無人島生活1話 何にも無ェ無人島に漂流記
テレビも無ェ、ラジオも無ェ、船は愚か通って無ェ。
パソコン無ェ、スマホも無ェ、Wi-Fiなんて飛んで無ェ。
水道無ェ、お風呂も無ェ、電気なんて通って無ェ。
漂流者はあたふたグールグル。
何て歌のオマージュを頭で考えながら、地平線まで続く広大な海原を眺めて、『何でこうなったッ!』とエリー(23歳。彼氏いない歴=歳。175㎝モデルでツッコミ担当)は絶望に嘆いていた。
綺麗な波が打ち寄せる砂浜から、墜落したと思われる飛行機が海にプカプカと浮かんでいる光景を皆は眺め続けている。
エリーだけではない。
みんな呆然と、馬鹿になったように同じ方角を向いていた。
どうして、こんな状況になっているかを説明するには、話を三日前に巻き戻さなければならない。
エリーは大手事務所に勤める人気モデルだった。そしてある日、すべての始まりの三日前、マネージャーがあるバラエティー番組の仕事を取ってきたのだ。
そのバラエティー番組の企画とは、男女合わせて6人が無人島で一か月間サバイバルをするというものだった。
その6人に選ばれた者とは
・ モーリアン
24歳 165㎝ 一人称 うち
最近売れている女芸人のボケ担当。
モデルでも通用しそうなほどに綺麗。
・
不明 163㎝ 一人称 わたし
天然で売っているぶりっ子タレント。
ネットでよく「絶対あいつ腹黒だよな~」と噂されている。
・ 潤弥(じゅんや)
25歳 178㎝
最近ブレイク中の俳優、「俳優よりホストの方が絶対似合ってるッ。ホストやれ、ホスト」などとネットで馬鹿にされている。
キャラ付けなのか、自分のことを俺っちとかいうチャラ男。
何故か女性ファンが多い。
・ ゴリッチ
28歳 185㎝ 一人称 僕
元十種競技の選手で金メダリスト。
バカに明るいタンクトップ。
・
24歳 170㎝ 一人称 我
俳優やタレントなどをマルチにこなす。
20歳を過ぎて中二病をこじらせ、自分のことを
と、一癖も二癖もある人達と一か月間南にある無人島でサバイバルをするという、誰が見たがるんだ、と思うクソ番組の撮影のために、乗った飛行機が今海に浮いているあの飛行機だ……。
その南の島につくまでに、乗っていた飛行機がトラブルを起こし、緊急不時着した。飛行機のエンジンらしきところから、黒煙が上がっている……。
そして、この悲劇を引き起こした張本人は早くも開き直っている始末……。
「諸君、そう気を落とすなッ! メソメソしている暇はないぞ。早く寝場所を確保し、火を起こさねば、猛獣に襲われてしまう。我々はこれからこの何もない無人島で生きて行かなければならんのだッ!」
と熱弁をふるっているのは、通称カバー隊長(バカ隊長)。元グリンベレー(自称)で訓練をして、現在は撮影スタッフをしている、マッカーサーみたいなサングラスをかけた男だった。
「よく、そんな早く開き直れるわねッ! こうなったのは誰のせいよ……? あんたのせいでしょうがッ!」
エリーは猫のように毛を逆立てて、カバー隊長につかみかからん勢いだった。
「何で飛行機が故障するのよッ!」
黒煙を黙々と出し続ける飛行機を左手で指さしながら、エリーは叫んだ。
「エリー君。怒るだけ無駄だ。体力を無駄に消耗するだけで何の解決にもならんぞ。戦場で真っ先に死ぬ奴を知っているか? それは怒りに我を失った奴と、体力を消耗して判断力を鈍らせた奴、そして、戦争が終わったら結婚するんだ、と言う奴だッ!」
カバー隊長は空を見上げながら、意味深に言ってみせた。
「ンっんなん関係あるかァッ! どう責任とってくれるのよッ! こんなスタバもないところで、どう生活しろっていうのよッ!」
「エリー君まあ落ち着け。スタバはないが砂場はあるじゃないか」
言ってカバー隊長はプッと吹き出した。
エリーは堪忍袋の緒が切れる、プチっという音を聴いた。
「しょーもねーんだよッ!」
ああッ―――――――と頭を押さえ髪を振り乱し、エリーは半狂乱で叫んだ。それはまるでディオニソスのバッカスの儀式で踊り狂う女のように、または天岩戸の前でバカ騒ぎをする女神のようだった。
「早く飛行機を修理してちょうだいよッ!」
エリーがそう言ったとき、飛行機が浮かんでいる海がきのこ雲のようにバンッと海水を噴き上げた。
皆は一様に「・・・・・・」と漫画などであるあの沈黙を再現させ、言葉を失ってしまった。
「エリー君。諦めるんだ、もう飛行機は天寿を全うした。彼は最後の力を振り絞って、我々をここまで運んでくれたんだ。黙禱で労おうではないか」
カバー隊長は仏教式に手と手を合わせた。
「運ぶならッ、目的地まで運んで殉職しろよッー!」
ああ―――――――と貞子のように髪を振り乱して、エリーは叫び続けた。虚しいかな、エリーの声は島中に響き渡った。
ヤシの木の作り出す木陰で横になり、エリーは生きる屍になっていた。
エリーが木陰で休んでいる間にも、他の仲間たちはカバー隊長指導の下、落ちていたヤシの葉などで簡単なテントを作っている。
「諸君、生きる上でまず必要となるものは何だッ!」
カバー隊長は六人に問うた。
「はいッ!」
元気な声をあげて、立ち上がったのはモーリアン。
「モーリアン君、生きる上で必要なものとは何だと思う?」
「そんなん決まってるがな、
言ってモーリアンは人差し指と親指で円を作り、薄汚く笑った。
「うん、確かにモーリアン君の言うことは正しい。何を買うにも銭だ。銭さえあれば何でもできる。車も家も戦車や戦闘機、女さへも銭さえあれば買える」
何ちゅうこと言い出すんだあの馬鹿は、とエリーは小耳にはさみながら心でツッコんだ。
「だが、考えて欲しい。ここで銭が使えるか?」
モーリアンは「・・・・・・」と押し黙り、「うちアホやったわ。銭なんて使えんわな」と理解した。
「そう、銭なんて使えないんだ」
「そうやな、店なんかで買いもんするとき、一円玉や十円玉ばかり出したら、嫌な顔されるもんな。よう考えたら銭ちゃうわ」
納得したようにうなずきながら、モーリアンは自信満々に答えたッ。
「ほな、札束やッ! これなら正解やろッ!」
「何言ってんだッ! 札束何て使えるわけないだろうッー!」
と溜まりかねて木陰で横になっていたエリーは飛び上がるように立ち上がり、モーリアンにツッコんだ。
「え……札束使われへんのんか? せっかくぎょうさん持って来たのに……」
言ってモーリアンは大事そうに抱えていたトートバッグを皆の前で開いて見せた。そこには福沢諭吉が束になって詰め込まれていた。
「そんなん持って降りる時間があるならッ! 食料と水を持っておりろよッ! てか何で、金持ってきてんだよッ! 無人島でサバイバルする企画だったんだぞッ!」
モーリアンは舌を出して可愛らしく、「てへ」と頭に手を置いた。
「だって、うちに置いて行くと福ちゃんが寂しがるやろ」
「福沢諭吉は寂しがらねえよッ!」
エリーは息を切らせながら叫んだ。
ああ、駄目だ水分不足と疲労でめまいが酷い。
「まあまあ、エリー君その福沢諭吉は使えるぞ」
言って、カバー隊長はふらふらになったエリーをしゃがませた。
「いざというときは、それに火を点けて暖をとれる」
「うちの福ちゃんを火刑にするゆんかッ! やめてえなッ! 命よりも大切な福ちゃんなんやッ! 福ちゃん焼くゆうんならうちを焼けッ!」
モーリアンはトートバッグを抱いて、涙ながらに訴えた。
「ほんじゃあッおまえを焼いたろかッ!」
エリーはモーリアンにつかみかかろうとしたところで、カバー隊長に襟首をつかまれ引き戻された。
「では、もう一度諸君に訊く、この状況下で何が必要だと思う?」
「プロテインッ!」
と答えたのはゴリッチ。
「違う」
「女性の熱い視線と黄色い声援ッ!」
と答えたのはチャラ男。
「違う」
「わたしぃ~ド○え〇もんが欲しい~」
と答えたのは天然ぶりっ子。
「うん確かに、まくら、人生ゲーム、ド〇え〇んは無人島三種の神器に入っているが、今の科学力ではド〇え〇んを作ることは不可能だ。だから、違う。だが、惜しかったぞ。紅君、きみには惜しかったで賞を与えよう」
カバー隊長が却下すると、フフフと言う笑い声で皆の視線を惹きつけた者がいた。
「そうだな、まずは地獄の業火と三途の川の水だッ!」
またも、〇リーザのようにフフフと笑い答えたのは中二病。
「そう、その通り。まずは水だ。そして火。水がなければ人間は生きられない。火がなければ、夜獣に襲われるかもしれん」
よく今のでわかったな、とエリーは感心した。
「わかったかね諸君。二チームに分かれて行動を開始しよう。太陽が真上だ。じき日が沈む。急がなければ夜を越せないぞ」
ということで、エリーと潤弥、カバー隊長と中二病は島の中に湧いているかもしれない真水を探しに森へ。
一方ゴリッチ、天然ぶりっ子、モーリアンは乾いた木を集めて火起こしに取り掛かる――。わりと適応能力の高い面々なのであった――。
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