回復
衰弱していた猫亜人、犬亜人、虎亜人、蜥蜴亜人たち。
野草採取に出かけていた亜人たちも戻り、炊き出しの食材が空になるまで料理を振舞った。
栄養たっぷりで消化にいい肉野菜スープを食べた後は、身体を拭いてトゥーが仕立てた服を着せる。すると、外見だけはなんとか見れるようになった。
ゴロウとトゥーは、ユメが狩った魔獣を解体し、保存食を作る。
ノゾミは、亜人の一人に案内され、食器などを洗う川へ向かい、マサムネは再び長と話をすることに。
長は、壊れた噴水の前にどっかり座り、マサムネはその向かいに、シートを敷いて座った。
「で……貴様が領主か」
「はい。マサムネと申します」
「……バランだ。蜥蜴亜人で、この集落のまとめ役だ」
「バランさん。よろしくお願いします」
「ふん、礼儀はいいな」
バランは大きく息を吐き、マサムネに頭を下げた。
「まずは礼を。皆を救ってくれたことに感謝する」
「必要ありません。俺はここの領主になりました。領民を救うことは義務です。なので、頭を下げるなんてしないでください」
「そうはいかん。いくらお前が領主だろうと、感謝の意を示すのに頭を下げるのは当然だ。救ってもらって当たり前などという情けない考えは持たん」
「……わかりました。では、ありがたく頂戴いたします」
マサムネも頭を下げた。
低姿勢な若造。バランはそう評価した。
「さて、これからのことだが……」
「はい。やることは山積みです。まず、この瓦礫の町を修復、そして水源の確保、田畑の整備、流通の開拓……仕事はいくらでもあります」
「そうだな。今までは瓦礫の隙間に身を潜めるように生活していたが、屋根がありベッドがある家屋は誰でも恋しい」
「はい。それと食事……幸い、この辺りには食用になる魔獣が多くいるようです。自分の……その、えっと……つ、妻は、狩りが得意なので、肉はなんとかなります」
「……何を言い淀んでいるのか知らんが、薬草や果物なら心当たりがある。しばらくはなんとかなるだろう」
「はい。それと、お願いが」
「うむ、言ってみろ」
「はい。ここに暮らしている人たちを、全員集めてもらえないでしょうか? ここの領主になった以上、きちんと顔を見て挨拶したいのです」
「……まだ領主と認めたわけではないが、すでに貴様らに懐いている者もいるようだ。挨拶くらいはいいだろう」
バランが見たのは、ユメにじゃれつく猫亜人……ニャトとトラだった。
可愛らしく尻尾を揺らし、ユメに撫でられている。
「ふん。いいだろう……好きにやってみろ。ただし、領主に相応しくないと判断したら、ここから追い出してやるからな」
「わかりました。全力でやらせていただきます」
「ふん……」
バランがシロを呼ぶ。そして、住人を集めるように言った。
シロは素早い動きで駆け回り、一人一人声をかけていく。そして、炊き出しの広場に大勢集まった。
猫亜人が半数より少ない。犬亜人、虎亜人、蜥蜴亜人が二十名くらいずつだ。
マサムネは、全員に聞こえるような声で言う。
「皆さん!! 私……いや、俺の名前はマサムネ。このユーリ領地の領主です!!」
ドヨドヨと、周囲が騒がしくなる。
だが、マサムネは続けた。
「俺は人間です。皆さんが苦労する原因になった種族ですが、俺は皆さんの生活をよくするために来ました。先の戦争で人間を許せない方もいると思います……でも、人間ではなく、俺を、俺たちを信じてください。皆さんの生活をよくするために精一杯の努力をさせてもらいます!! なので……皆さん、皆さんの力も貸していただきたい!! 人と亜人、手を取り合って、このユーリ領地を復活させましょう!!」
マサムネは、大声で叫んだ。
住人たちは、まだ不安そうにしている。
すると……パチパチと、小さく拍手をする者がいた。
「ふん……見せてもらおうか」
「バランさん……」
「お前ら!! この人間はここをぶっ壊した人間とは違う!! どうやら本気で建て直すそうだぜ?……できなかったら全員で食っちまおうぜ!!」
「え」
「「「「「オォォォォッ!!」」」」」
「え……えぇぇっ!?」
「そーいうわけだ!! ここを立て直すぞぉぉぉぉっ!!」
バランの叫びに、住人たちは一斉に雄叫びを上げた。
すると、ユメがマサムネの背をパシッと叩く。
「できなかったら食べられちゃうってさ」
「じょ、冗談……だよね?」
「どうかな~?」
ユメはクスクス笑う。
ノゾミ、トゥー、ゴロウも笑っていた。
どうやらマサムネは、少しだけ住人に認められたようだ。
「よ、よーし!! これから忙しくなるぞ!!」
マサムネは、食われる恐怖を誤魔化すように気合を入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます