25 驚異の新兵器
「僕は金属性魔法が使えるからね。金属製の武器を持って動く対象は魔法でわかるんだよ。だから魔獣とかだとちょっと自信無いな。それにハンスもモリさんも出てくる前には気付いていたよね」
「まあそうだけれどさ」
「私はわからなかった」
モリさんはわかっていて、アンジェはわからなかった模様。
「ならモリさんは弓も練習した方がいいんじゃないかな。使う弓さえ選べばそんなに力は使わないしね。討伐の時は見通し距離はそんなにないから長弓のような飛距離はいらないから。僕と同じように槍と弓との併用でいいんじゃないかな。
あとアンジェさんは魔法槍で前衛なんて事も出来ると思うよ。魔法槍なら火属性の魔法を使えるしね。
あとライバー君は片手剣でももう少し長い方が間合いを取れるし楽なんじゃないかな。そこまで長い片手剣は一般的じゃないけれどライバー君の腕力なら問題なさそうだしね」
「でも武器って高いからさ。おいそれとは手が出ないんだよな」
そうなのだ。
たとえば弓なら最低でも
普通サイズでない片手剣なんてカスタムするしかないから
魔法を付与できる魔法槍は材質調整が難しいので
とても貧乏学生が買える値段ではない。
ライバー用片手剣くらいなら何とか俺でも作れるだろう。
でも弓はそれなりの技術が必要だ。
魔法槍なんて流石に専門家でないと作るのは無理だろう。
そして俺やミリアは魔法主体で接近戦も出来るというタイプ。
だから弓だの魔法槍だのなんてのは持っていない。
しかし。
「何なら試しに使ってみる? 長い片手剣は流石に無いけれど、他は試作品でよければあるよ」
フィンは気軽にそんな事を言って、かけている鞄から弓と槍を取り出す。
ちょっと待てよ。
「何故そんな物を持ち歩いているんだ?」
「思いついた物は作りたくなるよね。そして作ったものはやっぱり試したくなる訳だよ。だから討伐中に試せないかと思って試作した武器をいくつか持ってきたんだ。この鞄は自在袋を束ねた構造で試作武器が10個までなら入るから」
なるほど。
フィンは根っから制作側の人間なんだな。
「そういえばゴブリンを撃った弓もかなり変わったものだよな」
「弓って慣れないと真っすぐに飛びさえしないじゃない。それに引っ張る時に余分な力が必要だったりするよね。その辺を改良した試作品だよ。使い方さえ守れば誰でも思ったところに飛ばせる弓。これは昔作ったものでちょっと重いけれど、僕はこれで慣れているからね。
だからモリさんにはこっちの弓。今僕が使っているのの改良版で軽くて狙いやすい。でも威力は近距離なら普通の弓より上だよ。あとこっちの槍は火属性魔法を使う事を前提にした槍。魔法導線を仕込んでいるから魔法杖としての性能も悪くはない筈だよ。僕は攻撃魔法が苦手だからまだ試しきっていないけれどね」
武器屋でもお目にかからないような新型武器があっさりと出てくる。
「何か凄いわね」
「一般的な冒険者はいままでの武器で慣れているからね。こういった新奇な武器は使いたがらないんだ。だから店には置いてもらえない。でも本当は弓なんかはいくらでも改良できる余地があると思うんだよ。わかってくれる人は少ないけれどね」
「ならこの弓、今日だけ借りてみてもいいか?」
モリさんが出された弓を手に取る。
金属製の部分が少ないけれど、他はフィンが使っている弓と似たものだ。
「うん、どんどん使って感想を教えて欲しいな。矢と矢筒はこれを使って。これは専用の矢だけれど一般的な矢でも使えるから。左手は必ずここを握る。矢はここのガイドに挟む形でつけた後、ここのガイドを引っ張る形。射る時にここに目をあてる。ここの線とここのガイド、標的が一直線に並ぶように狙ってから手を離せばまず当たるよ。ここのガイドは
持つ場所も引く場所も経験で決める通常の弓と違い、かなりシステマチックな作りのようだ。
確かにこれならやり方さえおぼえれば初心者でも使えるだろう。
勿論設計や製作が意図通りに出来ていればだけれども、さっきのフィンの弓とその腕を見れば問題は無さそうだ。
「ミリア、ちょっと試していいかな」
「勿論よ。獲物が出てからでは遅いわ」
「あとこの槍、穂先が長いのは火属性魔法を使う為だから。火属性魔法をこの槍の穂先に発動させれば大体の獲物は倒せる筈。突くだけじゃなくて斬る事だって剣以上に出来る筈だよ。その辺の細い木なら力をいれなくても斬れるんじゃないかな。
魔法の発動具合に慣れが必要だけれど、相当に魔力が強くない限りは普通の攻撃魔法の感覚で発動させても壊れないように作ったつもりだよ」
これも普通の魔法槍とは違う使用方法だ。
「普通の魔法槍って、起動した魔法属性の追加ダメージを与えるものだよな」
「この魔法槍はちょっと違ってね。火属性魔法を起動する事で普通の槍以上に使えるようになる槍なんだよ」
そういう魔法槍、いや魔法武器ははじめて見た。
「ごめん、ちょっと私が試していい?」
ミリアが試したくなったようだ。
その気持ちは俺も良く分かる。
「勿論」
「納得出来たらすぐ返すわ」
ミリアはそう言って魔法槍を手に取る。
槍といってもそれほど長い代物じゃない。
モリさんの手槍と同じ程度の長さだ。
ただ穂先部分が黒くてやや長め。
「こんな感じよね」
ミリアが構えたところで槍の穂先が赤く赤熱しはじめた。
「色が白く見える程度までは魔力を込めて大丈夫だよ」
「わかったわ」
穂先が輝きを増して白く光る。
ミリアが槍を振るった。
直径
二呼吸ほどした後、ゆっくりと倒れる。
茂った枝が他の木や地面にぶつかってバサバサという音が響いた。
「とんでもない代物ね。でも普通の鋼じゃこんな温度、耐えられない筈よ」
「芯部分だけが鋼で、周りは木炭を魔法で加工したものだよ。木炭も魔法で精製して成分や構成を調整すれば金属みたいに固くなるんだ。ただそのままでは折れやすいから使う時は最低でも赤熱した状態で使ってね。あとは火傷しないように注意する程度かな」
「私も試してみる」
今度はアンジェが構える。
穂先がオレンジ色に輝いた。
「私だとミリアみたいに白くはならないな」
「その辺は魔力の違いと魔法への熟練度の差かな。でもその色なら威力には問題ない筈だよ」
「試してみるね」
アンジェが槍を振るった。
やや細い木だったがやっぱり簡単に切断される。
「この弓すげえ。面白いように当たるぞ」
向こうでモリさんの歓声。
そう言えば弓もあったんだな。
そう思って見てみると……なるほど。
どうやらモリさんは
木のほぼ同じ高さのところに矢が5本、突き刺さっている。
「慣れるの早いね。それならもう十分に使えるかな」
「でもいいのか、こんなとんでもない物を借りても」
「そうよね。これって買ったら相当高いよね」
確かに普通の弓や魔法槍より高価だろう。
性能がとんでもない。
「むしろ使ってくれた方が嬉しいよ。武器も使わないと意味がないからね。何処の店もこんな変わった物は置いてくれないし。それに使わないと改良も出来ないしね」
「でもこれって改良する必要あるのか? 今のままでも充分とんでもない弓だと思うけどな」
「使っていくとだんだん『これはこうした方がいいんじゃないか』って事も感じると思うんだ。そう感じた時は必ず教えてね。そうすればもっと良くなるから」
「フィンはそれでいいの」
「勿論。どれも実際に使って具合をみたいからね。勿論使いにくいというなら仕方ないけれど」
「でもお金は?」
「どれもお金かかっていないからね。材料も端材を集めたり自分で作ったりしたものだから。他にも本当はもっと試したいものがあるんだけれどね。例えば森での討伐には向かないけれど、こんな弓とか」
俺の知っている弓とは随分形が違うものが鞄から出てくる。
小さめの弓を横に置いて、その上に箱を重ねたような形だ。
「これは何なんだ?」
「連射できる弓だよ。10射分の矢がこの箱の中に入っていて、ここを引くだけでいつでも発射できるようになるんだ。矢が専用のものになるのとあまり距離飛ばないのと、あと本体が大きくて重いから実用にはまだ遠いけれどね」
確かにこの大きさのものを討伐の際に持って歩くのは勘弁してほしい。
「何か俺にも使えそうな面白い武器はないか?」
ライバーがフィンの鞄の方を注視しながらそんな事を言った。
「うーん。ライバー君は腕力があるから魔法剣より普通の長い片手剣の方がいいと思うんだよね。でも素材調整って結構魔力を使うんだ。だからちょっと待ってくれると嬉しいな」
「素材があればいいのか.。ならさっき倒したゴブリンの剣とかは」
「ライバー君の剣を伸ばすのには剣に使える品質の鋼が
「ライバー、無理言わないの。だいたいその剣だってハンスからの貰いものよね」
でもフィンの説明を聞いて待てよと思う。
フィンには出来なくとも俺なら出来るな。
「要は鉄に炭の成分を少しだけ加えればいいんだな」
回収したゴブリンの剣2本を自在袋から取り出す。
まずは錆びた部分を除いて鉄の部分だけにした塊にしてと。
炭の代わりはその辺の枝でいい。
火魔法で枝を炭にして、塊の上に置いて材質調整をかける。
「こんな感じでいいか。ライバーの片手剣とほぼ同じ材質にした」
「ちょっとハンス君、凄いよ。材質調整ってすごく魔力を使うのに」
「魔力は結構自信がある」
これでもレベル100超えだからな。
ミリア以外には言えないけれど。
「ならライバー君、剣を貸して。この場で仕上げるよ」
「ってこの場で出来るのか」
「構造調整と形態変化は金属性魔法の基本だからね。魔力もあまり必要ないよ」
「でも金属性魔法ってそもそもレアよね」
「家が鍛冶場だからね」
フィンはライバーから剣を受け取って軽く構える。
「材料にちょっと余裕があるから長さだけじゃなくて厚みも足すよ。その方が力任せに振り回せる人には使いやすいからね。あとは乱戦用にあるていど斬る事を考慮して反りをもう少し加えてと」
この辺は俺よりフィンの方が明らかに上手いと感じる。
金属性魔法のレベルの差では無い。
武器に対する知識の差だ。
なら俺は鞘を作る準備でもしておこう。
先程ミリアとアンジェが切り倒した木の幹部分を火属性魔法の熱線でカットして、周りを剥いで芯に近い部分を取り出す。
「終わったら貸してくれ。鞘を作り直す」
「ハンス君は木属性魔法も使えるんだ」
「初級程度だけれどな」
木属性は水属性と土属性の混合属性だ。
中級くらいになると生えている木をそのまま自由な大きさに製材出来るらしい。
でも俺程度だとせいぜい形態変化と構造調整がやっと。
もっともこれで困る事は滅多に無いが。
「それじゃこれで鞘をお願い」
「わかった」
その前に一度剣を構えてみる。
「重心は先の方なんだな」
「腕力があればその方が振り回しやすいし威力も大きくなるからね」
つまりライバー専用という訳か。
了解だ。
ささっと鞘を作ってライバーに渡す。
「飾り付けとかは自分でやってくれ」
今は飾りの無いいわゆる白木鞘だ。
一応木そのものは魔法で乾燥させたが普通は表面に色を塗ったり金具で飾りをつけたりする。
「充分だろ、これで」
ライバーは鞘を今までのものと交換て腰につける。
更に出来たばかりの剣を右手で構えた後、振り回してにやりとした。
「いい感じだ」
「それじゃせっかくいい武器を借りたんだからその分稼がないとね。モリさんはさっさと矢を回収。モリさんが戻ったら隊列を変えて前進よ。まずはライバーが先頭で次はアンジェ、モリさん、ハンス、フィン、私の順で」
今度はモリさんではなくアンジェを前衛要員にした隊列だ。
「はいはい」
隊列を組み替え、再び俺達は進み始める。
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