無人島生活2話 ス〇ンドッ! ヘパイストス・ザ・クリエイターの能力ッ!!!
アマゾンを探索する探検隊のように、エリーたちは森を進んだ。
カバー隊長は迷彩服の内ポケット、『ジャケットポケットッ!』から、サバイバルナイフを取り出して、悪路を切り開いている。
本当にこの人は元グリンベレーなのかもしれない、とエリーは思いはじめた。まあ、悪路と言ってもアマゾンのジャングルのように、草木が鬱蒼と茂っているのではなく、至って歩きやすいのだが。
だが、湿度が高く飛行機から逃れるために海に飛び込み、びしょびしょになった服が体にまとわりついて気持ちが悪い……。
ああ……お風呂入りたい……。
お風呂じゃなくてもいい、水浴びがしたい……。
「足下には気を付けろ」
背後に続く者たちにそういったとき、カバー隊長は蔦に足を取られて派手に転んだ。いや、さっきの発言は撤回しよう。この人はやはり自称グリンベレーに違いない。
「大丈夫? 人に気を付けろと言う前に、あなたが気を付けなさいよ」
言ってエリーは手を差し出した。
「ああ、エリー君すまない」
エリーの手をとって立ち上がり、カバー隊長は再び歩きはじめた。熱帯でジメジメした森。樹々の青々しい臭いが強く、まるで液状の空気を吸っているかのようだ。
熱帯雨林のように足場が悪く、蔦が絡まった樹が生い茂っている。
本当に湧き水などあるのだろうか?
疑い始めたときだった、「見たまえ諸君ッ!」とカバー隊長の怒号にも似た歓声が上がった。
エリーはカバー隊長の視線を追って、それを見た。ご都合主義に思えるだろうが、本当に湧き水が崖から湧いて流れ出ていたのだ。
「おおッ! あれは様に聖水ッ! 天から湧き出る神の雫ッ! 命の水ッ!」
と舞台俳優のように暑苦しく身振り手振りを交えて言うのは、中二病こと
「ほ……ほんとだ……み、水だ……。水を……俺っちに早く……水をぐれ~……」
ふらふらになって何とか後に付いてきていたのは俳優よりホストやれ、でお馴染みの潤弥。
崖のようなところから、滝のように綺麗な水が流れ落ち、マイナスイオンの楽園が広がっていた。オアシスを求め彷徨い歩いた旅人はきっと、宝石よりもこの水を美しいと思うだろう。
「まずは、私が試しに飲んでみる」
言ってカバー隊長は手酌を作って、舐めるように飲んだ。
ワインソムリエのように口に含んだ水を、口の中で転がしてカバー隊長は毒見役を買って出る。
「うん、これは間違いない。飲める水だ」
皆は息を飲んで、代わる代わる喉を潤した。潤弥は滝に顔を突っ込んで、まさしく浴びるように飲み、龍之介は中二病の割に普通に飲んだ。
「よし、問題はだ。この水をどうやって仲間の下に運ぶかだ」
皆は一斉に固まった。
考えもしなかったが、容器などなかった……。
持って来た文明の利器、ペットボトルは飛行機と共に失われてしまった……。つまり容器などない……。
「まあ、湧き水があったことを知れただけで大収穫だ。皆にここまで来てもらうしかない。往復一時間近くはかかるが」
カバー隊長が腕組みをして納得しかけたとき、「こんなに早く我の能力を見せることになろうとはな」と喉を潤し声に張りの戻った中二病が言い放った。
「は? あんた何言ってんのよ。もしボケてるならどつくわよ」
「我がボケるだと? 我はボケたことなど一度もないッ」
「いや、ボケまくりじゃない」
エリーが言うと、龍之介は聞こえないを決め込んで続けた。
「我がこの危機的状況を打開してやろうッ!」
言って龍之介は爆熱〇ッドフィンガーッ! のように右手を突き出した。
「出よッ! 我がス〇ンドッ! ヘパイストス・ザ・クリエイターッ!」
中二病は頭がおかしくなったのか、バンッ! ズズズズュー! と背景に擬音を具現化させて変なポーズを決めた。
「はいはい。そうね、頭がおかしくなる気持ちはあたしも痛いほどわかるわ」
「わからないか?」
エリーの怒りが爆発するまで残り10秒。
9、8、7、心の中でカウントダウンしていたとき、「こいつは同じス〇ンド使い出なければ見えないからな。愚民でもわかるように、結果で見せてやろうッ! 我がス〇ンドの能力をッ!」と龍之介は天を指さした。
「あの葉っぱを見ろ」
そこには大きな葉っぱが沢山茂っていた。
「あの葉っぱを折って容器にすれば水を運ぶことができるッ」
「確かに、龍之介君の言う通りだ。あの葉を容器代わりにできれば、一度に多くを運ぶことができる」
カバー隊長はうなずき、グリンベレーで鍛えた馬鹿力を駆使して、樹を揺らした。すると、数枚の大きな葉っぱがひらひらと右へ左へ舞いながら落ちてきた。
中二病は数枚を拾い、「見ているんだなッ! ヘパイストス・ザ・クリエイターの能力をッ。ヘパイストス・ザ・クリエイターッ、クリエイティブル・ワールドッ!」とドヤ顔で叫んで、葉っぱを水で綺麗に洗いはじめた。
粋がっていたが、案外やっていることは地味だった。
そして綺麗に洗った巨大葉を器用に編んでゆく。
まるで草船を編むかのように器用にだ。二枚の葉っぱを組み合わせて、500mlのペットボトルサイズの容器を作り出した。
「あんた器用ね」
感嘆の声をあげると、龍之介は少し頬を赤らめて、「フフフ、これが我がヘパイストス・ザ・クリエイターの能力。どんなガラクタでも我の手に掛かれば、変身するのだ」と照れ隠しをする。
「そうかいそうかい。まあ、あんたのおかげで二度手間を防げるわ。この容器をもっと編んでよ」
龍之介は言われるがまま、地味に黙々と容器を編んだ。
ヘパイストス・ザ・クリエイターの能力は地味だが役に立つようだ。
編んだ容器を二重にして、水が隙間から漏れるのを防ぐ職人気質。
中二病で痛い奴だが、他の奴らより根は真面目で頼りになる奴だ、とエリーは思った。
「それじゃあ、この水を持って帰ろうか」
皆は両手に約2リットルずつ水の入った容器を持ち、元来た道を引き返して行くのだった――。
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