなか危険そうな盾だな」

「対人用としては相手の剣が盾の表面で流せなくなるからあまり良くないけれどね。魔獣用としてなら便利だと思うよ」

「なかなか格好良さそうでいいな」

 ライバーも想像したようだ。


「それじゃ加工をはじめるよ」

 フィンはゴブリンの剣2本を材料に加工を開始する。 


 ◇◇◇


 約3半時間20分後。

 かなりゴツくて凶暴な盾が完成した。

 基本は騎士等が使う四角い大盾とほぼ同じ。

 木製だが枠部分と中心の縦横に鋼の補強が入りかなり頑丈になった。

 更に持ち手の反対側に牛魔獣の角のような頑丈そうな鋼のトゲが2本。

 それ以外の部分ほぼ全面に小さいトゲがびっしり生えている。

 凶暴な針鼠のような盾だ。

 それでも授業で使う鉄大盾よりはやや軽い。

 腕力自慢のライバーなら片手で振り回す事も可能だ。


「凄え強そうだ、これ」

 ライバー、超ご機嫌の模様。


魔小猪イベルデミボア以上の魔物が来ても授業で習った阻止姿勢を取れば、ライバーなら充分耐えられる筈だよ。牙ウサギや牙ネズミ程度なら上手くタイミングを合わせればシールドバッシュだけで倒せると思うしね、小さい方のトゲでも」


 魔獣相手の前衛用としては理想的な盾だなとは思う。

 重いからそれなりの腕力が無いと使えないけれど。

 それにしてもこういう武器の制作についてはやっぱり俺よりフィンの方が知識もセンスも遙かに上だなと感じる。

 経験の違いという奴なのだろうか。

 もっとそれ以上の、発想力の差というものも感じる。

 この辺はきっとフィンの個人的資質なのだろう。

 普人と獣人の差という訳では無い、きっと。

 

 

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