第3話 何人殺したの?
8 何人殺したの?
スライム24匹とゼリア草32本。
合計で
要した時間から考えると悪くない収入だ。
「でもいいのか均等割で。D級2人のおかげでこの依頼受けられたんだろ」
「パーティ内は基本的に均等割りよ。よほど級が違わない限りはそうしないと色々問題がでるからね。それじゃ解散!」
これで終わりかと思ったら違った。
「ねえ。申し訳ないけれど明日もお願いしていいかな。実は学用品全然買えていないし、鎧もまだ持っていないし杖も練習用の安い奴だし」
「俺もそうだな。ナイフだけだ」
「俺はこの革鎧があるだけましかな。剣はないけれど」
でもモーリの革鎧はどう見てもサイズが合っていない。
ぶっちゃけ革鎧の方が大きすぎる。
本格的な敵が出る前に手直しが必要だろう。
「私はいいけれどハンスはどう」
「かまわない」
もう少しこの状態で色々と把握したい。
それに短時間とは言え一緒に討伐だの採取だのするとそれなりにわかる事もある。
こいつらは普人だが悪い連中ではない。
少なくとも裏表とか妙な癖とかは無さそうだ。
だからまあ、これくらいはサービスしてやってもいいだろう。
「ではすみません。お願いします」
「俺も頼みます」
「僕も」
「なら明日は朝一で朝食をとってその後ここに集合よ。朝食時間に来なかったらおいていくからね」
ミリアも全く面倒見がいい奴だなと思う。
口調こそあれだけれど。
「わかった」
「ではお願いします」
「同じく」
今度こそ本当に解散する。
なら俺も寮の自室へ帰ろう。
そう思った時だ。
「ハンスにはちょっと話を聞きたいけれどいい?」
何だろう。
「別に用事はないが」
「ならこっちへい来て」
言われるままについていく。
ミリアは廊下を歩いて2つめの教室の扉を開いた。
休み中だからだろう。誰もいない。
無論ミリアもそれを承知しているのだろう。
「ここなら邪魔は入らないわ、多分」
そう言った後、更に念の為だろう。
「ミリア・ファリーナの名において命ずるわ。風魔法、
これで何を話しても聞かれる事は無い。
「こんな魔法も使えるのか」
「どうせハンスも使えるんでしょ」
確かに使えるが今は黙っておく。
「それで何を聞きたい」
「率直に聞くわ。何人殺したの?」
ちょっと待ってくれ。
さっきの平和な依頼実施のあと、いきなりこんな事を聞かれたのだ。
質問内容があまりに想像の斜め上すぎて理解出来ない。
「何の話だ」
確かに俺がいた獣人の村は襲われた。
だが当時の俺は反撃できるほどの力は無かった。
そう思って、そして今の俺は普人の姿をしている事を思い出す。
それともミリアに俺が獣人だとバレたのだろうか。
「とぼけないで。私以上の身体能力と魔法を持っているという事は、間違いなく
それにその年齢で
今の台詞でやっと質問の意味を理解した。
人間を殺してレベルを上げる方法だ。
同レベルの魔物や魔獣と比べると人間は技術的には殺しやすい。
たとえばレベル10の魔物、例えばオークなら損害を抑えるためにはC級冒険者が複数で戦う必要がある。
だがレベル10の人間なら隙を見て睡眠魔法をかければいい。
警戒していなければ簡単だ。
「あいにく人を殺した事は無い」
「嘘よ。私よりレベルが上になるのには他に方法は考えられないわ」
そう言われても困る。
それに気になる事があった。
「レベルという概念もあげる方法も、レベルをあげれば
それを何故知っている」
「ハンスも知っていたじゃない」
まあそうだけれど。
「禁忌とされてもこっそり知識を伝えているところはある訳よ。例えば騎士家とか貴族家とか教会のお偉いさんとか。家によっては水牢施設なんてのもあるわ。幼児でも水栓をひねれば牢の中の囚人を溺れ死にさせる事が出来る施設」
おいちょっと待った。
「そんな施設があるのか」
「貴族の家では珍しくないわよ。勿論公にはしていないけれど。領地の重罪人を水牢に入れて嫡子に栓を開けさせるなんてのはよくある話だわ」
そんな事までやっていたのか。
そう思ってそして俺は気づく。
雷精召喚なんて魔法は普人が唱えられる魔法ではない。
通常は精霊と相性がいいエルフかドワーフくらいしか使えない筈だ。
それを普人でありながら唱えられるミリアは、間違いなく
「ミリアは生まれながらの
「そんな筈ないじゃない」
ミリアの言う通り、普人から
つまりミリアは……
でもここはあえて直接突っ込まないでおこう。
「確かに俺は
「嘘よ。たった1年でそんなの絶対無理よ」
そう言われても事実だから仕方ない。
「ところでミリアは話からすると貴族だな。それも嫡子となる可能性が高い。それが何で冒険者学校なんて来た?」
本で読んだり話を聞いたりしてある程度の事は知っている。
貴族の子弟で同年代なら普通は高級学校に入学するはずだ。
高級学校を卒業して上級官僚養成学校に入るか上級騎士養成学校に入るのがこの辺のエリートコース。
多少頭が悪くても貴族様の威光で入学は可能な筈だ。
冒険者学校というのは学校の中でも最低ランク。
零細商家や農家で跡取りではない子弟、その中でも貧乏で高級学校に通わせられない連中が入る学校だ。
似たようなもので神学校なんてのもあるが、あっちの方が荒事をしない分だけ上品だし頭もいいまともな学校と位置づけられている。
つまり冒険者学校は間違っても貴族様の子弟が入学するような場所ではない。
「大した理由じゃないわ。それに私は貴族じゃないから」
「そうなのか」
悪いがちょい興味を持ったので引っ張らせてもらう。
興味だけではない。
「実は貴族様でしたとなって面倒が起こると困る」
これも本音だ。
だがミリアは首を横に振る。
「私は貴族じゃないわ。それに間違ってもここで貴族として扱われる事も無い。その為にわざわざここまで来たのよ、ここウァーレチアまで」
◇◇◇
そこから怒濤のようにミリアの身の上話が始まった。
実は隣国バルチーノの伯爵家の長女だった事。
家に伝わる雷精召喚魔法を継ぐために
その為に結果がどうなるかを教えられないまま、何度も水牢の水栓をひねった事。
後にその水栓をひねるとどういう事が起こるかを知った事。
また水牢で犠牲になった者の中には無実の獣人も含まれていた事。
含まれていたどころではなく能力をあげるため、積極的に近隣の獣人を狩って水牢へと入れていた事。
それらの事が許せなくて当主である祖父や父と議論したが受け入れられず、ついに脱走した事。
バルチーノ内では捕まる恐れがあるので隣国でかつ仲が悪いウァーレチアへ。
それも関所で足止めされる事が無いようゼネガ山脈越えで密入国。
何とかウァーレチアに入国し、冒険者学校のあるエデタニアを目指した事。
ミリアはそこまで一気に喋って、そして俺の方をにらみつける。
「ここまで話したからにはハンスの事も教えて貰うわよ。ハンスは何者なの。それで何人殺したの」
別に話すべき義理は俺にはない。
ミリアが勝手に自分の身上を喋っただけだ。
だが俺は結構ミリアが気に入った。
好きというのとはまた違う。
信用しても、いや信頼してもいいという意味だ。
自分が関与していない獣人の件で伯爵家を飛び出す勇気。
隣国から山越えで密入国までしてここまでやってきた気力と実力。
悪くない。
無実の獣人を犠牲にしたとは行っていたが、それを行ったのはミリアの親だ。
無論その行為には腹が立つ以上の感情を感じる。
俺達の村を襲ったのも同様の連中だろう。
あるいはミリアの親が直接関係していたかもしれない。
それでも俺にはミリアを責めるつもりは俺には無い。
こいつは知らなかった。
そしてそれを知って、それでも親を止められなくて、そしてその行為が許せなくなって逃げてきたのだ。
むしろこいつになら正体を明かしても大丈夫だろうという気すらする。
だが一応最後の確認をしておこう。
「バルチーノでもウァーレチアでも獣人は人と見なさない存在の筈だ。それでも獣人を殺したからと言って自分の家を責めるのか」
「獣人だって人間よ。単にこの辺りの国と聖神教会が自らの利益のために詭弁を弄しているだけだわ。ハンスもその手の口なの。だから獣人は殺したけれど殺人はしていませんって事」
よし、合格だ。
ミリアになら正体を見せてもいいだろう。
いや、正体ついでに俺がどうレベルアップしたかも見て貰った方がいい。
その方が納得できるだろう。
今日薬草やスライムを狩った場所、あそこがちょうどいい。
ミリアがいれば短時間勝負で下準備も出来るだろう。
俺がメディアさんに教わったレベル上げ方法の。
無論ここは魔の森ほど凶悪な魔獣や魔物はいない。
でも大きな街のそばなら
現にあの場所、スライムが湧いていた。
数日あればミリアが納得できる程度の準備が可能な筈だ。
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