14 最初の実技授業
入ってきた教官は一見若く見えるおとなしそうな普人男性だった。
もっとも見かけというのはあてにならない。
魔法の使い方次第で外見も寿命もかなり変わる。
たとえば俺達の担任のシャミー教官。
若そうに見えるが実はガリウス教官以上の大ベテランではないかと感じるのだ。
試験の際の時間魔法だの的を作り出した土魔法だの回復魔法だの。
あれが出来るという事は相当高位の魔法使いだろう。
特に時間魔法なんて並の魔法使いが使えるような魔法では無い筈だ。
実は100歳を超える
無論本当にそうだとしても隠すだろうけれど。
いやシャミー教官は関係ない。
まずはこの金属性魔法の授業だ。
「私はこの金属性授業を受け持つピーター。本職は魔道院の研究員で1の曜日だけこの学校に来る外来講師だ。
さて、金属性の授業では最低限、火属性魔法と土属性魔法の双方、あるいは金属性魔法がある程度使える事が条件になる。
さて、そこでまずはこの授業を受ける為の試験をさせて貰おう。なお初級魔法の成績等で免除になる者もいるが、一応試験は受けてくれ。後で書類選考で合格を確認するから」
早速試験か。
でも望むところだ。
魔法には自信がある。
「これから受講希望生に短い棒材を1本ずつ配る。これをそれぞれの魔法で自由に加工して欲しい。時間は授業時間内、終了の鐘が鳴るまで。なお相談をしてもかまわないが加工はあくまで自分の魔法でやること。他の人の魔力が加工に関わっていると判断したら失格にするからそのつもりで。加工したら名前と学年、クラスを記載した授業受講票とともに私に提出してくれ。
なお火属性魔法で加工する者はこの教室の両脇に不燃素材で出来た加工場所があるからそれを使ってくれ。土属性魔法や金属性魔法程度の熱ならその机上で作業しても大丈夫だ。机をはじめこの部屋にある物の全ては難燃・耐熱魔法処理をしてある。
なお合格発表は明日昼までに事務室の掲示板に貼り出す予定だ。それじゃ各席に授業受講票と棒材を配る」
各机に紙と金属製で長さ20
風属性魔法は金属のような重い物を動かすのは不得手な筈なのに見事だ。
「それでははじめてくれ。鐘が鳴ったら回収するが、その前に出来た者は直接僕のところへ提出に来ても構わない。提出した時点で本日の授業は終了だ。なお早く提出しても最後に提出しても加点や減点は無いから安心してくれ」
それでは加工開始だ。
俺も少しは金属性魔法を使える。
だからこの机の上で大丈夫だ。
なお隣のフィンもそのまま作業する模様。
様子を見ると全体の半分以上は席を立って左右の加工場所へ。
火属性魔法は比較的簡単に発動するから使える人も多いのだろう。
逆に言うと席に座ったままの連中はそれなりに実力がある可能性が高い。
土属性魔法もあまり身につけやすい魔法ではないから。
まずは配られた授業受講票に名前とクラスを記載。
そして棒材を見て何を作ろうか考える。
土属性の鑑定魔法で調べると、どうやらこれは炭素鋼。
それも割と炭素量が多めのタイプだ。
この固さと大きさならやっぱりナイフを作りたくなる。
それも屋外で万能に使えるサバイバル系のナイフだ。
戦闘も薪割りも料理も1本でこなせるようなごつい奴。
「ハンスは何を作るつもりなの?」
フィンが尋ねてくる。
「サバイバルナイフだ。この素材と大きさなら」
「だよね。でも僕はちょっと変化球でいこうかな」
おっと。
「何を作るつもりだ?」
「投げナイフでいこうと思うんだ。ちょっと素材が固めだからかなり加工が必要だけれども」
なるほど。
「投げナイフだと折れないようあえて柔らかく作ると聞いた」
「よく知っているね。だから今回は刃部分だけ固めという加工にしてみようかと思うんだ。その方が加工技術をアピール出来るかなって」
それが出来るという事は金属性魔法にそこそこ自信があるのだろう。
面白い。
「なら作るとしよう」
「そうだね」
俺の方もまずは材料調整。
今のままでは炭素が多くて脆くなりやすい。
だから金属性の材質調整魔法で余分な炭素を抜く。
カンカンカンカン。
鉄を打つ音が聞こえてきた。
火魔法で加工する場合は熱を加えて叩くなんて作業になる。
その作業で成形したり余分な炭素を追い出したりする訳だ。
だが俺もフィンも初級程度とは言え金属性魔法を使える。
だから材質調整や変形くらいは全部魔法だけでOKだ。
魔力付加や合成素材、
しかし今日の相手は炭素鋼で量もそれほど多くない。
つまり初級でも充分に扱える素材。
だから形も金属組織も思う存分に加工可能だ。
戦闘で使うには刃に反りがあった方が使いやすい。
突くときは別だが切る時に使い勝手が異なる。
だが万能に使う為にはあまり反りがありすぎても困るな。
そんな事を考えながら形状を決める。
今回は柄部分も鋼そのままなので、その辺の形も工夫。
ナイフの芯や背部分は折れないよう炭素を少なめにして、刃部分は固くなる程度に炭素を残す。
組織も硬度重視部分と粘り重視部分を分けて魔法を入れて。
刃は微細形状まで完璧に仕上げた後、一定間隔で微細なくぼみをあえて入れる。
こうすると刃を滑らせた時に切れやすくなるのだ。
この辺はメディアさんが自分の武器を整備する際に教えてくれた。
あとは背の部分に細い部分を造り、ギザギザ刃を刻んでおく。
これがあるとツタとかロープを切るのが楽になる。
この辺は山暮らしでの経験からだ。
まあそういうナイフをメディアさんが使っていたのだが。
あと表面処理もしよう。
これをしておくと錆びにくくなる。
ただ刃部分は脆くなるからやらない。
あとは滑らないよう持ち手部分に溝を掘って。
そんな訳で黒い無骨なナイフが完成した。
これなら市販品と比べても遜色ない出来だろう。
これ以上ここにいても仕方無いから提出するとしようか。
そう思って俺は回りの気配を伺う。
回りはまだ加工中のようだ。
カンカン音もあちこちで継続して鳴っている。
真っ先にいくと目立つだろうか。
そう思ったところで前の方に座っていた上級生が立ち上がった。
提出に行くようだ。
持っている物は銀白に輝く球体。
「これは金属性魔法をどこまで使えるかというアピールかな」
「ええ。材質を出来るだけ純鉄に近づけた上で真球になるよう加工しました」
「なかなか面白いね」
なるほど、魔法の技術を見せるためあえてそういう形にしたのか。
そういう考え方もありだろう。
面白い。
なら俺も提出に行くか。
立ち上がると隣も同時に立ち上がる。
「フィンも出来たのか」
「まあね。どうせなら一緒に提出しようと思って」
そんな訳で前まで行って、教官にそれぞれ提出。
「これはサバイバルナイフかな」
「ええ。野外で使う事を想定して作りました」
「なかなかいい造りだね」
俺の方は無事提出完了。
一方フィンが作ったナイフもなかなか面白いというかあまり無いタイプだった。
「これもナイフのようだけれども、何に使うナイフなのかね」
「投げナイフです。この部分はスクリューになっていて、ここを回して前後のバランスを調節する事が出来ます。ここの輪は指を引っかけて取り出すためのもので、普段はこのケースに入れておく事を想定しています」
ただの投げナイフだけではない。
3本入るケース付きだ。
懐にホルスターを入れておき、いざという時にワンタッチで取りだして投げることを想定しているのだろう。
ネジでナイフの重心を前後左右に調節出来るのもいい。
「これもなかなか面白い」
フィンも受領して貰ったようだ。
無事終わったので2人で教室の外に出る。
「いや、疲れたね。周りが上級生ばかりで」
「それにしても面白いな。あの投げナイフ」
ネジで重心を移動できるとか片手で懐から簡単に出せたりとか。
商品化してもいい位だ。
「どうせなら他にないものを作りたいしね。あの投げナイフの重心調節方法やケースへの収納方法、取り出し方法は前々から考えていたんだ。ちょうどいい機会だから作ってしまおうと思って。
あと最後に上級生に囲まれた状態で提出に行くのも避けたかったからさ。ハンスが早く作ってくれて助かった」
でもあのナイフ、ケースのギミック等を考えるとかなり凝った造りだ。
俺のナイフより時間がかかってもおかしくない。
「よくあの時間で作れたな」
「イメージさえ出来ていれば魔法で作るのは簡単だからね」
フィンはあっさりそんな事を言ってのける。
こいつもなかなか出来る奴のようだ。
「さて、ハンスはこれからどうするの?」
「俺は飯を食べてから薬草採取とスライム討伐。フィンはどうだ?」
「僕はバイトだね。家とは別の鍛冶場でアルバイトをしているんだ。向こうで昼食も出るから」
なるほど。
確かにフィンくらいの金属性魔法の腕があればE級冒険者としてより鍛冶場のアルバイトの方が給料がいいだろう。
「それじゃまた」
フィンと別れて俺は食堂へ向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます