無人島生活6話 見ろ! 人がゴミのようだ!

 エリーたちがそれぞれの想いで神々の頂を目指していたとき、ゴリッチ、モーリアン、潤弥、紅はと言うと、のんびり話しに花を咲かせていたそうな。


 ゲラゲラ、ウシウシ、なんやかんやくだらない話をして一時間半が過ぎていた。さすがにそろそろ行動に移さないとまずいと思ったのか(サボると後が怖い……)、潤弥が切り出した。


「そろそろ俺っちたちもはじめた方がよくないか」


「はじめるって何をするん?」


 モーリアンは貴重なヤシの実を片手に、酒のように味わいながら酔っ払い状態だった(ヤシ酒というものがあるようだが、当然無人島のヤシの実はノンアルコール)。


「食料集めだって」


「食料集めぇ?」


 モーリアンはほろ酔い気味にトロンとした顔にクエスチョンマークを浮かべて、小首を傾げた。


「おまえ何言うとんや。食料ならこんなにあるやないか」


 モーリアンは昨日集めた食料が置かれた、葉の上を指差した。


「ねえよッ! あんなもん大の大人が七人食うだけあると思うか?」


 エリーなき今ツッコミ担当は必然的に潤弥が請け負うことになった。紅もそれなりに真面なキャラだと思うが、ぶりっ子キャラにツッコミは似合わないという理由で、潤弥に矛先が向けられたわけである。


「あるやないか」


「何でヤシの実で酔ってんだよッ!」


「酔ってへんわ」


 モーリアンは酔拳をする〇ャッキー〇ェンのような格好をして、言い放った。


「酔った奴は大抵そう言うんだよッ。とにかく、そろそろ食料探しをはじめようぜ。山に登ってる三人にさすがに悪い……」


「あんた意外に堅気なんやな。見直したで兄ちゃん」


 モーリアンはそう言って、潤弥の肩に腕を回してヘッドロックを掛けた。


「やめろよッ。俺っちは意外もなにもはじめっから真面目なんだっつうの」


「ほんまやわ。エリーっちなき今、ツッコミ担当は潤弥っちで決まりやで」


 言ってモーリアンは息を吐くと、「酒くせッ。どうして、ヤシのジュースで本当に酔ってんだよッ。おまえは腹の中ではアルコールを作れるのか?」潤弥はつっこんだ。


 実際に体内でアルコールを作ってしまう特異体質の人間がいるという。

 モーリアンはきっとその特異体質なのだろう、と潤弥は自分を納得させた。そうでもして納得させないと、これからやっていけないだろう。


「それじゃあ、はじめよう。ゴリッチは昨日と同じように魚を獲って来てくれ」


「わかった」


 ゴリッチは早速昨日どこからか拾って来た木の枝(銛(グングニルッ!))を下げて海に出た。


「紅は食べられそうな実や果物、何でもいいから探してくれ。だけど、あんまり遠くに行くなよ。危なそうなところの踏み込むなよ。森深くに入るんじゃないぞ。知らない男について行くなよ」


「おかんかッ!」


 モーリアンは手の甲でチョップし、つっこんだ。


「了~解。じゃあ~、適当に食べられそうな物探してくるね~」


 紅もまったりとした足取りで、浜辺沿いを歩きだした。

 女を一人で行かして大丈夫だったろうか? と潤弥は思ったが、まあそんな軟な女ではだろう、と深くは考えなかった。


「モーリアン」


「うちは何したらええ? 何でもするでッ。やらしい意味じゃないから勘違いせんといてえな」


「わあとうるわッ!」


 潤弥がそう叫ぶと、モーリアンは肩を抱いて胸を強調するような格好でシュンとした。


「おまえがそんな格好しても色気ないんじゃッ!」


 やはりこのチーム一番のトラブルメーカーはモーリアンだ、と潤弥は再実感した。


「うちそんなに色気ないんか……? うちそんなに女としての魅力がないんか……」


「え……いや……すまん……言い過ぎた……。そんなつもりで言ったんじゃないんだ……」


「ほな、女としてうちのことどう思う?」


 潤弥はものすごく困惑していた。色気がないと言ったが、ヤシの実(酒ではない)でほろ酔い状態になったモーリアンはそれなりに色気があった?


「え、いや、どうって……。まあ、そうだな……」


 モーリアンは俯き、顔を伏せた。気落ちしてしまったか? と思ったのも束の間モーリアンの肩が小刻みに震えはじめた。


「ワハハハハハハッ! ほんまおもろいわッ。からかいがいがあるなぁ」


 モーリアンは仰向けに倒れ込み、腹を抱え込んで足をバタバタさせながら大笑いした。


「ワハハハハハハッ! そこまで、しどろもどろするて。そこまでしどろもどるってッ! いじりがいのある、いじりキャラやでッ」


 潤弥は顔を赤らめ、肩を震わせた。

 恥ずかしさに顔を赤らめ肩を震わせているのではなかった。怒りに顔を赤くし、肩を震わせているのであった。


「おまえはここで待って火種を護ってろッ」


「うちも食料探しに行くで」


「いい、おまえが付いて来たら見つかるものも見つからない。おとなしくここで待ってろッ」


 突っぱねるように、モーリアンを残し潤弥も食料探しに出かけたのである。モーリアンを連れて来たら見つかるものも見つからない、と言うのは本当だが、何より酔った奴を連れて行くことなどできない。


 喧嘩をしたから置いて行くのではなく、潤弥には潤弥の考えがあったのだった。


「なんやねん。そこまで怒ることないやないか。あんぽんたんがッ!」


 モーリアンは潤弥の気持ちなど知る由もなく、暴言を吐き続けるのであった。








 やっとだらけていた四人が食料探しを開始したそのころ、山登りをしていたエリーたちはというと、死にかけていました。


「エリー君ッ! 寝るなッ! ここで寝たら死ぬぞッ!」


 カバー隊長はエリーのそばに膝を下し、力尽き動けないエリーを必死に励ましていた。


「寝るなッ! エリー君ッ!」


「そうだぞ、エリー。神々の頂、オリュンポスはもう少しだッ。こんなところで死ぬなッ!」


 バカな隊長に追随するようにして、中二病も馬鹿な熱を患っていた。


「やかましいッ! 横でそんなに騒がれていたらッ、休めるもんも休めんでしょうがッ!」


「おお、目覚めたか」


 カバー隊長は涙を流しそうな様相で、抱きつかんばかりにエリーに迫った。


「はじめから、眠ってないわッ! あんた達のその体力どこからくるのよッ」


 馬鹿二人はおかしな熱にうなされて、疲れなど感じないのかもしれない。きっと、どこかの雪山で遭難したという設定でも、頭の中で思い浮かべているのだろう。


「後100メートルほどだ。頑張ろう」


 山頂まで行かずとも、十分島中を見渡せているのだが、誰もそのことには気が回っていない様子だった。


 体力が回復したエリーは再び急斜面を登りはじめる。

 足場の悪い岩山を慎重に登り、50メートル、40メートル、30メートル、20メートル、10メートル、最後の気力を振り絞り、山頂の平らな斜面に足を掛けたとき、エリーが掛けた足場が崩れた。


(マジ……嘘……)


 エリーは体勢を崩し、急斜面を滑り落ちそうになったとき、「ファイトッ! 一発あーつッ!」「まったく、世話が焼けーるッ!」と龍之介とカバー隊長はエリーの手をつかみ、引っ張り上げた。


「あ、ありがとう……」


「困ったときはお互い様さエリー君」


「そうだ、気にするな。皆で山頂に登らないと意味がないからな」


 スポコン漫画の登場人物のようなことを言いながら、二人は顔をきらめかせた(キモイ)。今まで馬鹿にしていた二人だったが、今だけはキモかっこよく見えるから不思議だ?


「さあ、神々の頂から下界を見下ろそうではないか」


 龍之介はそう言って、雄大な島々のパノラマを示した。

 自分の足でここまで登り、眺める絶景にエリーはとても感動した。どこまでも続く大海原。緑の木々が島中に広がり、クリーム色の砂浜が鳥取砂丘と天橋立のように海沿いに広がっている。


 森を抜けると、巨岩地帯らしきところもあるし、砂浜の終わりには岩場があって、岩山から見下ろすコントラストはとても色彩豊かだった。


 所々に開けた草原のようなところに、湖らしきものを見つけた。

 感動も束の間、抱いていた希望は消え失せ、絶望を叩きつけられた。

 

 それは島の周辺に陸地はなく、本当に絶海に浮かぶ無人島だということだった。馬がいたのだから、もしかしたら陸地に繋がっているか、誰かが住んでいる、と期待していたのだった。


「そう気を落とすな、わかっていたことだ」


 龍之介は仁王立ちのポーズで島を見下ろして言った。


「観ろッ、自分の足で登らなければ観ることのできない景色だ。絶望の混沌カオスに沈むよりも、今はこの雄大な絶景を眺めようではないか」


 風が吹き龍之介の衣服は揺れている。


「そうね。わかっていたことだものね」


 龍之介の言う通り、ここに登ってきた目的は無人島だということを再確認することではなく、島の地形や、危険動物がうろついていないかなど(600メートルもある山の上から動物など見えないだろう?)を確認することだった。


 自身の目的を思い出し、エリーは目に焼き付けるように島を見渡した。目を凝らして、砂浜を見ていると動く影が見えた。


「ほら、見て、あそこみんなが見えるんじゃない」


 子供のように浮き立つ心で、エリーは砂浜を指差した。


「本当だな。人がゴミのようだッ!」


 龍之介はそう言ったが、皆白けたように無視を通した。

 高いところに登ったときそういう奴、絶対いるよな。クラスに一人や二人。

 

「紙とペンがあれば、地図を書けるのに……」


 エリーは苦肉を噛みしめる思いでそういうと、「地図を書くのに紙など必要ないさ」と龍之介はドヤ顔を決めて言った。


「この平たい岩を使えばいいッ」


 そう言って龍之介が持ち上げたのは、A4コピー用紙サイズの薄さ4、5㎝ほどの平たい岩だった。


「慎重に下さなければならないがな。この十戒に地図を記すのだ」


「そうね。確かにそれがいいと思う。だけど……地図なんてあたし描けないんだけど……。カバー隊長は?」


「描けなくはないが、上手くはないな」


「我が記してやろう」


「描けるの?」


「我を誰だと思っている」


 龍之介は足下に落ちていた手ごろな石を拾い上げて、A4サイズの岩に地図を刻みだした。島を上空から俯瞰した地図だった。


 周辺の海を外側に描き、島を表現している。

 自分たちが不時着した砂浜。

 緑の森と巨岩地帯。

 断崖絶壁

 湖の場所。

 今自分たちが登っている岩山。

 完璧な地図だった。


「あんた本当に何でもできるのね」


 エリーは肩越しに覗き込んで、本当に感心していた。

 

「できたぞッ!」


 ドヤ顔で言って、龍之介はモーセが十戒を掲げ上げるあのシーンを模し、地図を天に掲げた。ここに雷なんかの効果を入れるとさらに雰囲気が出るだろうな、と思うエリー。


 そんなことより、あとは落とさないよう本当に割れ物を扱うよう慎重に、持って帰るだけだった――。本当の戦いはこれからだ……。

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