第119話 黄霊
白の空間への帰還後、俺は直ぐに成果確認をゼラにお願いした。いつもと異なる雰囲気を感じ取ってくれたのだろうか? ゼラは抱えていた酒瓶をテーブルに置き、酒場の外にて魔具の読み取りを行うと、至極真面目な顔で言っていた。そうして現在、俺達はアリーシャの花畑前にて成果確認を行っているのだが…… 何だか真面目なゼラってのも、少し調子が狂うな。いや、当初はいつも真面目な筈だったんだけどさ。そんな空気を察してなのか、アリーシャ、サンドラ、イレーネは少し離れた場所より、こちらの様子を窺っている。
「第三の大黒霊の討伐、そして黄霊の救出ですか。ベクトにはいつも驚かされていましたが、今回は今までの比ではありませんね。案内人冥利に尽きると言いますか、私自身かなり驚かされています」
「俺はゼラが酒瓶を手放した事に驚かされているよ…… それで、その黄霊ってのは一体何なんだ? ダリウスに聞いても、正直よく分からなかったんだが」
「そうですね…… 力と意志、そして高潔さを持ち合わせた探索者が力尽きた際、他の探索者に道半ばで倒れてしまった無念、積み重ねた力を受け継いでもらう為に、その場に魂が残り続けた結果――― それが黄霊となるのです」
「えっと、つまり?」
「簡単に言ってしまえば、探索者の青霊版でしょうか? ベクトが目にした黄金の剣は、死した探索者の力を視覚化したもの。今、貴方の中にはダリウスだけでなく、オルカも魔具として存在しているのです」
「オルカが、魔具に……?」
突然の言葉に驚きを隠せない。しかし、でも――― と、自分の中で疑問が反復する。
「まあ、当然の反応でしょうね。では、次にこちらをご覧ください」
◎本日の成果◎
討伐黒霊
風雅の石像×5体(舞踏LV2、瞬発LV1)
浮遊する額縁×3体(浮遊LV2、魔法・停滞LV1)
無形なる思想×2体(浮遊LV1、思考LV2)
鋼索の暗殺者×1体(隠密LV3、空蹴LV3、格闘LV3、擬態・壁LV3)
包容する守護者×1体(再生LV4、肉鎧LV4、擬態・壁LV2、束縛LV3)
討伐大黒霊
薄氷の刃LV3(剣術LV4、飛剣LV5、修繕LV5、魔法・氷剣LV5、耐性・氷LV3)
大黒霊を討伐した事により、所持霊刻印が成長
剣術LV3⇒剣術LV4
増殖LV3⇒増殖LV4
統率・屍LV3⇒統率・屍LV4
格納・屍LV4⇒格納・屍LV5
融合LV4⇒融合LV5
大黒霊を討伐した事により、霊刻印の所持上限が成長
霊刻印数5⇒霊刻印数6
大黒霊を討伐した事により、魔具のアイテム収納上限が成長
アイテム枠7⇒アイテム枠9
大黒霊を討伐した事により、魔具の人化が解禁
=====================================
魔剣ダリウス・オルカ
耐久値:76/76(+18)
威力 :67(+14)[+3]
頑強 :108(+21)[+36]
魔力 :63(+24)
魔防 :103(+27)[+41]
速度 :62(+12)[+5]
幸運 :51(+9)[+3]
霊刻印|(ダリウス)
◇剣術LV4
◇増殖LV4
◇統率・屍LV4
◇格納・屍LV5
◇融合LV5
◇無
霊刻印|(オルカ)
◇剣術LV4
◇飛剣LV5
◇修繕LV5
◇魔法・氷剣LV5
◇耐性・氷LV3
◇無
探索者装備
体 :
腕 :刃の太陽(威力+3、頑強+4、魔防+4)
足 :
靴 :
装飾 :
装飾 :
装飾 :司教の首飾(幸運+3)
=====================================
困惑する俺を余所に、ゼラが今回の成果を提示して来た。立て続けに強敵と戦い、その後に大黒霊まで倒したのもあって、今回の成長っぷりは今までの比でないくらい、凄まじい数字となっている。しかし、最も俺の目を引いたのは、魔剣のところにオルカの名が記載されている事だった。
「御覧の通り、魔具のステータスは同一のものとなっています。一方で霊刻印を刻む枠は別々、つまりは倍の数の霊刻印を刻む事が可能となりました。ダリウスの魔具かオルカの魔具か、一度に使用できるのはどちらか一本のみとなりますが、探索者の呼びかけに応じて探索中に切り替える事が可能です。慣れてしまえば、戦闘の最中に一瞬で切り替える事もできるでしょう。これは探索者にとって大変に素晴らしいアドバンテージとなり―――」
ゼラが説明を続けてくれる。けど、今の俺はその説明を満足に理解できる状態にはなかった。俺はオルカの力を、そして意志を引き継ぐ事ができたのかと、胸が熱くなっていたのだ。そうか、黄金の剣に触れた際、心が満たされたのはそれが原因だったんだ。彼女の命のバトンを、俺は確かに受け取った。受け取る事が、できた…… そうか。そう、か……
「―――ベクト、ちゃんと私の話を聞いていますか?」
「……悪い、あんま聞けてないかも」
「ハァ、そんな涙を見せられては、叱る気にもなりませんよ。まったく、仕方ありませんね。 ……後ろを確認してみては如何です?」
「……後ろ?」
ゼラのその言葉の意味を特に考える事もなく、俺は反射的に後ろを振り向いていた。そして、次の瞬間に視界に入ったのは、信じられない光景だった。
「……ええと、久し振り、だな」
「………」
思考が止まる。俺の眼前に、死んだ筈のオルカがいたのだ。騎士の鎧ではなく、恐らくは彼女の私服であろう衣服、スカートを纏ったオルカが。
……これは何の夢だろうか? いや、待て。確かゼラは、オルカは俺の魔具になったと言っていた。という事は、ダリウスと同じ立場になったという事。であれば、俺の白の空間に現れたとしても、別に不思議ではない? い、いやいや、ダリウスだって剣の姿から実体化した事はないんだ。し、しかし、目の前にいる彼女は、確かにオルカで―――
「お、おい、ベクト? 大変だ、案内人! ベクトの頭から黒煙が出ている!」
「ふぅ、どうやら目の前で起こっている事象に対して、脳の処理が追い付いていないようですね。ベクト、しっかりしてください」
ゴンッ! と、ゼラがどこから取り出したのか、酒瓶の底を軽く俺の頭に当てて来た。慟哭装備の効果で痛みは結構なものへと進化してしまったが、お蔭で意識を取り戻す事に成功。ただ、まだ混乱はしている。
「なぜ? という顔をしていますね。先ほどの成果の一部をよくご覧になってください。大黒霊を討伐した事により、魔具の人化が解禁――― つまり、彼女は剣から元の人へと、姿を戻す事ができるようになったのですよ。まあ、白の空間限定ではありますけどね」
「うむ、本来であればワシが人化する予定だったのじゃが…… 空気を読む事に定評のあるワシ、ええいと、ここは大胆に権利をオルカに譲ったという訳よ! 二人とも、感謝せいよ! 次回はワシのナイスな姿を拝ませてやるんじゃからなっ!」
「そ、そうだったのか? い、いや、それ以前にだな、オ、オルカが何で生きて……?」
「ベクト、勝手に殺さないでくれ。まあ、あんな別れ方であったし、私自身も死んだと思ったんだがな」
「ある意味でオルカは一度死に至りました。ですが、黄霊は探索者の青霊版、先ほどそう説明したではありませんか。要は今回の探索でベクトは、黒の空間を彷徨っていたオルカの青霊を救出したのです。その証拠に、あちらに新たな施設が見えるでしょう?」
ゼラに導かれるままに、彼女の指差す方へと視線を移す。
「……何か、でっかい牧場みたいなのがあるんだが」
「わーい、牛さんに羊さん、お馬さんもいるー!」
俺の驚きを余所に、アリーシャが沢山の動物を前にテンションマックス。飛んで跳ねて、今にも牧場にダッシュして行きそうだ。
「お、おお……! あれは、もしや楽園か……!」
オルカ、お前もか。だが同時に、なるほど、モフりの玄人であるオルカらしい施設だと納得。
「……まだまだ理解が追い付いてないけど、オルカは助かったって認識で良いのかな?」
「まあ、そうなるか。探索者としての私は失われたが、今後は、その、ベクトを支える立場での私になる。ハハッ、私自身、どうも理解が追い付いていないようだ。 ……ベクト、これからは別の形の相棒として、共にお前と戦わせてくれ」
そう言って、オルカが手を差し出して来る。再会を祝しての、そして新たな門出の為の握手、か。ハハッ、高潔なオルカらしい。
「ああ、よろしく頼―――」
「―――もう、そうじゃないだろ? ベクト、こういう時はこうだッ!」
「へっ?」
「そうそう、こうだよー!」
「お、おいっ?」
握手を交わす寸前のところで、不意にサンドラに背中を押される。向かいのオルカも俺と同じく、アリーシャに背中を押されてしまったようで。となれば、互いが抱き止める姿勢になるのは必然。だがしかし、この時は運が悪く、いや、俺にとっては運が良く? ……兎に角、顔に柔らかなものが当たってしまうのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます