11 レベリングの方法論

 魔石とゴブリンの死骸を運んできたのは昼間スライムを倒した場所の近く。

 湿地手前で木々が無くなった草地だ。


「ここが目的地なの」

「ああ。水があってかつ土が軟らかい。スライムがわくくらいに」

「でもこの大量のスライムどうするの」

「これから俺は魔法を使うからあまり魔力を消費したくない。魔石は余った魔力で後で拾うから頼む」

「わかったわ。雷精召喚!」

 昼間以上にミリアが派手にスライムを倒しまくる。


「これでしばらくはスライムも出てこないと思うわ。それでどうするの」

「穴を掘る。掘るというより土魔法で土を穴の外側へ押し広げて圧縮する形だ」

 だいたい角度は水平からみて3分30°程度。

 それより角度が浅いと上の土が崩れるし深いと中を対象が歩けない。

 微妙な角度で斜めに穴を穿つ。


「土魔法も得意なのね」

「得意ではないが散々やらされた。自分の強化習得レベリングは自分でやれと」

「なら私がやった方がいいわけ?」

「最初の仕込みは俺がやる。最後の部分だけミリアがやれば問題ない」

 穴は出来るだけ長く深く。

 俺の今の魔力と魔法のレベルならおおよそ長さは100200mが限度だ。


「随分と深く掘るのね」

「深いほど後の効果が高い」

 まわりの圧縮した土を更に念入りに圧縮したら第一段階完成。


「次にこの穴のまわり、圧縮した土に熱を加えてある程度の堅さに仕立てる。あまり頑丈にはしなくていい。どうせ後に更に熱を加える。ただ最下部だけはガンガンに熱をくわえてやった方がいい」

 この辺の具合は何回かやっておぼえるしか無い。

 今回はお試しだから俺の魔法で成功するように仕上げる。


「ここで先程のゴブリンの死骸を投入だ」

 そこそこ傾斜が急なので、自在袋から出た死骸は底まで落ちていく。

 ある程度は熱で分解するがそれでもかまわない。


「この穴に更に熱を加える。中の土が赤熱するまで」

「そうしたらせっかく入れたゴブリンの死骸が熱分解するんじゃないの?」

「それでいい。魔素マナが残れば」

 自分で言ったとおりガンガンに熱を加える。


 中の死骸が完全に分解したところで本日最後の作業。

「最後に入口を頑丈に塞いでおく。間違って誰か落ちても気づかれても困る」

 土魔法でその辺にあった岩を掘り起こし、蓋代わりに入口に設置。

 隙間は土魔法で念入りに塞ぐ。

 まわりの草がついた土で丁寧にカバーし、目立たないようにすれば完成だ。


「これである程度放っておく。今回はお試しだから3日程度でいいか」

「するとどうなるの?」

迷宮ダンジョンに似た生態系出来る。まあ3日だから迷宮ダンジョンという程のものでも無いけれどな」


「何故?」

 どうもその辺の知識は無いようだ。

 だから説明してやる。


「魔物はもともと魔素マナから生まれる。空気中や水中等の魔素マナの分布に偏りが出来、その偏りが周辺の魔素マナを集めて更に成長し生まれるのが魔物。それはわかるな」


 ミリアが頷く。

「それくらいは私でも知っているわ」

 それなら説明が楽だ。


「つまり魔物とは魔素マナが形を得たものだ。だから死骸であっても分解すれば再び魔素マナへと戻る。魔石を取ったとは言えゴブリン32匹分の魔素マナだ。地中の他の部分に比べてかなり魔素マナが濃くなっているだろう。結果、今の穴の中には魔物が生まれる。そこまでは理解出来るな」

 ミリアが頷いたのを確認して俺は説明を続ける。


「そして先程見た通り穴の中には熱を封じ込めておいた。だから穴の中には熱系統の魔物、本来なら火山の噴火口近くや火山性洞窟の中で発生するような魔物が生まれる筈だ。具体的にはファイアスライムやファイアゴブリン、ファイアアント、溶岩岩といった類いになる。

 こいつら熱系統の魔物は水が苦手。だからこの穴から生息範囲を広げる事は無い。このまわりは湿気た土壌だからな。結果、この穴の中でだけで生態系を作る。食われる方の魔物から生態系上位の魔物まで。

 中の活動が活発になるほど周辺土中の魔素マナを集めて魔物は更に数多く、また強大になる。この辺は迷宮ダンジョンが出来るのと同じ理屈だ。3日経てばファイアスライムキングあたりが頂点のミニ迷宮ダンジョンができあがる。所詮3日程度だからさっきの岩を破れる魔物までは出来ないけれどな」


「って、まさか……」

 ミリアも気づいたようだ。

「ああ、ミリアが思った通りだ。3日後、さっきの岩をどけた後に湿地の水を流しながら中にひたすら水魔法を打ち込む。水と水魔法で中の魔物は始末できる筈だ。それにある程度水が入ったらまわりの圧縮した土も水で元に戻ろうとする。穴が塞がって中の魔物は全滅だ。

 結果として中の魔物を倒した分の魔積値シンががっぽり手に入る」


「そんな簡単にレベルが上がるなんて」

 確かに知識が無ければそう思うだろう。

 だがこの方法が簡単にできない訳もある。


「最初はレベル50以上で、魔法士以上の土魔法を使える職業ジョブの魔法使いが必要だ。だからこの強化習得レベリング方法も廃れたのだろう。

 威力は3日後に試せばいい。今のミリアでもある程度はレベルが上がる筈だ。納得したら次からは自分でやるんだな」


 ミリアのレベルと魔法なら、ある程度は似たような事が出来る筈だ。

 無論最初から今の俺と同レベルの事は出来ないだろう。

 でも何度か繰り返せばそれなりの事は出来るようになる筈だ。


「つまりハンスはそうやってレベルを上げた訳ね」

「ああ。それで問題無いくらいまで実力もあがったから、次は普人の世界を見て来いと追い出された。

 さて、魔石を集めたら帰るとしよう。明日も薬草とりと討伐だ」


 ◇◇◇


 昼はモリさん達と一緒に5人で討伐と薬草採り。

 あとはスライム討伐なんて事も体験して貰った。

 3人のうちモリさんは自分の武器が無いのでミリアから槍を借りて使用。

 アンジェは自分の火魔法を使用。

 ライバーはご自慢の短剣でだ。


 スライムは動きが遅いし触れても服が駄目になる程度。

 あと肌が弱い人間だと多少かぶれる事もあるかな位。

 なおかつほんの少しの衝撃で簡単に破裂する。

 つまり初心者でも簡単に倒せる訳だ。


 モリさんはこわごわ槍を振り回して何とかという感じ。

 アンジェは火魔法がとんでもない処へ飛んで、俺の水魔法で消火する事3回。

 ライバーは勢いよく倒しすぎ、服に2箇所ほど小さめの穴があいてしまった。

 でも魔物を倒すという経験はこれで積めたと思う。

 もう少しやって慣れたら次はゴブリンだな。


 さて今は初日から3日目の夜。

 つまりミリアと約束した時間だ。

 俺とミリアはあの湿原の端、俺が穴を開けた場所に来ていた。


 まずは辺りのスライムをミリアの雷精召喚で全滅させ、作業が出来る環境にする。

 この雷精召喚は便利だ。

 全体攻撃だし水属性には特によく効くし対象以外に被害を出さない。

 しかも魔力もあまり使わないそうだ。


 こういった特殊召喚魔法は魔導士でも使えない。

 精霊に好かれるか先祖が精霊と契約を交わした等の条件が必要だ。

 レベルアップして亜神か、せめて大賢者まで行けば使える方法もあるらしいが。


 そんな事を考えつつ俺は毎度おなじみ風魔法で魔石を集める。

 一方でミリアは穴の前で杖をかざし目を細めた。


「岩と土で念入りに蓋をしてあるせいか、中の気配はわからないわね」

「わかるようだと他の冒険者に開けられる恐れがある。一応隠蔽魔法もかけたが用心にこした事は無い」


 湿原の水たまりが近いから水は引きやすそうだ。

 魔法で水と氷を交互に放り込んでもいいだろう。

 だがここからはレベルを上げる人間がしなければならない。

 つまりミリアが全部やり、俺は口出しするだけ。


「やる事はわかるな」

「水を入れる、水魔法や氷魔法を中へ向けて連射する。それでいいのよね」

「やり方は任せる。ただ穴の正面には立たない方がいい。希に炎が飛んでくる」

「わかっているわよ」


「なら任せた」

 俺は数歩離れて様子を見ることにする。

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