9 夜の散歩

「ミリア、人間に対して鑑定魔法を使うことは出来るか?」

「当然出来るわよ。でも鑑定魔法では隠すつもりの人の情報データは見えないわ。それくらい知っているでしょ」

 当然知っている。

 しかしそれには例外もある。


「本人が隠すつもりが無ければ見えるな」

「そりゃそうだけれど、普通は見せないわ」

 よしよし。


「今夜、夕食後時間があるか。俺の正体とレベルアップ方法を実際に見せてやる」

「ここじゃ駄目なの」

「ここでは範囲秘匿ストリ・セクラをかけても安心できない。それにレベルアップ方法は実際に見て貰った方が早い」

 声を魔法で秘匿しても他の情報が秘匿できる訳ではない。

 無論誰かがのぞいている可能性は低いが万が一の事もある。


「私をどうかする気じゃないでしょうね」

 確かに夜中に出てこいなんて言うとそんな警戒されるのが普通だな。


「ミリアをどうこうするメリットは俺には無い。ここの入学が決まったばかりだ。何かあればここを出なければならなくなる。それに万が一俺が何かをしようとしてもミリアの実力なら周りが気付く程度の抵抗くらいは出来る筈だ。違うか」

「確かにそうね」

 実際その通りの筈だ。


「それにさっきやった程度の討伐じゃミリアにも物足りない筈だ。だから冒険者装備で夜狩りに繰り出そう。街の近郊でもゴブリンくらいはいるだろう」

「そうね。生活費に余裕があるにこしたことは無いわ。それにあの調子じゃランク上げに時間がかかりそうだしね」

 よし、のってくれた。

 なら俺もそれなりに準備をしておこう。


 ◇◇◇


 数時間後。

 食堂を出た俺はそのまま学校の校門へと向かう。


 それにしても食堂での夕食、思った以上だった。

 兎系統の肉がそこそこ入ったシチューとサラダ、野菜というメニュー。

 これが無料で出るなら悪くない。

 この冒険者学校は冒険者ギルドによる運営。

 つまり冒険者ギルドはこれを無料で出せるほど儲かっている訳だ。


 もっとも冒険者ギルドそのものは国を超えた独立組織だ。

 組織の規模を考えればそれくらいの資金力があってもおかしくない。


 それに冒険者を目指すなんてのは所詮落ちこぼれだ。

 俺やミリアのように最初からそれなりの腕があるのは多分に例外。

 むしろモーリのように何も出来ないところから目指すのが普通だろう。


 だから学校でも作って質の向上を目指さないと腕のある奴が育たない。

 そういった面からの必要もあるのかもしれない。


 校門のところに到着。

 革鎧を装着していたらミリアがやってきた。

 昼の時の軽装装備とは違いけっこうごつい装備をまとっている。


「流石に魔法銀ミスリルのスケイルアーマーはやり過ぎだ」

 反射して敵に気づかれないよう黒一色に塗られているが間違いない。

 高価かつ希少なミスリルで作られた超高級品だ。


「案外これ、軽いのよ。今までも夜や山中なんかはこれで動いていたし」

 そうなのか。

 でもそれでもだ。


「見る人が見たら高価な代物だってわかるぞ」

「家から持ってきたものだから。それにこれを着用した私を襲える人間なんてそれこそAランクでもないと無理だわ」

 なかなか強烈な自信だ。

 でもそれだけの逸品であることは間違いない。


「それでこれから何をするの」

「まずはゴブリン狩りだ。この辺ではスライムとゴブリン程度しかいないだろう。勿論他の魔獣や魔物がいたらそれも狩る。最低20体は欲しい」

「それで何かするの」

「ああ」

「ハンスの正体ってのは」

「それは街を出てからだ」


 そんな事を話しながら北門へ。

「近場でゴブリン狩りです」

 そう言って門番に登録証を見せる。

「ご苦労様です」

 特にそれ以上言わず通してくれた。


 街道を歩いて森の中へ。

 周辺の気配を探ってとりあえず他に人がいない事を確認する。

「それじゃ俺の正体、オープンだ。鑑定してみればいい」

 ミリアなら見られてもいいと俺は思っている。

 更に他に人がいない事も確認した。

 この状態なら鑑定魔法で俺の正体や職業ジョブ、レベルを知る事が出来る筈だ。


「ならやるわよ。水魔法、鑑定!」

 魔獣や生物、人間相手の鑑定魔法は何故か水属性とされている。

 だがその辺俺は分類がおかしいと思う。

 メディアさんも言っていたな。

「所詮魔法の属性なんか人間が決めたものでしかないからね」


 でもこうも言っていた。

「ただ人間が決めたものであれ、そうであると思い込む事によってそれなりに便利な効果もあるからね。一概に否定できるものでもない」

 その辺俺はまだメディアさんの域まで達していないのでよくわからない。

 なんて事をふと思い出した時だ。


「うそ、獣人、なの。ハンス」

「ああ」

 しまったかなとふと思う。

 ここでミリアが獣人の俺に対して拒否反応を起こしたらやっかいだ。

 一応俺も洗脳魔法や忘却魔法を使えるがミリアも一応進化種スペルド

 通用するかは運だめしになる。


「なら耳や尻尾はどうしているの」

「変装魔法という便利な魔法がある。そう見破れるものではない」

 そう説明してふと気づく。


「耳とか尻尾とか知っているという事は、実際の獣人に会った事がある訳か」

「山岳地帯を越えるときにね。何人かに世話になったわ」

 それは重要情報だ。


「良ければ場所を教えてくれ」

「駄目。誰にも言わないと約束したし」

 なるほど。

 そして俺は少し安心する。

 獣人との約束を守れるなら多分問題ないだろう。


「とりあえず俺が獣人という事は他には言わないでくれ」

「勿論よ。絶対言わないから安心して」

 嘘を言っているようには見えない。

 これで一安心だ。


「あとハンス、レベルが100を超えてる。どうやったらそこまで行けるの。まさか普人相手に殺戮キリング強化習得レベリングをしたとか……」

「だからやっていない。その方法を今夜は教えるつもりだ。だがまずその為に魔物を20体以上狩る必要がある」

 人を殺人鬼にしないで欲しい。


「わかったわ。でも獣人って攻撃魔法を使えたの? 確か伝承では魔法を使えないって聞いているけれど。その分治癒能力と身体能力が高いって」

「レベル50を超えて超獣種ハイビーストに進化すれば魔法も問題なく使える。ミリアの雷精使役と同じだ」


「あと職業ジョブの魔導士ってまさか、あの魔導士」

 魔法使いの上級職で極めれば賢者になるという、その魔導士だ。

 世間では魔導士といえばよほど高等な職業ジョブに思われている。

 でも実はそうでもない。


「魔導士と言っても大したものではない。4属性魔法を中級程度、特殊属性のうち1種を同じく中級程度使えれば転職可能だ。ミリアでも少しレベルを上げればなれる。賢者や大賢者、亜神レベルになれば別格だがな」

 ちなみにメディアさんは更にその上の超神オーバーロードだった。

 無論そんな事をミリアに言ってこれ以上混乱させる気は無いが。


「十分とんでもないわよ。国でも数人いるかいないかの職業ジョブでしょ」

 確かにそうだがそれには確たる理由がある。


「レベルが低いからだ。殺戮キリング強化習得レベリングをしたところで上がるレベルはせいぜい80程度。あとは魔獣や魔物の高レベルを狩らないと無理だ。魔物相手に戦争しているような状態なら別。だがいまの普人世界ではそれ以上のレベル上げは無理だろう」


「つまりハンスがこれから教えてくれる方法を使えば、少なくともハンスと同レベルまでには上げられる訳ね」

 流石ミリア、気づいたようだ。

 だが問題もある。


「俺が前にいたのは魔の森と呼ばれる場所だった。此処にはそれほどの魔獣はいない。だからそこまで出来るかはわからない。でも殺戮キリング強化習得レベリングなんて残酷な事をしなくても今以上にレベルがあがるのは保証する。

 それじゃ狩りに行く」


 俺の索敵範囲ギリギリに反応があった。

 多分ゴブリンだ。

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