4 入学試験(その3)

 俺の後には教官から1本取った志望者はいなかった。

 あのミリアという女子も戦闘術はそれほど得意では無かったようだ。

 動きそのものは悪くなかったと思うのだけれども。


 戦闘術で俺の次だなと思ったのは持久走の時に途中まで同じ速さでついてきたあの長身の男子。

 1本は取れなかったものの、他の志望者と比べると形になっていた感じだ。

 2番目はミリア。

 攻めが失敗した後のリカバリーや残心から見てそれなりに経験があるのだろう。

 ここまでは戦闘術の形が出来ている感じだ。


 他はただ攻めていっては防がれての繰り返しという印象を受けた。

 つまり教官が攻撃をしてこないから何とかなっているだけという感じ。


 そして最後は攻撃魔法の試験だ。

「この中に回復魔法や補助魔法専門という方はいますか。もしくはその方が得意だという方は。その方がよろしければそちらで試験しますけれど」

 見た限り誰もいないようだ。


 回復魔法や補助魔法を使える者はたいてい攻撃魔法も使える。

 少なくとも普人の場合はそうだと教わった。

 理由は回復魔法や補助魔法の方が初歩の攻撃魔法よりも難しいから。


 特に火属性の攻撃魔法はイメージしやすい分習得が楽だ。

 俺はメディアさんにそう教わったし俺自身の実感でもそうだった。

 その辺の事情はここの志望者でも同じらしい。


「それでは攻撃魔法の試験をしますわ。試験といってもやることは簡単です。これから作る的を破壊できるよう、魔法で攻撃をするだけ」


 シャミー教官はふっと右腕を振る。

 ズン、ズン、ズン

 校庭に3体の土人形が出現した。

 更にその先に巨大な土壁も現れる。


「あの土人形が攻撃の的です。あれを壊すつもりで攻撃魔法を放つ。

 ただ土魔法で作った人形だから壊れにくいです。だから当てるだけでもそれなりの点数にはします。魔法杖や剣などを使いたかったらそこにある模擬剣や授業用魔法杖を使って下さい。

 なお遠いほど得点が高い訳ではありません。まずは近くの敵を確実に始末する。それが出来なければ意味がないですから。あくまで近い順から順番に狙っていって下さい。こんな感じに」


 シャミー教官はそう言って右手を土人形の方へ伸ばす。

 ドン、ドン、ドン。

 土人形が近い順に破裂していく。 

 風魔法、それもかなり強力だ。


「壊すつもりでやって下さいね。直すのは簡単だから」

 ズン、ズン、ズン

 再び校庭に先程と同じ3体の土人形が出現。

 

「それでは最初はモーリ、君から」

 今度も俺からだと思ったらそうではないらしい。

 どれどれ、お手並み拝見。

 そう思いながら出てきたかなり小柄な男子の様子を見てみる。


「火属性魔法、火球ファイアボール

 かけ声は立派だ。

 しかしどうも参考にはなりそうに無い。

 簡単な火魔法なのにうまく飛ばないのだ。

 結局一番手前の土人形に何とか当たったところで試験終了を宣告された。


 念の為次のディクシーももう少しましなだ程度。

 3発目で手前の土人形には当たったが倒せず、次の土人形には届かない状態。

 どうやら普人だからといって全員が魔法を自由に使える訳ではないらしい。


「これは魔力の少ない順ね、きっと」

 いつの間にか俺の隣にいたミリアがそんな事を言う。

 言われてみると確かにそんな感じだ。


「よく気づいたな」

「それくらいわかるでしょ」

「言われるまで気づかなかった」

 ミリアは一瞬おや? という表情をしたがすぐにさっきまでの表情に戻る。


「余裕なのね。でも今度は負けないわよ」

 おっと、まるで喧嘩を売られているような口調だ。


 でも考えてみれば持久走の後からずっとこんな感じだ。

 まあいい。

 別に無理に普人と仲良くなる必要も無い。

 

 何人目かになってやっと土人形に当てるだけでなく倒せる奴がでてきた。

 誰かと思えばあの長身の男子だ。

 名前はロイと言うようだ。


 奴は両手持ちの剣を振り下ろす形で風魔法を放つ。

 厳密には風魔法と剣を振った威力の併用だろう。

 だが一番近い土人形をスパッと袈裟懸けに落とした威力と腕は流石だ。

 多分に筋肉万能説的な感じもしないでもない。

 だがそれもまた実力のうちだろう。


 更に何人か挑戦し、2つめの土人形を何とか倒した者が出た後。

「次はミリアよ」

 あの妙に俺につっかかってくる女子の番になった。

 彼女は置いてあった中では短い魔法杖を右手に持って構える。


「私、ミリア・ファリーナの名において命ずるわ。雷精よ、我が前にある障害を打ち砕きなさい」

 ダン! ダン! ダン!

 雷を受け土人形が四散する。

 

 俺は気づいた。

 これはただの雷魔法ではない。

 精霊魔法の一種だ。

 確か精霊魔法は習得に条件があった筈だ。

 普人が簡単に習得出来るものではない。

 俺ですら精霊魔法はまだ一種類も取得していない。

 彼女は何者なのだろう。


「見事ね。全部一発クリアは今日までの試験でもはじめてよ」

 彼女は特に嬉しそうな顔もせず、ただ一礼して戻ってくる。


「それでは最後、ハンス」

 俺の番だ。


 俺が選んだのもミリアと同じ短い魔法杖。

 別に杖がなくとも魔法は起動出来る。

 だが杖があった方が正直狙いやすい。


 さて、ミリアが全部クリアしたという事は俺もクリアしていい訳だ。

 それに普人に負けたくはないからな。

 とりあえず得意な魔法でいこう。


「氷属性魔法、氷衝撃弾!」

 ドン! ドン! ドン!

 重い響きとともに土人形が吹っ飛んでいく。


 これは握りこぶし大の氷を強烈な勢いで発射するだけの魔法だ。

 この時の氷の形状と温度によって対象に対する効果を変えることが出来る。

 基本的に円筒形にするところは同じだが先端の形状と温度を変えるのだ。


 今回は土人形全体に衝撃を与えたいので氷の温度は高めで先端は凹んだ形状。

 これで当たった対象全体に衝撃を伝えやすくなる。

 逆に打ち抜くような時は温度を低くして先を尖らせればいい。

 氷なので森の中で使用しても火災等の心配がなく安全。

 そういった何かと使いやすい魔法だ。  

 

「ハンスも見事ですね。今日の志望者は優秀だわ。

 これで試験は終了です。今採点をするから少しだけ待って下さい」


 これなら不合格という事は無いだろう。

 そう思って使用した魔法杖を他の模擬剣等と同じ場所へと戻す。

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