第4話 授業の開始
13 授業開始
冒険者学校は2学年制で、1学年がそれぞれ3クラス。
クラスは学科試験の点数順の3クラス編成で生徒は1クラス30人程度。
ただ実技関係はほとんど選択授業だ。
他のクラスの面々とも顔をあわせる事も多い。
そんな説明を今、担任のシャミ―教官から聞いている。
「実技は基本的に習熟度別です。魔法に自信がない方でも攻撃魔法の選択授業をとっても大丈夫です。むしろ魔法が苦手な人ほど魔法の選択授業はとった方がいいと思います。そうすれば戦術の幅が広がりますし、より多種の魔物や魔獣に対応できるようになりますから。
ただ授業によってはある程度の実力が必要なものもありますので、その辺は配った案内を見て選択して下さい」
俺がいるこのクラスは1組。
成績順で最上位のクラスだ。
この前まで一緒にパーティ組んでた連中で言うとミリアが同じクラス。
他のみなさんは2組なり3組になり行った模様。
モリさんはおそらく3組だろうな。
本人いわく。
『昨年不合格だった時にもらったテキストで勉強した以上の知識は無い』
らしいから。
ただモリさん、確かに魔法も戦闘術も駄目駄目だけれど悪い奴ではない。
表裏が無くて信用できる。
俺はある意味自分で何でも出来るからパーティ員の実力はそれほど必要ない。
だから真面目で信用できる奴の方がなまじ出来るけれど信用できない奴よりよっぽどいい。
そういう意味では毎日出かけているモリさん、ミリア、ライバーにアンジェというパーティの面子は信用できる。
だから学校が終わる午後には奴らさえ暇ならまたパーティ組んで薬草でもとりに行くつもりだ。
そんな事を考えている間も先生の話は続いている。
「たとえば戦闘術ではどんなに鍛えても獣人には勝つことは困難です。勿論この国には獣人はほとんどいませんし、獣人国家のレマンツ国とも現在はほとんど交流が無い状態ですけれど。
そういう意味でも普人である私達は魔法を使用可能だという長所を使わない手はありません。ここで2年間訓練すればよほどの事がない限りある程度の攻撃魔法は使えるようになりますから」
「先生は獣人と戦った事があるんですか?」
誰かが質問する。
「戦った事もありますし共闘した事もあります。獣人と言っても私達と同じ人間、得意な事が少し違うだけです。ただ文化が少し違うので別の国や街に住む方が普通はお互い楽かもしれません」
おっと、シャミー教官、思わぬ事を言ったな。
この国の普人は獣人を下等なものと見ているとメディアさんに教わったのだ。
聖神教会の教えではエルフ族、普人族が高等な人種、ドワーフ族、獣人族が下等な人種とされていて、人々もそれを信じていると。
でもシャミー教官の台詞では対等な相手としてとらえているように聞こえる。
あくまで文化が違うから別々に暮らしているだけというように。
「教官は獣人の知り合いがいるんですか?」
ミリアがちょっと俺的には危険な質問をする。
でもシャミー教官は普通に頷いた。
「ええ、ついこの前にも山岳地帯へ魔獣狩りに行った際お世話になりましたわ。討伐の際は頼りになるんですよ」
「でも獣人は下等だから魔法が使えないんですよね」
これはまだ名前を知らない生徒の台詞。
「確かに基本的には魔法は使えませせん。狐の獣人等は多少幻惑系の魔法を使ったりしますけれどね、それは獣人の中でもごく例外です。
でもだからと言って下等という事はないですわ。獣人は普人が使う魔力を先天的に身体能力強化にあてているだけです。ですから体力が普人の数倍あって接近戦では本当に頼りになるんですよ。それに耳とか尻尾がモフモフで触るだけでも……。
それに聖神教会のその教えは、マルコ経典1の3を誤読した結果に過ぎないですわ。神は平等に各人種をつくられたとセドナの経典に明記されていますから」
ヤバいと一瞬感じる。
どうやら教官もミリアと同様モフり好きのようだ。
いま触るだけでもというところで間違いなくうっとりした表情をした。
だがミリアといいシャミー教官といい普人でも獣人を同等にみる者はいるようだ。
その事自体は悪くない。
「さて、本日は座学の時間も実技の時間も今後の説明となっています。先程言ったように座学の時間は基本的にこのクラスで、実技の時間は選択した科目をそれぞれ履修する事になります。
それではこの次の時間からはじまる実技科目について、簡単な説明をさせて……」
説明を見ながら考える。
実技は何を選ぼうかと。
戦闘術は剣術だけある程度やって、あとは魔法に振るつもりだ。
しかし資料を見ると魔法にも様々な科目が存在する模様。
俺は魔道士だが全ての魔法を使いこなせる訳では無い。
水は得意である程度の大魔法も、更に進化属性である氷属性の大魔法も使える。
風も上級レベルで短時間の飛行魔法までマスターした。
だが四大属性のうち土と火は中級レベル程度。
土と火の合成属性である金属性は初級程度。
火と風の合成属性である雷属性も初級程度だ。
また火と水と土の合成属性である生命属性も中級治療程度しか使えない。
四大属性合成魔法の光や闇、無属性になると全く駄目だ。
つまりまだまだ学ぶべき事は多い。
教官の話を頭の半分で聞きつつ、俺は何を選択しようかの作戦を練り始める。
◇◇◇
そんな訳で3~4時限目は選択の実技科目だ。
1の曜日に選択可能なのは、
○ 戦闘術初級
○ 剣術初~上級
○ 火属性魔法初~上級
○ 水属性魔法初~上級
○ 金属性魔法
とある。
このうち金属性魔法の授業は初級授業終了後の成績が優以上、あるいは受講試験で合格しないと履修できないようだ。
「ハンスは何を選ぶの?」
2時限終了後、ミリアに尋ねられる
「金属性魔法だ。ミリアは?」
「これだと水属性ね。中級がやっとというところだから」
なるほど。
「でもどうせ午後はいつもの討伐行くんでしょ」
「ああ」
モリさんとアンジェとライバー、3人ともまだまだお金に困っているようだしな。
モリさんは前に自分で言った様に
アンジェは親が育てられなくて教会に預けられていたけれど、教会の生活が性格にあわず冒険者学校に逃げてきたそうだ。
ライバーは孤児院出身で年齢制限で追い出される前に何とか冒険者学校に入れたと言っていた。
まあ冒険者学校なんて処を受験する中には恵まれている奴はそうはいない。
でもこの3人はその中でもちょっと色々厳しそうだ。
だから最低限の装備が揃った上でD級に昇格するまでは一緒にいようと思う。
ミリアもそのつもりのようだ。
なおミリアは金には困っていない模様。
逃げるとき家から大分持ち出したと言っていた。
俺もまあ似たような物だ。
俺の場合はメディアさんが持たしてくれたのだけれど。
「なら食堂で待っているからね」
後ろ手を振って別れ、学校案内を見ながら授業の行われる学校外れの特別教室へ。
おっと。
特別教室は結構雰囲気がピリピリしていた。
何故だろうと思ってすぐ気づく。
そう言えばこの授業は受講試験があるのだ。
例外は火魔法か土魔法の授業終了時に上級相当と判断された者だけ。
ちなみに上級相当をとるのはかなり難しいらしい。
半年で1期の授業が終了するのだが、初級を2期1年続けても中級をとるのがやっとというのが実情らしい。
シャミー教官がさっきの授業でそう説明していた。
もっとも攻撃魔法は中級レベルを持っていれば冒険者として困らないとも言っていたけれど。
見回してみると俺以外に1年生はいない模様だ。
ちなみに学年は服につけているバッチでわかるようになっている。
1年がいない理由は簡単だ。
金属性魔法は土属性と火属性の合成属性。
両方がせめて中級程度に使えない限り普通は発動出来ない。
結果、魔法の初心者はまずいないという訳だ。
例外的にドワーフあたりだと生まれながらに持っていたりもするそうだけれど。
ただ、金属性魔法は使えると食いっぱぐれる事が無い。
何せ金属加工が出来るようになる。
初級でもその辺の装備店あたりでいい給料で雇って貰える。
中級魔法以上が使えればその辺の工房主と同等のレベルだそうだ。
冒険者としても武器を自分で修理、カスタマイズ出来るというのは便利だろう。
その為か人気が高いようだ。
おっと、俺以外にもう1人1年生が入ってきた。
あたりの雰囲気にびくっと身体を震わせ、そしてバッチを確認して俺の方へとやってくる。
「やっぱり此処は上級生ばかりだね。僕はフィン、2組だよ。君は?」
この頃には俺も大分普人に慣れてきた。
だから少なくとも此処の普人については概して人なつっこくて親切なのがわかっている。
しかし普人が基本的にこんなものなのかはわからない。
でもとりあえず今は警戒しなくてもいいだろう。
「ハンス、1組だ。フィンは金属性魔法を持っているのか?」
1年でここを希望するのは珍しい。
という事はは金属性魔法を使えるのではないだろうか。
そう思って聞いてみる。
「初級程度だけれどね。実家が武器屋兼鍛冶屋でね。後を継ぐならまずは冒険者になってどういう武器が必要とされるか理解してこいってここに入れられたんだ。僕自身はあまり冒険をする気は無いんだけれどね。
だから学校にいるうちに金属性を勉強できるならと思って選んだんだけれど……厳しそうだね、なかなか。
ハンスはどうしてここに?」
「俺は基本的に魔法が得意でさ。水魔法も氷魔法もある程度使える。だから金属性魔法を使えたら自分専用の武器を作ったり出来て面白そうだと思った」
「いいな。僕は他に火魔法と土魔法を初級程度使えるだけかな、現状は。これでも昔からずっと訓練したんだけれどね」
普人で俺達くらいの年齢ならそれでもかなり魔法を使える方に入る。
俺やミリアが特別なのだ。
まあモリさんとかはもう少し頑張って欲しいと思うが。
ふっと教室内の空気が動く。
授業担当の教官が来たようだ。
俺達も話をやめて教官の方を見る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます