赤とんぼ

亜之

赤とんぼのおはなし

赤とんぼはいつも空を飛んでいました。

赤とんぼが飛ぶ空は鳥たちのような高い空ではなく、

こどもたちの頭ぐらいの高さ。

遠く行ったりすることもなく、毎日同じところを行ったり来たりしていました。


ある日、赤とんぼは、こどもたちが自転車に乗ってびゅんびゅんと目の前を通り過ぎるのを見ました。

どのこどもたちも、らんらんと目を輝かせ、何かを楽しみにどこかへ向かっているようです。


何だろう、と思った赤とんぼ。

最初は気にせずに、いつも通りにこの周辺を飛び回ろうとしてました。


ですが、胸の内に抱いた興味はどんどん、どんどん膨れ上がっていきます。

たまらなくなった赤とんぼは、また目の前を自転車で通り過ぎようとしている別のこどもたちを見ると、すぐさま自転車のかごに飛びつきました。


そのままびゅんびゅん走る自転車。

自転車が止まったのは、おおきな川の土手でした。

こどもたちは自転車を止めるとすぐさま、どこかへ走っていきました。


一人残された赤とんぼは周りを見渡します。

空はもう暗いですが、土手にはこどもや大人がたくさんいます。

「何だろう」

そう思ってしばらく待っていると、ドン、と身を震わせるような大きな音がしました。

そして、大人やこどもたちの歓声。

空を見ると、色とりどりの光が花のように広がっていました。


それが花火と呼ばれていることは赤とんぼは知りませんでしたが、

何発も夜空を色づけるその光に魅了されてしまいました。


「近づいて触ってみたいな」

赤とんぼは、花火が次々と開く夜空に向かって飛び立ちました。


しかし、いざ近づこうと頑張って飛んでみても、全然近づいている気がしません。

いよいよ疲れてしまった赤とんぼは、諦めて土手に戻ります。


「見ているだけだと、すぐに届きそうに感じるのに」

赤とんぼは自分と花火との距離に呆然とし、今日の所は

見るだけにしとこうと思いなおしました。


「けれどいつか、きっと触ってやるぞ」

その決意を心に刻み、赤とんぼは花火をじっと見つめていました。

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赤とんぼ 亜之 @akore

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