27 モリさん達のパワーレベリング
「そして
つまりこれからやるのはこっちの湿原の水を穴の中へと流し込む作業よ。簡単だけれども言った通りに注意してやること。穴の中の魔物が出てきたら勝ち目が無いからね」
基本的に説明は頼まないでも全部ミリアがしてくれる。
俺としては楽でいい。
「穴の中にはどんな魔物がいるんですか」
アンジェが質問。
「予定だとファイアスライムやマグマスライム、ファイアゴブリン、ボルケーノウィスプといったところよ。まれにファイアボールを撃ってくるから穴の正面には出ない事。基本的に穴を最小限しか開けないで水を流すけれどね。それでも注意はした方がいいわ」
「話でしか聞いた事が無い魔物ばかりだな」
確かに一般的にはモリさんの言う通りだろう。
「本来は火山洞窟の中にいたりする魔物を火属性魔法を使って発生させているの。そうしないと水で退治なんて出来ないでしょ。それじゃ始めるわ。ハンス、手伝って」
ミリアは湿地の水たまりから
俺も同様に残り2カ所へと水路を掘った。
水が水路に流れ込む。
更にミリアは魔法で岩の下部分にバツ印をつけた。
「そのバツ印の下に魔物がいる穴が埋まっているわ。だから土属性魔法でそこに穴を掘って。真下に向かって掘ればそのうち穴に出るから。そうしたら穴と水路を繋げて水を流すだけ。水が流れ始めたら出来るだけ早くその場から森側へ逃げる事。水が中の熱で沸騰して爆発する事があるから。
どのバツ印の下もほぼ同じ程度の魔物が入っている筈よ。それじゃ開始」
アンジェは魔力に余裕があって魔法も3人の中では使い慣れている。
だからかあっさりと穴掘りは完成。
森の方へと逃げる。
一方でモリさんとライバーは苦戦している。
モリさんは元々魔力が弱いし魔力も低い。
ライバーも腕力はあるが魔法は苦手。
ただ魔法で薬草を掘るのとそう難易度の差がある訳では無い。
だから土が多少かたくとも出来る筈だ。
「おし、完成」
モリさんが先に完成させたようだ。
念の為走査魔法で確認してみる。
うん、問題ない。
「魔法でやるのって難しいよな。手で掘る方がよっぽど簡単だ。こんな物でいいか」
「駄目よ。もっと穴を大きくしないと水が流れないわ」
「面倒だよな。スコップでもあれば簡単なのに」
「魔法でやるのも練習よ」
今度からライバーのために大型スコップを用意しておこう。
俺は密かにそう思った。
ライバー、レベルアップしても魔法方面の才能は無さそうなイメージだから。
「これでいいか」
「まあOKね。それじゃこっちに下がって」
ライバーが森へと避難した直後だった。
トドーン!
アンジェが水を流した場所で岩が動いて、水が噴き出す。
「えっ、大丈夫?」
勿論問題は無い。
「中の魔物が流れてくる水に抵抗出来なくなったの。それで流れてきた水が直接高温の魔物と接触して水蒸気が発生した訳」
まさにミリアの説明した通りだ。
「何か難しいな」
「モリさんは勉強が足りないの!」
「俺もわからん」
「ライバーも!」
ミリア、厳しい。
でもどうせその辺は魔法の授業でやるだろう。
水属性魔法と火属性魔法を併用して水蒸気爆発を起こす方法は割とよく使う。
初級程度の魔力と腕でも使えて威力が大きいから。
「何か身体が熱くなってきた」
アンジェに効果が出てきたようだ。
「レベルが上がると身体がより強力に作り替えられるの。だから熱や痛みが出たり、場合によっては気を失ったりするわ。でも3時間程度あれば収まるし健康に害はないから大丈夫。気を失ってもハンスと私でちゃんと寮に連れて帰るから心配しないで」
「何か俺も身体全体がビリビリしてきたぞ。うっ、これは……」
「モリさんは体力も魔力も少ない分結構反動があるかもね。でも害はないから心配しないで」
「うわあっ、痛い、痛い……」
アンジェがしゃがみ込んで倒れた。
ミリアから魔法が起動した気配。
魔力がアンジェだけで無くモリさんもライバーも包み込む。
3人はゆっくりとその場に倒れた。
「最初から睡眠魔法をかけておいた方がよかったわ。いきなりレベルが2桁あがったりしたら苦痛も酷いでしょ」
確かに言われてみればそうだ。
だが問題が無い訳でも無い。
「この3人を運ぶのか」
「モリさんは私が運ぶわ。他の2人をお願い」
ミリアめ、一番楽なのを選びやがった。
でもまあ仕方ない。
「街道まで運べば荷車を使える。そこまでは何とかするか」
まずは持ち物や武器を自在袋に収納。
ミリアは横抱きでモリさんを抱えて、俺は両肩に人さらいスタイルで2人を抱えてこの場を後にした。
◇◇◇
街道に出た処で荷車を出し3人を載せる。
あとは引っ張って学校へ戻るだけだ。
一応北門を入る時、衛士さんに声をかける。
「魔力を少しでも上げるために限界まで使ったらこうなりました」
「頑張るなあ。でも危なくない程度にしておけよ」
そんな感じであっさり通過。
荷車を使っているので少々大回りをして大きい通り経由で学校へ。
この辺モリさんが起きていれば荷車が通れる最短経路がわかるのだろうが仕方ない。
その辺は今度聞いておこう。
学校の門番さんにも北門の衛士さんと同じように説明。
「次はほどほどにしておけよ」
ここでもこの程度でOKだった。
とりあえず女子寮との境界線で荷車を止める。
「夕食時間終わりまでには間に合うでしょ。それまで2人はハンスの部屋で面倒を見ておいて。私はアンジェを預かるから」
アンジェを抱えたミリアと別れ、俺は男子寮へ。
寮の入口、寮監室でも尋ねられた。
「2人はどうした」
「魔力の限界です」
「そうか」
ここでもあっさり。
よくある事のようだ。
ここを通れば俺の部屋はもうすぐそこ。
扉を開けて2人を運び入れる。
荷車を自在袋に仕舞って、2人の装備を出して並べて。
装備と2人、俺自身を清拭魔法を使って泥だの汚れだのを綺麗にして
ついでだからモリさんの鎧は脱がせておこう。
まずは肩紐側から結び目をほどき、次は後ろ。
腰側の紐をほどく時、何か違和感を感じた。
何だろう。
わからないままほどいてひっくり返し、前甲を外す。
そこで俺は違和感の正体に気づいてしまった。
今日は天気が良くて暖かいからだろう。
革鎧の下は厚手のシャツ1枚だ。
鎧を外した時によれたせいで首元がはだけた状態。
シャツの布地も汗で蒸れたせいか中が少し透けている。
だから胸の周りに布を巻いている事がわかってしまうのだ。
先程の違和感の理由もはっきりわかった。
今思えば体形が違うのだ。
腰がかなり細めでその下がわりとしっかりしている。
モリさんは女の子だ、きっと。
これ以上確かめる必要があれば下なり胸の布なりほどけばいい。
だがそれをするのは流石に気が引ける。
ならどうするか。
取り敢えず見なかった事にしよう。
もし本当に女子だとしても何か理由があるのだろうし。
脱がした前甲をもう一度付け直す。
女子だと思うとこの辺の作業をするのもどきどきものだ。
身体もこころなしか柔らかく感じる。
モリさんであることは変わりないのに。
取り敢えず元の状態に戻して、そして窓を全開にする。
微妙に女の子っぽい体臭がした気がするから。
ついでに窓の外の空気を思い切り吸いこんで深呼吸。
何度か繰り返して気を落ち着ける。
いや、俺は何をドキドキしているのだ。
相手はモリさんだぞ、全く。
でもライバーと横並びに寝せておくのは取り敢えずやめておこう。
しかし床面積が広くないこの部屋だと他に寝せる場所はベッドしかない。
仕方ない、モリさんはベッドに寝せて、俺は机にでも向かう事にしよう。
ライバーは体力馬鹿だし装備は胸当てだけだしこのまま寝せておいて問題無い。
またモリさんに触れてしまうが不可抗力だよな、これは。
我ながら何だかなと思うが、どうしようもない。
すべてモリさんが悪いのだ。
そう思う事にする。
さて、机に向かったついでだ。
気を落ち着ける為に魔法理論についての教科書なんて読んでみるとしよう。
単なる誤魔化しのつもりだったが、これはこれで案外面白い。
以前メディアさんに教わった事はこういう事だったのかと再認識したりもする。
なるほど、魔力の跳ね返りを利用して遠方へ走査をかけながら発動させる方法はこうすればいいのか。
風属性や水属性では何となくやっていた事が、この説明通りにやれば他の属性でも出来そうだ。
たとえば土属性魔法に応用すればさらに穴を深く掘ることが出来る。
次に自分用の
差し当たってその魔法式は……
夢中になって魔法式やその応用を考えていた途中。
ゴーン、ゴーン……
5時の鐘が鳴った音が聞こえた。
俺は教科書を置く。
睡眠魔法をかけてから3時間以上が経った。
そろそろ起こしても大丈夫だろう。
「生命魔法、
睡眠は魔法上は軽度の状態異常とされている。
だから一番簡単な
「ん、あれ、ここは……」
「何だ……って確か」
2人とも一応起きたようだ。
一応何を話してもいいように魔法をかけておこう。
「風魔法、
それで2人に問いかける
「さて、
「寝起きだからよくわからん。少し身体が軽いような気がするが」
こら
「授業で鑑定魔法を使って自分の状態を確認する方法をやった筈だろ」
自分を鑑定するのは水属性の初級魔法だ。
「おっと、そうだな。水魔法、鑑定」
モリさんが、続いてライバーが鑑定魔法を起動した。
「おっと、体力が倍近いぜ」
その言葉遣いにわざとらしさを感じたのは単なる俺の先入観からだろうか。
「具体的には言わなくていい。ステータスは個人の秘密だ。見てみればレベルというのがあるだろう。それを上げると他の能力も上がる。どの能力がどれくらい上がるかは人によって違うが」
「しまったな。俺、前の数値おぼえてない」
まあライバーみたいな奴がいるのはお約束だ。
レベルアップなんて概念が無いなら、いちいち数値をメモしたりもしないしな。
「そのレベルが30を超えたら、少なくとも基礎能力だけならB級冒険者並にはなる筈だ。それまでは適当なペースで今回と同じ
「このペースだとあと2回もやればレベル30を超えるぜ」
「俺は前がレベル1だったとしてもあと4回は必要だな」
その辺について軽く説明をしておくとするか。
今はミリアがいないから説明できるのは俺しかいないし。
「レベルの上昇については元の強さが関係してくる。一般的には弱ければ弱いほど同じ
さて、当座の説明はこんなところかな。
「それじゃあと1時間で夕食だ。とりあえず事務室へ行って薬草とスライムの魔石を換金したら各自戻って着替えだな」
「わかった」
「了解だぜ」
とりあえずモリさんは俺が性別に気づいた事に気づいていないようだ。
ちょっと安心。
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