無人島生活7話 バケツに集める悪〇の実シリーズ!

 岩面に刻まれた地図は龍之介とカバー隊長の二人が交代で、持って下りることになったのだが、その度にハラハラして気が気ではなかった。


 それはまるで、ニトログリセリンを扱っているかのような感覚に一番近い……かもしれない。


 岩山を下りている最中、何度十戒、じゃなくて地図を落としそうになったかわからない……。







 転げる岩に足を取られ、「危ないッ!」エリーは滑る龍之介を済んでのところで支えたら、「フフフ、我のことなど心配することはない。我がこんな道端の石ころになど足を取られるわけなかろう」と中二病を発動させる始末。


「いや、あんたなんて心配じゃないって。あんたが持ってる地図が心配なだけよ」






 カバー隊長の場合。

 

「あんたどんな持ち方してんのよッ!」


「どんな持ち方って、普通にもっているだけだが?」


「ラグビーのボールじゃないんだから、そんな持ち方したら崩れるでしょうがッ! この筋肉バカがッ!」


 カバー隊長は崩れやすい岩をラグビーボールのようにして、抱えていた。少し力を込めるだけで、崩れてしまうかもしれない。


 この無人島では、岩に刻まれた地図さへも福沢諭吉100枚、いや500枚よりも高価な代物になっている……かもしれない。






「ちょっと、そこ段差あるッ! そこ、滑りやすいッ! 隕石には注意してッ! なに寝てるのよッ! 寝たら死ぬぞッ! 変なもんが空から襲ってきたッ! 虫の大軍がッ! 目が! 目がぁ~!」


 数々の困難を乗り越えて三人は神々の頂から下界に返り咲いた。

 

「帰ってきたッ! 下界よッ! あたしは帰ってきた――――――!」


 数々の困難を乗り越えた三人は一回りも二回りも成長していた。まるで、一年の修業を立った半日で達成したかのようにだ。三人の顔には疲労よりも、誇らしげな輝きが刻まれていた。









 エリーが試練に挑んでいたとき、潤弥たちはと言うと食料探しに精を出していたそうな。潤弥は食料を探して森の中を適当に彷徨い歩いていた。


「食べられるもんって言ってもな~。何が食べられるか分からねえしな」


 潤弥はしゃがみ込んで、地面に生えている草のような物を手に取った。葉は結構肉厚で、ハーブのようでもある。


「これ、食えるのか?」


 潤弥はハーブのように見える草を鼻に近づけて、においを嗅いだ。

 微かに青臭い臭いがするが、においだけで食べられるか、食べられないかの判別ができるほど潤弥は人間を辞めていないなかった。


 ハーブのような草を手でもてあそびながら、「ゴリッチかモーリアンにでも食べさせてみるか」と少し摘んで帰ることにした。


 入れ物はさっき砂浜で拾ったバケツ。

 無人島だと入っても、意外に人間が海に流したゴミなどが流れ着いているものだった。網や瓶、プラスティックなんかもあった。もしかしたら陸地が近いのかもしれない。砂浜を調べて、使えそうな物を探すのも一興だったりして。


 樹々が茂る森を蛇行しながら進んで、潤弥は色々なものを一応バケツに摘み取った。紫や黄色などの蛍光色をしているキノコや、悪〇の実のような明らかにヤバそうな色をしている果物。


 ヘンゼルとグレーテルに登場するヘンゼルが、ちぎったパンの跡を追うように、潤弥はわざとなのかヤバそうな果物や植物が生えているところばかりを辿った。


 そのように森の中を進んでいたときのこと、潤弥はあるものをみつけたのであった。


 潤弥もはじめは石だと思った。

 芝生の上に黄ばんだ石が数個転がっていたのである。

 潤弥は辺りを見回しながら、これと言って何とも思わなかったが、その黄ばんだ石の造形をあるものに照らし合わせると、「アァッ――――――!」と裏返った悲鳴を上げた。


「ななななッ、何で、骸骨があるんだよ……」


 腰を抜かして潤弥はその場に尻もちをついた。潤弥が見つけた黄ばんだ石群は人間のものと思われる頭蓋骨によく似ていたのだった。


 少なくとも頭蓋骨と思われるものが、十個ほど辺りに転がっている。

 潤弥は腑抜けた足を鼓舞して、何とか立ち上がりその場から逃げるように駆けだした(ちゃっかり、集めた食料は持っている)。


 草に足を取られながら何度もこけそうになるが、ここでこけてしまえば後ろから見えない手が伸びてきて、どこかに引きずり込まれそうな錯覚にとらわれていたので、何とか踏みとどまり力の限り潤弥は走った。


 なんでこんなところに骸骨があるんだ……? 

 見間違いだろうか……? 

 いや、あれは見間違いなどではなかった。人間の歯のようなものがあったし、眼球が収まっていた眼窩がんかもちゃんとあった。あれは間違いなく骸骨だ。


 どうして、無人島に骸骨などあるのだろうか? 

 自分たちがここに来る前に、誰かが同じようにこの島に漂流して、助けが来ないまま力尽きてしまったのか……? 


 そうに違いない。あれは自分たちの未来の姿なのだ……。 

 いや、まて同じ場所で十人近くも同時に力尽きるものだろうか? 

 自分たちと同じ漂流者なのは間違いないにしても、皆同時に力尽きることは考えずらい。ならどうして、一か所に集まった骸骨があれだけあったのか?


 考えられる可能性はいくつかあった。

 あの周辺に生えていた毒性を含む何かを食べて、皆動けなくなり力尽きた。それか、やはりこの島には人間すらも襲って喰う、肉食の動物がいる。


 もう一つの考えとして、一番考えたくないことだが漂流生活で気の狂った人間同士の殺し合い。


 だとすれば、そう悠長にしている暇はない。

 速くこの島から抜け出さなければ。肉食獣に襲われるか、気が狂ったツッコミや、ボケ、中二病、ゴリラ、バカ隊長に殺される前に速く島から抜け出さなければ。


 だが、飛行機は大破して海の藻屑と化し、船を造れるだけの道具もない……。


 連絡が取れなくなったことを不審に思ったマネージャーやプロデューサー、スタッフたちが自分たちの捜索を開始したとしても、この広い海のちっぽけな島から自分たちを探し出すのは、砂浜で小さな失くし物を探すに等しいくらいに難しいことだ……。


 もし見つけ出せたとしても、それまでに肉食獣に喰われるか、気が狂ってしまう……。


 ああ、どうして、こんな企画に参加してしまったのかッ! 

 文明の利器をすべて置いて、何にも無ぇ♪ 無人島なんかで一か月のサバイバルなど無理な話だったのだッ……。


 自分は人気俳優(自称)だぞ……。こんな馬鹿な企画、どこぞの売れない芸人にでもやらせておけばよかったのに……。


 あのマネージャーの野郎ッ! 生きて帰れたら、ただじゃ置かねえッ! そんな状況でも案外元気な潤弥なのであった――。

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