6 はじめての依頼受領
教官が配った書類袋を受け取り、真っ先に中を確認する。
やはり昇級証明書が入っている。
「おっ、いいな。まあ確かに実技完璧だったもんな」
前の席から振り向いたモーリに見られた。
一瞬警戒したが考え直す。
こいつなら俺が本気でやれば一瞬で何とかなるだろう。
何せ実技がほぼ最低でミリアによれば魔力も一番無かった奴だ。
「それで事務所へ行くんだろ。一緒に行こうぜ」
確かに俺は昇級の手続きをする必要があるから行く必要がある。
でも彼は何の為に行くのだろう。
だが口調からして敵意は無さそうだ。
というか警戒感がまるでない感じ。
これで大丈夫なのだろうか。
それとも普人社会というのはこんなものなのだろうか。
「出来れば学校が始まる前に幾つか任務こなしてお金を稼いでおきたいからさ。俺はモーリ、以降宜しく」
名前は憶えているとは言わない。
ここは同様に挨拶をしておくべきだろう。
たとえ相手が普人であったとしても2年間この学校で一緒だから。
「ハンスだ。同じく宜しく」
それにしても小柄だし声もやや高めだし女子みたいだなと思う。
女子としても小柄な体格だ。
そう思うが勿論口には出さない。
俺だってそのくらいは気を使う。
「どうせなら皆で事務室行こうぜ。どんな任務があるのか見たいしな」
これは名前を憶えていない男子だ。
「そうですね。あと一応自己紹介した方がいいんじゃないかしら。この後学校で2年間一緒なんですから。私はアンジェと申します」
これはミリアじゃない方の女子だ。
それにしてもどいつもやけに友好的な感じだ。
そして警戒感がまるでない。
普人とはこんなものなのだろうか。
罠かもしれないとふと思う。
一応気づかれない程度に警戒しておこう。
「俺はライバー」
「僕はモーリ」
「俺はハンスだ」
面倒なのでモーリにあわせて簡単に。
でもあと1人が合流しない。
この際ついでに誘っておくべきだろう。
その方が俺としても警戒しやすい。
「ミリアも行くだろう。一緒に行こう」
ミリアは一瞬こちらを値踏みするような視線で見て、そして頷く。
「わかったわ」
結局今回合格し即日入寮予定の5人揃って事務室へ。
早速封筒の中から昇級証明書を出し、自在袋に入れていた登録証と一緒にしてすぐ出せるようにしておく。
「すみません。書き換えお願いします」
「はいはい」
最初に受け付けてくれたのと同じ女性がやってくる。
「確か今回の試験は2名ですよね。もう1名はどなたかしら」
「私です」
やはりミリアだった。
「それでは書き換えますね。
なら見てみよう。
掲示板は受付のすぐ横だ。
既にさっきの3人が依頼を見ている。
だが3人ともそれぞれ難しい顔をしていた。
「どうした?」
「いい依頼が無いんだよな」
この台詞は確かライバーだ。
どれどれ。
見てみると……なるほどと思った。
俺とミリア以外はE級。
そしてE級の依頼はというと……
〇 ペットの散歩 1時間
〇 港での労働 半日
〇 倉庫労働等 半日
といった感じだ。
総じて報酬が無茶苦茶安い。
ならばと俺が受けられるD級を見てみる。
〇 薬草採取1株ごと
ゼリア草
アステラ草
タイーショ草
〇 ゴブリン討伐1匹
〇 スライム討伐1匹
〇 コボルト討伐1匹
といった感じ。
E級に比べると大分高い。
「街の外に出る依頼はD級以上だからさ。E級は街の中の下働きだけなんだ。ほどほどの仕事はすぐなくなるか定期雇用の奴がやるからさ。残るのは安すぎて定期的に仕事を受ける人がいないものばかり。だから安いんだ」
モーリがぼやく。
「そうみたいね」
「ああ。だからこの1年苦労した。安い仕事しながら何とかこの学校に入って少しでも上級の冒険者になろうってさ。12歳じゃこの学校に入らない限りE級止まりだから」
「モリさんは再受験組?」
「何だそのモリさんって。まあそうだけど。去年受けて見事に失敗してさ、仕方なくこの1年E級冒険者の仕事をこせこせやりながら勉強した訳だ。何せ魔法もろくに使えないし初級学校にも通ってないし。結構大変だった」
なるほど。
「苦労したんだね」
「でもモリさんってなんなんだよ」
「1年先輩だからモリさん」
「それって後付け理由だろ。去年受けた事話したのは今だぞ」
「バレたか」
なるほどな。
そう思ったところでミリアがため息をつき、口を開いた。
「仕方ないわね。パーティ組みましょ。私とハンスがいるならD級の仕事を受けても問題ないわよね」
パーティは構成員の中で最上級の者の級が適用される。
だから俺やミリアがいればD級パーティとして依頼を受けられる訳だ。
だが俺としては意外だった。
ミリアの今までの態度から、単独行動派なのだろうと思っていたのだ。
もしくは常に他人に対して気を許さない派。
「いいのか、ミリアさん」
「だから仕方ないって言っているでしょ。それに討伐系の任務は1人だといざという時に困る事があるわ。だからよ」
予想外だなと思う。
ミリアの実力なら1人で充分ゴブリンくらいは狩れる筈だ。
そしてこいつらは3人ともおそらく戦力にはならない。
むしろこいつらを守る手間がかかる分、面倒だ。
それでいて報酬も分けなければならない。
つまりミリアや俺にとって、今の提案は全くメリットがない。
メリットがあるのはこいつら3人だけだ。
それともこれが普人の流儀なのだろうか。
こういう親切をするべきだという。
「でもそうしてくれると助かるわ。学用品なんかも出来れば揃えたいし」
「ただ私はこの街は不慣れだから案内はお願いするわ。あと皆もそれでいい?」
「ああ」
もしこれが普人の流儀なら従っておくべきだろう。
それに普人社会がどのようなものかを知るいい機会でもある。
この年齢の普人しては高すぎるように見えるミリアの実力も見てみたい。
「お願いします」
「助かった」
「恩に着る」
他の皆さんも問題ないようだ。
「ハンスさん、ミリアさん。登録証の書き換えが完了しました」
先程の女性が俺達を呼ぶ。
受け取った登録証を確認してみるとほぼ同じだが違いが2点。
級のところがD級に書き換わっているほか、職業欄がエデタニア冒険者学校学生になっていた。
「この職業欄は他の人は書き換えないんですか?」
「E級のまま長い事いるという事はあまりないので。ですから級が書き換わった時に記載を変更する事にしています」
なるほど。
「それでこれからD級の継続依頼をここにいる5人で受けるつもりだけれど、問題はないわよね」
「ええ。D級が2人もいれば問題ないでしょう」
あっさりOKが出た。
背後でモーリらの歓声が聞こえる。
「この時間ではじめての討伐なら北門から出たところにある森で、ゼリア草とスライムを狙うのがいいかと思います。危険度が比較的少ないですし、他は朝から先行している冒険者に取られていると思いますから」
ゼリア草は気温が上昇すると茎をのばすので知らない人でも見つけやすい。
スライムは環境さえ良ければ昼夜関係なく自然発生するし、直接的な接触をしない限り被害を受ける事は少ない。
更にスライムは動きが遅いので素人でも近づかなければ被害にあう事も無い訳だ。
だから初心者向けだし今からでも勝負になるという訳か。
「ところで皆、武器とか防具とかあるの?」
「一応」
俺はそう答えたが、他はうーんという感じだ。
「お下がりの革鎧なら」
「魔法メインだから……」
「俺はナイフだけ」
状況はわかった。
準備がなっていない訳では無い。
合格当日からここに泊まろうという連中なのだ。
金がなくて当然なのだろう。
「いいわ。私とハンスで前と後ろを固めるから。ハンスはそれでいいわね」
「問題ない」
この辺に出る程度の魔獣や魔物なら問題ない。
何せここに来る前に俺が住んでいたのは魔の森。
凶悪な魔獣や魔物と日々やりあっていたのだ。
勿論向こうではメディアさんがいざという時に備えて目を光らせていただろう。
こっちではその辺全て自分達で判断だ。
でもこれだけ人が多い街の近郊にそう危ないモノが出るとは思えない。
「ならお姉さんの言うとおり、北門からゼリア草とスライム狙いで行くわよ。ただ寮の方も待っているだろうから一度荷物をおいて、もう一度ここに集合。もう午後だから短時間勝負で行くわ。あと森までは誰か案内よろしく」
「了解。じゃあ寮の手続き終わったらすぐ来る」
「俺も」
「私もそうします」
そんな訳で俺は来て早々、良くわからない奴らとともに、薬草採りとスライム退治をする事になった。
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