第14話 夜間外出の理由
28 追跡の2人
皆が顔を揃えた夕食時の食堂。
各人それぞれ結果を報告し合う。
「一気に魔力が3割上がっていたの。体力も結構上がっていたし絶好調よ」
アンジェはまさに絶好調という感じ。
「俺は魔力と体力が倍、他は平均的に3割ずつあがった感じだな」
モリさんはアンジェ以上に能力の上昇が著しいようだ。
「何かモリさん、とんでもねえな。俺は多分体力だけだぜ目に見えて上がった。他は全部大した事はない。前の数値をおぼえてないから自信無いけれどな」
ライバーは本人申告では体力だけの模様。
ミリアがうんうんと頷きながら説明する。
「レベルアップまでにどんな事をしたかで伸びる能力が決まるのよ。あと元が弱いほど上がりやすいというのもあるわ。だからほぼ魔法を使わないで体力で押し切ったライバーは体力しか上がらなかった訳。アンジェは魔法だけじゃ無くて前衛もやったから全般的に伸びたし、モリさんは多分授業でも実技をかなり頑張ったんじゃない? 全般的に伸びるとはそういう事よ」
なお夕食時だが例によって
だから同じテーブルにつかない限りこの会話は聞こえないはずだ。
「でもミリアやハンスは俺達の面倒ばかり見て大丈夫なのか」
「ちゃんとレベルアップしているし問題無いわよ」
「ならいいけれどさ。俺達のせいで足踏みしているようなら申し訳ないし」
「そう思うならさっさと強くなること!」
「はいはい」
この辺は途中経過こそ微妙に違えども毎度の会話だ。
モリさんにも特に変わったところは見られない。
俺に気づかれなかったと思っているようなら幸いだ。
「あとはフィンにも武器代を早く払えるようにならないとな」
「でもモリさん、実は結構お金貯まってない? 服にも使っていないようだし学用品も最小限だけよね」
確かにアンジェの言う通りだ。
他の2人はそれなりに金回りが良くなったのが見てもわかる。
アンジェは服が大分充実した模様。
討伐に出かける際の服も麻を使った涼しいが頑丈で動きやすく戦闘にも向いた服になった。
ライバーも同様に服が新しくなった。
更に昼食を人一倍食べるほか、夜食も毎回購入しているようだ。
それに比べるとモリさんはかなり節約している状態。
昼食代すら節約しようとしてミリアに怒られた程だ。
服も授業の時こそ襟のある服だがこれ、毎回同じ服のように見える。
討伐に行くときは鎧の下が見えないのをいいことによれよれのシャツなんて着ているし。
「そう言えばモリさん、夜ちょくちょく出かけているよな。まさか夜の店とかに貢いでいる娘がいるんじゃないか?」
性別的にそんな事は無いだろうと思って、ふと思い返す。
普人の夜の店って確か男が接客する女性向けのむふふな店もあるんだよな。
その辺の文化は獣人社会には無かったからよくは知らないけれど。
「だったら真っ先に服を新調するわよ。自分を格好良く見せるためにね」
おっとミリア、なかなか鋭い意見だ。
その辺の思考が元々獣人の俺には今ひとつわからない。
文化の違いというか何というか。
俺も普人世界の暮らしが長くなればわかるのだろうか。
この獣人社会と比べて今ひとつ生ぬるく緊張感のない、でも何気に楽しく快適な暮らしに。
「そう言えばハンスも夜いないよな。遅くに帰ってきているようだけどさ」
どうやらライバーは夕食後、暇だと寮の知り合いの部屋を訪問している模様。
「俺の場合は狩りに出ている。夜の方が魔物は出やすい」
「おっと夜狩りか。一度行ってみたいよな」
「ライバーにはまだ早いわ」
あっさりミリアがそう言い切った。
「夜だとゴブリンが出る頻度も数も倍以上よ。私もついて行った事があるけれど、一気に30匹以上の上級種を含むゴブリンを相手に戦ったりするのよ。魔法と格闘と両方使いながら。今のライバーじゃ命がいくつあっても足りないわ」
確かにそうだけれどもミリアが言い忘れている事がある。
「ミリアも似たような事をしているけれどな」
「屍体を集めたいからってぎりぎり近くに寄せて倒すなんて怖い真似はしないわよ」
「理解した。俺にはまだ早い」
なにはともあれライバーも納得したようだ。
「でもそうだとしたら、あの私達の
「自分用も狩るから問題無い」
「そうそう。だから特に気にする必要は無いからね」
この辺はいつものミリアのツンデレとかいう奴だ。
◇◇◇
そんな夕食が終わって約1時間後。
俺は何故かミリアと一緒にエデタニアの街中にいた。
それもいわゆるスラム街にだ。
今は隠形魔法と気配隠匿魔法を展開して音を立てないように路地を歩いている。
俺達の
つまり俺達はモリさんの後をつけているのだ。
夕食の後、また夜の討伐に行こうかと思って門を出たところでミリアに捕まった。
「今日はモリさんを尾行するわよ」
「何故そんな事をする」
「モリさんが騙されていたり、そうでなくても何かあったら嫌でしょ。だから念の為確認しに行くの」
おいおい。
それはそれでモリさんの勝手というか自由じゃないだろうか。
そう思ったけれどこの意見はミリアには言わない。
代わりにもう少し受け入れやすそうな意見を口にする。
「ライバーの思い違いかもしれないし、何もない可能性もあるだろう」
「何もないとわかればそれですっきりするじゃない」
普人とはこんなに親切というかお節介なものなのだろうか。
それともこれは単にミリアの性格だろうか。
後者の可能性が高いが前者の可能性も否定できない。
たとえばあの危険人物、アルストム先輩もそういうお節介かつ親切な面がある。
上級生に言いがかりをつけられそうな俺を気にしてついてきていたり、他のパーティがオークに襲われた際に助けに来たり。
あの先輩は性格が多少歪んでいる気もするがそれは別論として。
とにかく俺はミリアに押し切られ、校門を出たところで待機。
出てきたモリさんを追ってここまでやってきた訳だ。
モリさんはまず市場に行き、閉店間際の店でパンだの野菜だの肉だのを購入。
「何か変ね。夜食としても多すぎるわ」
ミリアがごくごく小さい声でつぶやく。
確かに俺もそう思う。
モリさんがどれくらい食べるかはほぼ毎食一緒なのでわかっている。
昼食は確かに金銭節約のために少なめにしているかもしれない。
だが朝食や夕食はおかわり自由なのだ。
ライバーなどパンを1斤近く食べている時すらある。
そういった際の状況から見てもモリさんは小食な方。
あの買い方なら3日は自炊可能だろう。
そこから更に歩いて、現在は
この辺は半ば壊れかけた家とか適当な板や土魔法で作ったバラックとかが多い。
危険と言うよりも貧しいという感じの場所だ。
その中を勝手知ったるという感じでモリさんは歩いて行く。
そしてモリさんは中でもかなり状態の悪い朽ちかけた土壁の家にふいっと入っていった。
いかにも怪しい感じだ。
「行くわよ」
ミリアは後を追って家のすぐ側へ。
俺も仕方ないなと思いつつミリアに従う。
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