7 初めての採取・討伐実施

「北門までの案内は誰か頼める?」

「俺が行く。この街は長いからさ」


 北門まではモーリが先頭で行くことになった。

 大丈夫かと思ったがモーリは迷うこと無く太い道細い道路地と通って行く。

 そのくせ危険を感じる場所は通らない。

 自分で言った通りこの街に長く、その分詳しいのだろう。

 獣人の方向感覚でもほぼ最短と感じる道のりで北門へとたどり着いた。


「俺が案内できるのは此処までだ。外は正直わからない」

「上出来よ。ここからはハンス、先頭を頼むわ」

 おっと、ミリア自身が先頭でなく俺に振るか。


「何故だ」

「ハンスの方が私より索敵が上手そうだからよ。嫌なら私がやるけれど」

「いや、確かに索敵は得意だ」

 それくらい出来なければ魔の森を歩くなんて事は出来ない。


 門番にギルドの登録証を提示して外へ。

 魔獣避けや警備の為に刈り払われたのだろう。

 街の外壁から草地部分が200腕400m程度ほど続き、その先が森になっている。

 受付の人が言ったのはあの森だな。


「それじゃ列はとりあえず一列縦隊で行くわ。順番はハンス、ライバー、モーリ、アンジェ、ミリア」

 ライバーは俺とミリア以外では一番体力がありそうだ。

 だから前衛の練習をして貰うという事だろう。

 アンジェは魔力がライバーやモーリよりあるから後衛。

 モーリはどっちも今ひとつだから真ん中で。


「ハンスはそれでいい?」

「妥当な線だ」

 

「それじゃ行くわ。一応全員魔物や魔獣がいないか注意をすること。多分ハンスが先に見つけると思うけれど気を抜かないで」

「ああ」

 ライバーはちょっと緊張気味だ。


 さて行くか。

 道はすぐ森へと入る。

 割と湿気た感じの森だ。


 確かにスライムとかゼリア草とかがありそうだな。

 もっとも道沿いにそうそういるとは思えない。

 道をそれて森の中に入れそうな、かつそれほど森の奥に入りすぎない危険すぎない場所は……


 森に入って50腕100m程度の場所でちょうどいい獣道があった。

 ほどよく下草が踏みつけられていい感じだ。

 おそらく鹿あたりが通る獣道だろう。


 俺は立ち止まって宣言する。

「この獣道から奥へ入ろう。おそらくは鹿の獣道だと思う。念の為これからは充分注意してくれ。あと何かいそうな気配を感じたら止まるからそのつもりで」


「道を外れるのか」

 モーリが心配そうな声で言う。


「この時間なら街道沿いは何人も人が通っている。だから金目のものは何も無くなっているわ。だから薬草や魔物を狙うには街道から外れないと無理よ」

 ミリアはわかっている。

 やはりそれなりの経験があるな。


「何かいそうかしら」

「まだこの辺には何もいないわ。いてもとっくに退治されているわよ」

 後ろでそんな事をアンジェとミリアが話している。

 その辺は慣れでわかるようになる。

 言い方を変えると慣れるまでは大変だ。

 現に俺の後ろの男子2人はガチガチに警戒している様子。

 

 足場が少し湿気ってきた。

 木々がまばらになり、下草も種類が変わってくる。

 そして木がなくなり、歩いている場所以外は植生が変わってきた。

 此処だ。


「まずはゼリア草だ。わかるか」

「どれだ?」

 モーリが身を乗り出す。


「道を外れるな。泥に埋まる可能性がある。ゼリア草は湿地、それも泥質の場所に生えている。だから下手に採りに行くと埋まって動けなくなる」

「それを先に言ってくれ」

 先走りそうになった男子2名の動きが止まった。


「だからどれか教える前に言っている。あとゼリア草はこの草だ」

 土魔法で根っこごと掘り出し、手元へ引き寄せる。


「ゼリア草は気温があがるとこの茎が上へと直立する。気温が下がると平べったくなって他の草と見分けがつかなくなるからな。今くらいの時間に湿地で直立した茎を探して、土魔法で周りの土ごと掘って手元へ寄せる」

「ハンスは慣れているのね」

「ああ」

 この辺はメディアさんに散々教え込まれた。


「それじゃ私とハンスで付近を警戒しているわ。残り3人はゼリア草採取よ。根を張っているから立っている茎の周囲10cmの土ごと、深さ30cmまで一気に掘ってそのまま採るのが正しい方法。土はそのままで。後で洗ってとればいいわ」

 なるほど正しい採取法だ。

 ミリア、なかなか親切だな。

 それとも失敗すると値段が下がるから注意したのだろうか。


「わかった。でも警戒って」

「湿地帯が好きな魔物もいるでしょ。今日の獲物のもう一つだけれど」

 ミリアがアンジェに説明する。

 その通りだ。


「スライムは湿地帯や暗めの場所を好むの。こういう場所だと背の高い草に隠れていたりするわけ。魔物だから人や動物の気配を感じると近づいてくる。動きは遅いけれどね。だからここでゼリア草を採りながらおびき寄せるの。ここで駄目ならもう少し暗い場所、例えばもう少し先、また木が生え始めている辺りね」


 やはりミリアはよく知っている。

 なおかつ説明も丁寧だ。

 もし普人の慣習が獣人とそう変わらないなら、こいつはかなり親切な方だろう。

 口調だけは時に微妙だが。


「俺達は警戒しなくていいのか」

「スライムくらいなら問題ないわよ。それよりゼリア草を捕る方に専念して。間違っても根や茎が中途半端に切れたりしない事。買い取り値を下げられる原因になるから。あとノルマは1人最低10本!」

「でも何気に難しいな土魔法でとるの。茎を引っ張ったら駄目か」

「簡単に切れて終わりよ。だから難しくても土魔法でやってよね」


 ミリアが説明している間、俺は全周囲にアンテナを伸ばしている。

 よしよし、寄ってきた。いい感じだ。

 こういう湿地帯には腐食した物を食らうスライムが絶対に発生している。

 そろそろいいだろう。


「火魔法、熱線」

 これくらいは無詠唱でも出来るがあえて口に出して発動する。

 何が起きたかわからないだろう3人のためだ。

 俺の右手先から伸びた熱線がゼリー状の塊を捕らえた。

 続いてもう1発、更に1発。

 一気に3体のスライムがはじける。


「出たのか!」

「心配しない! モリさんはゼリア草に集中! 千切れたらもったいないわ」

 ミリアが監督もしてくれているようだから俺はスライムに専念しよう。


「風魔法、取り寄せ」

 はじけたスライムから魔石部分だけを魔法で手元に取り寄せる。

 この魔石部分が討伐の証明になる訳だ。


「便利ねその風魔法」

「これが無いと足下まで寄せないとならない」

「なら私が倒した分も取り寄せ頼める?」

 ちょっと待った。


「ミリアなら湿地帯でも問題無いだろう」

 奴くらい魔法を使えるなら水魔法か土魔法を使用してぬかるむ湿地帯でも気にせず歩ける筈だ。


「監督もしているから動きたくないのよ。それに見えない場所で風魔法だけを使って魔石部分を取り出すのは面倒だわ。あんたがどうやっているかわからないけれど普通の人は」

 確かにそうだな。

 俺もこの風魔法は大分練習した。

  

「わかった。やろう」

「なら心置きなくまわりを綺麗にしておくわ。ミリア・ファリーナの名において命ずる。雷精よ、我が周囲にいる不浄な魔物を打ち砕きなさい」


 試験でも使った雷の精霊魔法だ。

 だがここでそれを使うのはちょいタチが悪い。

 何せ水辺だから雷魔法が効き過ぎるのだ。

 だが残念ながら俺が止める間もなく雷精が暴れまくる。

 この湿地帯の見える範囲全体のスライムがあっさり爆散。

 

「勘弁してくれ。これ全部の魔石を拾うのは大変だ」

「でもどうせ出来るんでしょ」

 確かに出来る。

 だからと言って見える範囲のスライムを全滅させる事はないだろう。

 俺がこの瞬間認識出来たものだけで20匹はぶっ飛んだ。

 でもまあ仕方ない。


「風魔法、取り寄せ」

 しこしこと魔石を探して集めまくる。

 スライムは1匹あたり小銀貨1枚1,000円

 確かにこれでいい稼ぎにはなる。


 でも何か俺、一番面倒な事をさせられているような気が……

 この環境でスライムの魔石を20数匹回収する方がゼリア草10本採るよりよっぽど疲れる。

 でもまあ仕方ない。

 倒した分は回収しないともったいないからな。


 そんな訳で何とか魔石を全部回収したのとほぼ同時だった。

「やっと10本、これでいいか」

 モーリの声だ。

 魔力が低い分一番時間がかかったらしい。


「まあまあね。それじゃ撤収するわよ」

 このパーティのお仕事も終了のようだ。

 厳密には帰って事務所に薬草や魔石を提出するまでがお仕事。

 でもこの程度の場所ならそれほど危険は無いし問題ないだろう。

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