第9話 パワーレベリング初級編
26 レベリングの準備
モリさん達が新装備になった日の夜。
俺とミリアは狩りに出ていた。
レベリングに使う魔物を狩る為だ。
「フィンはモリさん達に比べると元のレベルが高そうよね。最低でもゴブリン10匹くらいは必要だと思うわ。あと私のレベリングにも確保したいから、最低でも60匹は狩りたいわね」
「だな」
幸いゴブリンは夜行性。
街道あたりでも魔法で走査すればそれくらいは簡単に狩ることが出来る。
まずは北門から街道沿いを歩いてゴブリン15匹を確保。
これでフィン用は充分だろう。
「場所は皆と同じ場所でいいかしら」
「金属性魔法を使えるなら土属性も使えるだろ。土埋めや岩潰しを使えるだろうからどこでも問題ないんじゃないか」
「でも魔力がそんなに無いようだし、念の為皆と同じ場所がいいんじゃないの?」
「確かにそれもそうか」
街道を戻り、北門から出て少し歩いたところにあるいつもの湿地手前の場所へ。
穴を掘り、ゴブリンの屍体15体を入れて岩で塞ぐ。
モリさん達のものより若干穴が深めでゴブリンが多い以外は同じ構造だ。
「それじゃ後は私用ね」
「レベルアップしても自分で帰れる程度にしろよ」
「まだまだハンスのほうがかなりレベル上だしいいじゃない」
よくない。
起きていたらモフられていたというのは精神衛生上悪いのだ。
「とりあえずレベル100まではこの調子でレベルを上げるわよ」
「レベル50で進化種になっただけで以降は何も無かったが」
「でも持てる魔力とかはレベルでかなり変わるじゃない。それに勇者とか賢者なんて幻の
確かにそうだけれども、その辺は条件が難しい。
「俺はレベル105だけれどまだ魔道士だ」
「賢者になる条件ってのはわかっているの?」
言いたくはないが一応わかってはいる。
「確か、
○ レベルが100以上あって
○ 種族が
○ 基本4属性の上級魔法をマスターした上で、
○ 融合属性のひとつである生命属性を上級魔法までマスターする
だと聞いた気がする」
「ならやっぱりレベル100は必要じゃない」
はいはい仕方ない。
「場所は何処にするんだ?」
「ゴブリンの数が欲しいから北上しながら考えるわ」
結局俺がまた面倒な目にあう訳か。
勘弁して欲しい。
街道を歩きながら出て来たゴブリンを俺とミリアの魔法で討伐する。
「できれば回収の手間を考えて街道上に出てきてから倒してくれ」
「はいはい。自在袋の容量を借りている身だしそれくらいは受け入れるわ」
夜だけあって走査魔法にはかなりの数の魔物や魔獣が確認できる。
ほとんどはゴブリンだ。
このゴブリン、討伐対象としての人気は無い。
素材にならないので収入源としての魅力があまりないせいだ。
冒険者で狙うのはモリさん達のように早くD級に上がりたい新米くらい。
一般の冒険者は魔獣狩りの際に出てくるので仕方なく倒すという程度だ。
だから専ら衛士等が街の安全対策としてパトロールで倒すのがメインとなる。
しかしゴブリン、一応魔物なので魔獣よりも魔素を多く含んでいる。
つまりレベリング用の素材としては悪くない。
大きな街の近郊なら少し放っておけばうじゃうじゃとわいてくるし。
「もう少し行ったら群れがいそうだから、そこでゴブリンを寄せるわ。次に出てきたら近くに寄せて足を狙って」
「わかった」
ゴブリンを動けなくさせて仲間を呼ぶ方法を使うつもりだろう。
俺も前に使った奴だ。
◇◇◇
50頭弱のゴブリンを倒し屍体を集め、魔石を回収した後。
結局モリさん達用の
ただミリア用は穴が俺用のものほどではないが深い。
なおかつ穴に完璧な防水処理を施してある。
「次の安息日まで待てば前以上に魔物が増えるよね」
「これくらい深く掘ってあれば大丈夫だろう」
つまりこの場所に俺用、ミリア用、モリさん達用3カ所、フィン用と
だからこの辺の
「毎日この装置を作って回収してを繰り返せばレベルも上がるわよね」
「毎日数レベル以上なんて上げたら身体が損傷しかねない。せめて間に3日程度は開けた方がいい」
「そんなものなの」
「そう聞いた」
勿論メディアさんにだ。
「なら毎週で勘弁して貰うわ」
つまり毎週俺は倒れたミリアを寮に連れて帰らなければならないのか。
頼むからそれは勘弁して欲しい。
「なら自分で帰れるように工夫してくれ」
「レベルアップした後は動けなくなるから仕方ないじゃない。あ、でもハンスの場合はどうするの? 何なら私が連れて帰る?」
余分な事をされそうなので遠慮する、なんて本音は勿論言わない。
「俺の場合は近くに予め設置型魔法陣を描いたシートを敷いて、その上に野宿セットを展開しておく。そうすれば魔物や魔獣が野宿場所に入れない。念の為土魔法で回りに壁をつくっておいてもいい。
そうした上で
「そっか。そういう方法もあるのね」
「というかそうするのが本来の方法だ」
「でも説明しなかったじゃない」
確かにそうだけれども。
「あとモリさん達3人をレベルアップする時はどうするの? 1人ずつやれば連れて帰れるけれど3人一度にやると大変よね」
「最悪の場合はこれを使う」
最近使っていなかったなと思いつつ自在袋から荷車を出す。
「こんなの良く持っているわね」
「今の自在袋を使うようになるまではこれを使っていた」
猪魔獣やオーク等大型魔獣を捕らえた際に運ぶ為の、人が引くタイプの二輪車だ。
これなら人間3人くらい載せても問題は無い。
「門番に何か言われない?」
「魔力を使いすぎて気絶したとでも言っておけばいい。初心者にありがちな事だ」
これは必ずしもミスという訳ではない。
気絶する位まで魔力を使うと回復時に少し魔力が増えるのだ。
特に魔力が少な目で年齢が若い場合に効果がある。
だから問題視される事も少ないだろう。
「なるほど。よく考えてあるわね」
「たまたま荷車は持っていたからな」
そういう使い方をする予定は無かったのだけれども。
それともメディアさんは予期して俺にこれを持たせたままにしたのだろうか。
あの人は規格外すぎてその辺を推し量ることは俺には出来ない。
「ならアンジェとモリさんとライバーは3の曜日、フィンは4の曜日で強化習得させればいいわね」
「ああ。だが雨天順延だな」
雨が降ると面倒だ。
この辺の土もぬかるむだろう。
雨スライムなんてお邪魔虫も沸いてくる。
もともとすぐそばが湿地帯だしな。
「その場合でもこの穴から魔物が溢れたりしないかしら」
「2日くらいは大丈夫だ。倒すのが少々厄介になるだろうが」
この程度の魔物の量なら問題は無い。
その辺も経験済みだ。
万が一の事があってもミリアと俺がいれば問題ないだろう。
◇◇◇
そんな訳で3の曜日の午後。
本日はフィンが武器店のバイトだからパーティは5人。
武器貸与の件もあってフィンは完全にうちのパーティのメンバーになってしまっている。
昨日も勿論一緒に来て、今度は前衛で専用魔法槍を使って戦っていたし。
なお専用魔法槍はアンジェのものと同じ火属性魔法仕様だが形が少し異なる。
柄の部分が長めで穂先が短め。
「僕はこの方が振り回しやすいからね。魔力も少なめで済むし」
だそうだ。
ゴブリン相手には間合いが長く威力が大きくて便利。
だが魔獣には向かないと本人が言っていた。
『これで倒すと毛皮も肉も火属性魔法で駄目になるんだよ』
確かにそうだなと言われてみて思う。
さて、本日はモリさん、ライバー、アンジェに
「これからアンジェ達には特殊な方法で今までより強くなって貰うつもりよ。でもこの方法は他の人には絶対話さない事。少し特殊な方法だからね。どう、守れる?」
北門を出て少し歩いたところでミリアが3人に尋ねる。
「大丈夫だ」
ライバーはあっさり。
「フィンはどうするんだ?」
「フィンには明日やって貰うつもりよ」
「なら問題無いぜ」
モリさんもOK。
「違法だとか倫理的にまずい事じゃないよね」
アンジェはやや慎重だ。
「それは問題無いわよ。教会の奥の院がやっているような事はしないから」
そういえばアンジェは教会出身だった。
少なくともミリアの返答はそれを前提にしたもののようだ。
「なら大丈夫。誰にも言わないわ」
「それじゃ今日はスライムを倒しながら行くわよ。薬草も見つけたら採取ね」
今日は
その分スライムと薬草で少しでも穴埋めをしたい訳だ。
3人とも貧乏だし。
「おっと、ゼリア草発見」
モリさんが歩きながら薬草を見つける。
今日は前から3番目、ライバー、アンジェの後ろなのに真っ先に気づいた。
モリさんは割と見つける系は得意なようだ。
魔物の気配もこの中では一番先に感知するし。
「でもこれを捕るのはいまいち得意じゃ無いんだよな」
「なら私がします」
アンジェは魔力が元々高めだし魔法もそこそこ得意。
そして先頭のライバーはパワー馬鹿だが前衛としての戦力は悪くない。
このパーティで出るようになって3週間でかなり違いが出てきた。
自分の事じゃないけれど少し楽しみだ。
モリさんがゼリア草を3本発見してアンジェが採取するというパターンの後、湿地帯の手前に到着する。
「ここからは右、湿地帯と森の間を歩くわよ。ここからはモリさん先頭で。でもライバーやアンジェも索敵はする事。あとスライムは矢がもったいないから見つけたらライバーが退治する。ここまでライバー働いてないし、いいわね」
「わかったよ」
ここからはスライムが多い。
「おっと、この10歩くらい先右の木の下、スライムだ。ライバー頼む」
「OK、って何処だ?」
モリさんが見つけてもライバーに伝わらない事もある。
木のかげ等にいると見つけにくいようだ。
でもいいかげん慣れて目が見つけてくれる頃だとは思うのだけれど……
ただ見つけたらライバー、危なげなく一撃で仕留めてくれる。
その辺前衛としての腕だけは安心できるのだけれどな。
スライムを2匹倒し、ゼリア草4本を採取した後。
「ここよ、止まって」
俺達は
念の為辺りを魔法走査する。
付近に俺達の他の人間はいないようだ。
「ここに
まずは魔物の屍体から魔素が発生して穴の中に新たに魔物が発生する。発生した魔物は付近の魔素を吸い取って少しずつ強力になっていく。3日経てばかなり強力な魔物が穴の中に複数発生しているわ。それを一気に退治して魔物から
まあ私もこれはハンスに教わったんだけれどね。わかった?」
頷いたのはアンジェだけだ。
「
モリさんの質問に同意という感じでライバーが頷く。
「人や魔物を成長させる力の一つだと思っていいわ。ただこの知識も他の人には言わないでよ。昔、教会が禁じた知識の一つだからね」
「何で教会が禁じたんだ?」
「人を殺しても
アンジェが小さく頷く。
やはりその辺について知っていたようだ。
「なかなか怖い話だな」
「だから他の人には話さない事、いいわね」
「わかった」
「了解だ」
よしよし。
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