23 俺+αのレベリング準備

 いつものパーティの面子と食堂で夕食を食べた後。

 俺は寮に戻るふりをした後こっそりと外へ出かける。

 そろそろ俺自身のレベリングも始めようと思ってだ。

 なお装備はいつも持っている鞄に仕込んだ自在袋に入っている。


 俺は今、レベルが105。

 獣人の進化種スペルドである超獣種ハイビーストで職業は魔道士。

 次の職業である賢者に職業進化する為には

  ○ レベルが100以上あり

  ○ 種族が長命種エルフ、または各種族の進化種スペルドであって、

  ○ 基本4属性の上級魔法をマスターした上で、

  ○ 水の進化属性である生命属性を上級魔法までマスターする

のが条件だ。


 俺は土属性と火属性、生命属性の上級魔法がまだ完全では無い。

 火属性の魔法は少し練習すれば上級まで出来る自信がある。

 森で生活していたので本気で火属性を練習できなかっただけだから。

 土魔法も学校である程度理論をおぼえればおそらく大丈夫だろう。


 そうなると個人としてあげるべきはやはりレベルだ。

 一応レベル105と賢者の条件はクリアしてはいる。

 でもこの先大賢者、更に亜神へと進化するにはこの程度ではまだまだ足りない。

 そうでなくともレベル100以上はなかなか上がりにくいのだ。 

 その為にも時間があればレベリングをしておく必要がある。


 ただどうやら俺は脱出に失敗したようだ。

 後をつけられているような気がする。

 姿は完全に消しているし気配もほとんど感じない。

 だが時々ふっと気配のかけらのようなものを感じるのだ。


 気配の感じからして魔法の腕前がかなりのものだともわかる。

 少なくとも俺に選択授業を譲れと言ってきた先輩達よりは遙かに上だ。

 思い当たるのは3人くらいしかいない。

 そして多分、これは……


 北門を出て、ちょっとだけ全速力で走ってみる。

 ぎりぎりついてきた。

 だが気配の隠蔽がかなり甘くなる。

 もうこれは間違いないな。

 俺は立ち止まって気配が近づくのを待って声をかける。


「ミリア、何のつもりだ?」

「どうせ今日、何かする気なんでしょ。だから何をするのか見てみようと思って」

 予想通りミリアだった。

 ここまで来てしまった以上仕方ない。

 正直に言った方が問題も起こらないだろう。


「そろそろ俺自身のレベリングも始めようと思っただけだ。今日はレベルアップ用の狩りと場所の準備だけだから面白い事も無いしお金が儲かる事も無い。ついてきても無駄だ」

「それはそれで興味があるわ。私も今のところ別にお金には困っていないし。だから

じっくりハンスのやる事を観察させて貰うわよ」


 どうしてもついてくる気のようだ。

 ちょっと考えてみる。

 ミリアの事だから邪魔はしないだろう。

 それにミリアの腕なら危険な事もない筈だ。

 つまり俺さえ気にしなければ問題は多分無い。


「観察するだけなら自由にしてくれ。ただしミリアがいるという事を考慮はしない」

「わかったわ」

 以降はミリアを無視してすすめる事にする。


「それで何処へ行くの?」

「昼に行ったあの平原だ。夜ならもっと色々出てきているだろう」

「遠いわね」

「だから走る」

 3離6km程度なら5半時間12分もあれば充分だろう。

 俺は身体強化をかけ、負担がかからない程度で走り始める。

 試験の時ほどの速さではない。

 だからミリアでも問題無いだろう。

 途中で感じる魔獣等はあえて無視する。


 昼は1時間かかった距離だがあっさり到着。

 予想通りミリアもしっかりついてきている。

「やっぱり速いわよね。流石獣人の進化種スペルド


「こっちの方も獲物が大量だ。狩りに移る」

 わざわざ魔法で走査するまでもない。

 ゴブリンだの鹿魔獣だの蛇魔獣だのわんさかいるのが感じられる。

 しかも俺達の気配を感じて向かってきはじめた。

 人に向かってくるのは魔獣や魔物の本能。

 狩る側としては大変ありがたい。

 勿論それなりの実力があればの話だが。


「氷属性魔法、氷衝撃弾!」

 おなじみの魔法を背後方向以外にとにかく撃ちまくる。


 こういう時にアルストム先輩がおぼえたという範囲指定即死呪文でもあれば便利なのだろう。

 あれなら俺の今のレベルがあれば一撃でかなりの範囲の始末が出来るだろうから。


 でもそんな魔法がなくとも氷衝撃弾で充分ではある。

 出てきている程度の魔物や魔獣なら一撃でたいていは処理出来るからだ。

 しかも平原だから邪魔な障害物がない。

 強いて言えば地を這う蛇系の魔獣とか鼠系の魔獣に注意が必要な程度。

 あとはとにかく見敵必殺。

 近づいた敵を撃って撃って撃ちまくる。


 ここへ来るまでの時間と同じ程度の時間で平原も静かになった。

 それでは回収だ。

 生き残っている魔獣や魔物がいないかを確認しながら、風魔法で死骸を集め、自在袋へ放り込む。


「魔石は取らないの」

「魔石があった方が魔力が大きくなる」

 レベル100超えの俺がレベルアップする為には相応の経験値が必要だ。

 その為にはより強力な魔物が必要になる。

 だから魔石分の魔力も無駄にしたくない。

 多少の現金よりも魔力だ。


「それにしてもその自在袋、何処まで入るの。昼に狩りをした時以上に入っているわよね」

「俺も知らない」

 悲しいかなこれも事実だ。

 メディアさんに貰った代物だからな。

 でもミリアはそれで納得出来なかったようだ。


「何それ」

 そう言われても困る。

「俺もよくわからない代物だ」

「そんなのよく貰えたわね」

 確かに常識的にはそうなのだろう。

 改めて考えてみるとメディアさんは色々常識外な人物だ。

 学校に通って少しは普人社会を知った今ならそれがよくわかる。

 

「その辺はまあ秘密というか俺もよくわからない。でもとりあえずこれだけあれば充分だろう。戻る」

 再び街道を街方面へ。

 ミリアはやっぱりついてくる。

 全速を出してはいないとは言えさすが進化種だ。


 俺は森が終わる少し手前で立ち止まる。

「これからどうするの?」

「あとは最初に見せたレベリングと同じだ。多少深く穴を掘る程度だな」

「一応見ていくわ」

「ご自由に」


 獣道へ入り湿原近く、最初にミリアにレベリング方法を見せたのとほぼ同じ場所へ。

 だが今日はこの辺、やたらスライムが多い。

 作業の邪魔だ。


「この辺のスライムや魔物を遠ざける。魔力的感覚も含め全ての感覚を30数える間、塞いでくれ」

「何をする気」

「単なる魔物避けだ」

 ゆっくりと深呼吸をして、そして。

 周囲に向けて一気に気合いを放つ。


 この威圧は獣人の持つ技能のひとつだ。

 対象は周囲にいる自分よりレベルが低い生物全般。

 これが効くと周囲100腕200m程度の範囲の対象は動けなくなる。

 また動けるようになっても1時間程度は威圧の中心に近寄れなくなるのだ。

 魔力も必要なく低レベルの魔物避けとしてはなかなか便利。

 欠点は普人が使える技能ではない事と、パーティを組んでいる場合に使えない事。

 ミリアはまあ進化種だし感覚遮断さえしていれば問題無いとは思うけれど。


 すこししてからミリアが俺の方を見る。

「何をしたの。全身で危険を感じたんだけれど」

「獣人の特殊技能のひとつ、威圧だ」

「それでなの、このピリピリとした危険の気配は」

 納得してくれたようだ。

 ミリアはレベルが高いし知識も豊富だから説明が少なく済んで助かる。


 さて、それでは作業をしよう。

 まず土魔法でまわりを圧縮しつつ穴を掘るところまでは同じ。

 だが今回これでは穴の深さが足りない。


「中へ入ってくる。ここで待ってくれ」

 そう言って俺は掘ったばかりの穴の中へ。

 先程と同じように先に穴を掘る。

 そうしたら更に奥へ行ってまた穴を掘る。

 角度は3回目からは水平方向へ。

 そうやって5回ほど穴を掘ってから、風魔法で移動して地上へ戻る。


「ずいぶんかかったわね」

「深く広くしないと魔物が外に出る危険がある。前とはレベルが違う魔物を作る予定だから」

 自在袋から先程倒した魔物を出して穴の中へ。

 風魔法を併用してできるだけ奥へ奥へと送り込む。

 全部送り込んだらあとは前回と同じだ。

 熱魔法を穴そのものには衝撃を与えないよう中へ向けて送り込むだけ。


 穴の中全体の温度が最低でも木の枝が自然発火する程度の温度になった。

 前回使ったものと多分同じ岩を掘り起こして入口を塞ぐ。

 これで完成だ。


「私が最初に使ったレベリングの時より随分と大がかりね」

「レベル100以上だとこれくらいは必要だ」

 相当強い魔物を相手にしないとレベルが上がらない。

 これくらいやっても5レベル程度上がれば御の字だろう。


「なら私も明日から追いつけるようにやらないとね」

 そう言ってミリアは何かを思いついたような顔をする。


「そう言えばアンジェやモリさん達もレベルを上げた方がいいわよね。この応用でなんとかならないかしら」

 確かにそうしてやれば色々楽になるだろう。

 だが問題がある。


「まだ皆はゴブリン1匹を倒す程度がやっとだろう。ミリアのようにレベリング用に強力な魔法を使える訳じゃない。もう少し訓練してせめてどの属性でもいいから中級程度の強力な魔法を使えるようにしないと無理じゃないか?」


「でも最初に私用に作ったレベリング用の穴は水を入れただけでもある程度の魔物は倒せるわよね。あれより弱い炎属性の魔物だけにすれば大丈夫なんじゃない」


 確かに言われてみるとそうだ。

 俺の場合は獣人の体力があったから、レベル10まではは狩りをしまくった。

 でも水を引き入れるだけで魔物が倒せるタイプのレベリングなら、モリさん達でも出来るだろう。

 元々のレベルが低いからその程度でもかなりレベルは上がるだろうし。

 うん、なかなか面白い。


「なら作ってみるか。奴ら用ならスライム10匹程度の穴で充分だろう」

 先程の威圧で動けなくなっているスライムはいくらでもいる。

 集めるのは用意だ。


「なら穴を3つ、少し離して掘っておこう。ミリアは適当に獲物を頼む。この自在袋を貸しておこう」

「わかったわ」

 ミリアは俺の自在袋を持って出て行く。

 この辺の魔物ならミリア1人でも心配は無い。


 さて、それなら穴と岩を用意するとするか。

 俺は水場から遠すぎない場所を選び、魔法で穴を開ける作業を始めた。

 深さは30腕60mもあれば充分だろう。

 穴は水で崩れやすいよう、周辺の岩を砕いて圧縮したりと工夫しておく。

 入口を塞ぐ岩も適当に周囲を探して掘っておいた。

 あと掘った後の修復や偽装も忘れない。

 万が一他の冒険者に見つけられると面倒だからな。


 ほぼ完成したあたりでミリアが戻ってきた。

 なかなかいいタイミングだ。


「ちょうどゴブリンの群れがいたから20匹ほど狩ってきたわ。あとはスライムが20体というところ。こんなものでいいかしら」

「充分だ」

 やはりミリアは優秀だよなとつくづく思う。

 ゴブリン20匹となると普通のC級冒険者なら4~5人のパーティが必要だ。

 冒険者学校の一介の学生の持つ実力では無い。

 まあその辺は俺もそうだけれども。


 俺はミリアから自在袋を受け取り確認する。

 言われた通りの魔物が魔石もついたままの状態で入っている。

 ほぼ3等分するように穴に入れ、熱魔法を連射した後に岩で塞ぐ。

 最後にもう一度あたりの土をならし、新しい土の部分は倒木や木の枝等で隠せば完了だ。


「これで何日くらい必要かしら」

「3日程度で充分だろう」

 これが上手く行けばレベルアップで自動的にある程度の魔法も使えるようになる。

 身体も強化されるから討伐もかなり余裕が出来るだろう。

 なんやかんやいって3人とも今まで苦労しているようだ。

 だからこの程度は手助けしてやってもいい気がする。


「楽しみね。それじゃ今日はこれで終わり?」

「ああ」

「ハンス用のレベリングの穴も3日くらいで大丈夫なの?」

「あれは1週間くらい寝かせておこうと思う。穴が大きい分期間も必要になる」

「それじゃこれで今日は終わり?」

「ああ。そろそろ帰らないと寝不足になる」

 俺達は街へ向けて戻り始めた。

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