10 ゴブリン討伐作業

 ゴブリンは本来夜行性の魔物。

 昼間でも森の中等で見かけるが、夜になると集団で活動をはじめ人や動物を襲う。

 1対1ならある程度鍛えた成人男性なら倒せる程度の強さ。

 だが剣だの槍だので貧弱ながらも武装し、夜間は3匹以上で行動している。

 しかも希に弓や魔法を使う事もある。

 1体1体は強くないが油断は大敵だ。


「いた。200離400m先に3匹、この街道沿い」

 ミリアは立ち止まり、目を細めるようにして確認する。

「この距離でよく気づくわね。場所を言われれば確認できるけれど、全方向を警戒しながらだと無理よ。レベル105の魔導士ってのは伊達じゃ無いわね」

 つまり言われればミリアも200離400m先で気づける訳だ。


「ミリアだってレベル52の魔法騎士。普通の冒険者からみれば十分に強力だ」

「私のはレベルだけだから」

 いやそんな事無い。


「ゼネガ山脈を単独で超えてきたと聞いた。普通のC級冒険者では無理だ」

「この鎧と雷精召喚の魔法、魔法剣が無いと危なかったわ。正直まだ経験不足よ」

「装備も実力だ。さて、仕掛けるか」


 ミリアが俺の方を振り向く。

「どうする気?」

「3匹では足りない。奴らを使って他もおびき寄せる。まずは向こうが気づく程度まで前進」


 奴らは見える範囲しかわからないからな。

 普通の人間と違って夜目はきくけれど。

 そんな訳で警戒しながら道を進む。


 道が30腕60m程度の直線になっている処で立ち止まる。

 向こうもこっちに向かって歩いてきている。

 そろそろ見えるだろう。

 よし、見えた。


「最初は俺が攻撃する。数が最低でも10匹を超えてから援護を頼む」

「わかったわ。お手並み拝見というところね」


 ゴブリンも俺達に気づいた。

 キィー! キィエー!

 なんとも言えない声をだしてボロボロのショートソードを振りかぶった姿勢で走り始める。


「氷魔法、氷衝撃弾!」

 試験で使ったのと同じ魔法だが、今度は弾のサイズを小さく先が尖った形で、温度を低く速度を速く設定している。


 氷の弾がゴブリン3匹の足を撃ち抜いた。

 ゴブリンはその場に倒れる。

 死んではいない。

 足をやっただけだ。

 その場を動けないが叫んだりショートソードを振ったりして威嚇している。


「これで放っておけば他のゴブリンもやってくる」

 ゴブリンは敵である人間を自分達だけで倒せないと判断すると応援を呼ぶ。

 この習性を利用して他の魔物を呼ぶという方法だ。

 冒険者ではなく衛士等が治安維持目的で魔物討伐する際にやる方法である。


 俺も魔の森にいた頃、自宅付近を安全にする為によくこの方法を使った。

 あそこではゴブリン以外の大物も寄せられてくるがここは街の近く。

 そこまで面倒な大物は出てこないだろう。

 俺の索敵魔法には続々と反応が出始めた。

 魔力の大きさからみてゴブリンだろう。

 ゴブリンの上級種らしい反応もちらほら見受けられる。


「いい感じに反応が増えてきたから分担する。ミリアは道の前方向から来るゴブリンを頼む。左右から来るのは俺が引きつけた上で倒す」

 引きつけて倒す理由は簡単だ。

 道から外れると死骸をとりに行くのが面倒になる。

 今回は魔石だけではなく死体も必要なのだ。


 事務所に討伐証明として出すなら魔石だけでいい。

 だがミリアに強化習得レベリング方法を教えるには死骸が必要だ。

 だから出来れば近場まで引き寄せたい。


「あまり近くまで寄せすぎないでよね」

3腕6m程度で倒す」

「それ以上近づいたらこっちでも容赦なく攻撃するわよ」

「わかった」


 念の為もう少し遠くで倒すとしよう。

 そう思いながらタイミングをうかがう。

 かなり近づいてきた。

 そろそろ始めよう。


「面倒だから無詠唱でやる」

 使う魔法は先程と同じ氷衝撃弾。

 炎魔法と違って発火の恐れも無いし土魔法と違い地形を変える心配も無い。

 だが風魔法よりは威力が大きく、まわりに与える被害が少ない。

 つまり環境に極めて優しい攻撃魔法という訳だ。

 強いて言えば直線状にしか飛ばない事が欠点。

 だから直線上、見える場所に来た時を狙って連射する事になる。


 まずは俺達の右側の森の中、5腕10m程度の距離まで来たゴブリン2匹。

 下草が邪魔なので狙うのは頭部分。

 直線上に見えた瞬間を狙って氷を飛ばす。

 次は左、次は左前。

 見敵必殺だ。


 勿論前方向からも来ている。

 歩きやすい分、数は多い。

 そちらはミリアの担当だ

 また雷精召喚で倒すのかなと思ったら……


「火魔法、熱線!」

 今度は火魔法を使った。

 火魔法は延焼しやすく本来は森で使う分には不適。

 だが範囲を絞る事でその欠点を最小限に抑えている。

 熱線で撃ち抜かれたゴブリンはそのまま2~3歩歩いて倒れた。

 殺傷能力はかなり高い。


「慣れているな。それなりに戦ってきたんだろう」

「ここへ来るまでの間で鍛えた形ね。家では的にあてる訓練しかしていないわ」

 いずれにせよ下手なC級冒険者より遙かに腕前は上だ。


「その腕なら冒険者学校に通わなくても普通に冒険者をやれるだろう」

「年齢と性別で絡まれやすそうだからよ。定住できる場所があった方が楽だし」

 そんな話をしながら氷弾と熱線を打ちまくる事数刻。

 

「これで最後ね」

 この群れの長らしいアークゴブリンをミリアはあっさり熱線で倒した。


「ミリアには余裕だったか」

「そっちでゴブリンメイジとゴブリンアーチャーを倒してくれたおかげよ」

 気づいていたか。流石だ。


「で、これをどうするの。魔石を集めるだけなら死骸を道路上に集めた後、魔法で熱分解するけれど」

 ゴブリンの死骸には素材になる部分はない。

 だから本来はそれが一番手っ取り早い処理方法だ。

 魔石はそこそこ熱に強いから分解されずに残る。

 分解中に強烈な匂いがするのが欠点だが風魔法で緩和可能だ。

 だが今回はそうされては困る。


「今回は死骸も使う。面倒でも魔石だけ外してくれ」

「あまりゴブリンに触りたくないから魔石のある頭だけは熱分解していい」

「作業は俺がやる。慣れているからな」


 無論ゴブリンをナイフで裂いてなんて面倒な事はしない。

 モリさん達がいるなら教育のためにやってもいいだろう。

 だがミリアにはそんな気遣いは無用だ。


 ゴブリンの死体は重すぎて風魔法では運べない。

 仕方ないからまずは自在袋に収納しよう。

 森の中を歩いてゴブリンの死体の一部に触れ、収納と念じればいい。

 それだけでゴブリンの死骸は自在袋に収納される。


 自在袋の中では収納したものはそれぞれ別の空間に保存される。

 中に入れた他の物を汚す心配は無い。

 だからまずはゴブリンの死骸を集めては自在袋に放り込む作業を繰り返す。


 集め終わったら自在袋から取り出して道に並べて処理だ。

「火魔法、部分熱分解!」

 魔石がある頭の一部分だけを熱分解する。

 全てのゴブリンから魔石が出たら風魔法で魔石を集める。

 最後にもう一度自在袋にゴブリンの死骸を収納すれば完了だ。


「魔石は全部で32個か。そこそこの収入だな」

「でもハンスの自在袋、容量がちょっと異常よね? 私が使っているのもいいかげん容量が大きい方だけれど、それ以上だわ」

 気づかれたか。


「皆には言わないでくれ。師匠から貰った特別な代物だ」

「どんな師匠なのよそれって」

 微妙に答えにくい。

 メディアさんの正体は俺自身知らないからだ。

 だからここは誤魔化させて貰おう。


「説明の前にやる事がある。殺人しない強化習得レベリングの準備だ」

 それこそがこの夜の散歩の目的だから。

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