第8話 武装強化お試し中
24 フィンの同行依頼
1の曜日2限目、金属性魔法の授業が終わった後。
「そう言えばハンス君は午後、討伐に行くって言っていたよね」
フィンがそんな事を言う。
「ああ、今日の午後も行くつもりだ」
「良ければ一度でいいから討伐に連れて行って貰えないかな。まだE級だから街の外に出られないんだ。一応弓と槍は練習しているけれどあまり自信が無いし」
「いいけれどフィンは鍛冶場のアルバイトの方が儲かるんじゃないか?」
初級でも金属性魔法を使えればそれなりのバイト代は貰えるはずだ。
「討伐を実際に、出来ればパーティで体験したいんだ。そうしないとどんな武器が必要とされているのかがわからないからね。パーティなら自分だけじゃなくて他の人の武器の使い方も見ることが出来るから」
なるほど。
ちょっと考えてみる。
やはり皆に聞いてからの方がいいだろう。
「なら今日、皆に聞いてみる」
「何なら一緒に行こうか」
「でも今日はバイトだろ」
「授業が本格的に始まったからバイトは減らしたんだ。3の曜日だけ通えば生活は何とかなるからね」
やはりバイト代は結構いい模様だ。
「いきなりじゃ何だから、やっぱり一度聞いてからだ。どうせこの後食堂で会うから聞いてみよう」
「そうだよね。じゃあお願い。バイトがない日はだいたい寮の部屋で何か作っているからさ。1号棟の101号室だから」
「わかった」
俺の部屋の隣の隣だな。
寮で見たことがないからわからなかったけれど。
食堂へ行くと既に皆さん昼食の列に並んでいた。
俺も並んで一番安い定食を注文。
スープと野菜炒め、パンが載ったお盆を持って皆の方へ。
「ちょっと頼み事があるんだけれどいいか」
早速聞いてみる。
「食べながらでいいかしら」
「ああ」
皆が食べ始める中、フィンの事を切り出す。
「一緒に討伐に行ってみたいという奴がいるんだけれど連れて行っていいか。やっぱり1年でE級だけれど、一応弓と槍が使えるそうだ」
「私はいいと思うわ。弓が使えるならパーティのバランスも良くなるし」
「俺も仲間が増えるのはいいと思うぜ」
「同じくだな」
「私も」
あっさり。
「でも1人分分け前が減る事になるぞ」
「その分捕まえて倒せばいいのよ」
「だね」
「だな」
「そうね」
皆様単純かつ明快だ。
「わかった。食べたら誘ってくる」
「今日から? 別にかまわないけれど」
「ああ。出来れば今日から行きたいらしい」
そうと決まればさっさと食べてさっさと誘ってこよう。
野菜炒めとパンをかっ込み、スープを一気飲みする。
「ハンス、行儀悪いわよ」
ミリアにそう言われるのは予想済み。
でもあえて無視。
「それじゃ誘ってくる」
食べ終わった皿やお盆を下膳口に片づけて寮に行こうとした時だ。
俺達と離れた窓際の一人席でフィンが定食を食べているのを見つけた。
「フィン、ここにいたか」
「本当はパンを買って食べるつもりだったけれどね。売店で売り切れていて」
確かに今来たばかりという感じだ。
「ちょうど良かった。今うちの仲間に聞いた結果OKだそうだ。1時に装備を持って事務室前集合だけどいいか」
「ありがとう。それじゃ食べ終わったらすぐ支度するね」
そうだ。
先に聞いておくことがあった。
「武器とか防具とかは大丈夫か?」
「一応自分で作ったのがあるよ。弓と槍と革鎧だけれど」
「充分だ」
なら俺が用意しなくてもいいだろう。
最初の頃のモリさん達より大分ましだ。
安心した。
「それじゃ1時、事務室前で」
「わかった。楽しみにしているね」
まだ時間が早いので、俺は寮へ一度戻ることにする。
◇◇◇
フィンと皆との顔合わせもあるので、待ち合わせ時間少し前に着くよう寮の自室を出た。
だが俺が事務室前に着いた時には既にフィンと皆は合流済み。
「遅いわよ、ハンス。もう自己紹介も終わったわよ」
早すぎる。
「よくフィンも皆もわかったな」
「私とフィンさんは同じクラスだから」
そう言えばアンジェは2組だった。
フィンの顔を知っていてもおかしくない。
いや待てよ。
「一緒に行くのがフィンだって言っただろうか」
「ここでいかにも待っているという感じの生徒、そんなにいなかったからね。それで多分フィンさんだろうとあたりをつけてアンジェが話しかけた訳」
なるほど。
「それじゃ今日は西方面に行くわよ。モリさん、門までお願い」
「あいよ」
何回か行って道もだいたいおぼえているが、やはりモリさんが一番詳しい。
貧民街等近づかない方がいいエリアもあるからな。
そんな訳で今日もモリさん先頭に西門を出るところまで行く。
西門を出たところで隊列並び替えもいつも通り。
「今日もライバーとモリさん先頭で行くわよ。2番目がハンスとフィン。フィンはとりあえず弓装備でお願いね。最後に私とアンジェで。ハンスは後ろが危険だと思ったら随時アンジェと交代して。いいわね」
「はいはい」
まあ街道を歩いている間は危険も無いだろう。
6半時間程度歩いて以前狩りをした崖の処に出た。
だが今日はこの先に人の気配を感じる。
「ここは先行しているパーティがいるようだ。だからもう少し先へ行く」
「大丈夫かな」
「ハンスと私がいる限り問題無いわよ」
確かにその通りなのだ。
でも皆俺やミリアの実力がどの程度通用するのかわかっていないのだろう。
まあわかるような場面になったらまずいのだけれども。
急な坂を上った先、崖の上を越えて少し行った場所にちょうど獣道があった。
なかなかいい感じの道だ。
ほどよく茂っていて、でも視界が悪すぎず、この時間でもゴブリン程度なら出そうな感じ。
結構先になるがそれらしい気配もある。
「ここから行こう」
「そうね。ここはちょっと狭いから先頭ライバー、次をフィンでお願い。あとはハンス、アンジェ、モリさん、私で。状況によって随時交代するからそのつもりでね。ライバーは索敵の練習よ。ハンスもぎりぎりになるまで教えなくていいからね」
「怖いなそれは」
ライバーがぼやく。
奴は相変わらず索敵が苦手だ。
「冒険者なら索敵くらい出来ないと駄目よ。だから練習できるうちに練習! あとフィンは今回は弓で、気づいたらライバーにかまわず撃っていいわ。弓で攻撃した後は接近戦になる前にモリさんと交代。接近戦はライバーとモリさん2人に任せるけれど判断次第ではハンス頼むわよ。アンジェと私は基本的に前に任せる方針で」
この獣道の様子なら妥当な線だ。
「わかりました」
「わかった」
隊列を変えて進み始める。
ライバーは俺の作った片手剣と皮の盾。
やはり索敵は苦手なようでかなり注意深く歩いている。
だが今のところは魔物も魔獣も見当たらない。
昼間はもともとあまり多く出ないのだ。
だからこそ練習にちょうどいいというのはあるけれど。
それでも街道を離れて
一番近いのはこの先方向
そう思った時だ。
「ライバーさん、止まって下さい」
フィンがごく小さい声でそう告げる。
「いるのか」
「多分」
フィンが背負った矢筒から矢を取り出し、弓につがえる。
でもまだ引かない。
フィンの弓はいわゆる小弓と同じ程度の大きさだが形と素材が少し違う。
普通の弓は木製の筐体に糸を張っただけの簡素な作りだが、フィンのものは真ん中が木製、弓の上下が金属性の板バネ。
更に握り手部分とか照準らしき装置、矢を引っかける場所だの他の弓には無い部品があちこちについている。
学校の武器庫や武器屋等でも見た事が無いタイプだ。
どうやら完全にオリジナル仕様らしい。
ゴブリンが近づいてくる。
「2匹です。1匹は何とかしますからもう1匹はライバーさん、お願いします」
距離はおおよそ
木々に隠れてゴブリンは見えてはいない。
それでもフィンは完全に把握しているようだ。
「わ、わかった」
ライバーはまだ把握できていない模様。
それでも剣を構えて会敵に備える。
フィンはゆっくり弓を引いて、見えたのとほぼ同時に放った。
そのまま命中を確認せず次の矢をつがえ、撃つ。
さらにもう一射。
かなりの早撃ちだがいずれも命中。
ゴブリンのうち1匹は喉と胸に矢が刺さって倒れ、もう1匹も胸に矢が刺さっている状態。
でも1本だけ刺さっている方はそれでも剣を振り上げ近づいてくる。
「交代する」
俺はフィンと交代で前に出る。
ライバーがミスをした場合、確実に倒して被害を出さない為だ。
でもライバーも相手がゴブリン1匹なら問題無い模様。
ズボッ! タン!
ライバーの左手の盾がゴブリンの剣をはじいた。
右手の剣はしっかりゴブリンの胸に突き刺さっている。
そのままライバーは脚でゴブリンを蹴り飛ばす。
ゴブリンは後ろ向きに倒れた。
既に絶命している。
「慣れているわね、フィン。討伐の経験、実は結構経験あるんじゃないの?」
確かにミリアの言う通りだな。
討伐行はこれが初めてという感じじゃない。
特に弓は早さ命中率ともにかなりの腕だ。
「武器の試験で時々門の外に連れて行って貰っていたんだ。でも今日みたいな本格的な討伐は初めてだよ」
「だからあんなに前からゴブリンが来るの、わかるのか」
「ライバーは気付かな過ぎなの!」
うんうんと納得するライバーにミリアが突っ込んだ。
確かにその通りだな。
モリさん並とはいわなくてももう少し気づくようになって欲しい。
前衛なのだから自分の身を守る為でもあるし。
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