第99話 慣れない通話

 取引を終えた俺達は、大女神像に祈ってそれぞれの白の空間へと帰還した。これで次回の探索より、探索者も街も転送先として選べる事になる訳だ。


「あ、お兄ちゃん、お帰りなさ――― わわっ、お兄ちゃんの格好が変わってる!?」


 帰還するなり、アリーシャを驚かせてしまった。まあ今の俺の格好を見れば、それも仕方がないだろう。グレアさんから借り受けた防具一式は、俺が元々身に着けていた紺青こんじょうシリーズよりも、性能と外見が段違いに凄いものだったんだ。鱗みたいな鋼がびっしりと並べられた、所謂スケイルアーマーの軽鎧版っていうのかな。グレアさんはAランクって言ってたけど、本当にこんな凄いものを借りて良かったんだろうか? 普通に装着する事ができたから、ステータス的な問題はないのだが。その他に渡されたブーツやらも、やたらと品質の良さそうなものばかりで、俺が逆に着られている感が拭えない。


「ベクト、それ全部探索で見つけて来たの? 盗んで来たんじゃなくて?」

「そんな事する筈ないだろ…… 色々あって鍛冶職人の探索者と知り合ってさ、防具を鍛えてもらう事になったんだ。この装備はそれまでの貸し出し品だ」

「そ、それにしては、とても立派な装備のようですが…… わあ! この鎧、初級ではありますが、加護の効果が施されていますよ!」

「お城の強い人が着てそうだね~。格好良い!」


 よほど物珍しかったんだろう。ペタペタと借り物の装備に触り、隅々まで観察していくサンドラら三人娘。これ、暫くジッとしていないといけないパターンですかね? そう色々と触れられると、俺としても緊張してしまうと言いますか。


「私が調べるよりも先に身に着けるとは、随分とその者を信頼されているようですね、ベクト?」


 そうこうしていると、酒場よりゼラが現れる。いつものように、片手にはドワーフ殺しの一升瓶を装備しておられる。ゼラさん、毎日山のように飲んでるそのお酒、想像以上にレアだったみたいですよ。


「ああ、オルカの紹介で知り合った子でさ。そのドワーフ殺しと交換条件にお願いしたんだけどさ、ゼラに負けないくらい、お酒について熱く語ってくれたよ」

「なるほど、それは信頼の置ける者ですね。至極納得です」


 納得しちゃうのかい。どんだけ酒を信頼しているんだ。


「左耳から失礼しますわ!」

「おわっと!?」


 突然、左耳からグレアさんの声が聞こえて来た。いや、声というよりも、滅茶苦茶な大声と言うべきか。


「お兄ちゃん、突然どうしたの?」

「い、いや、その鍛冶職人の子から連絡が来たみたいでさ。 ……グレアさん、そんなに大声で話さなくても、ちゃんと声は届いてますよ。もっと普通に話す感じで大丈夫です。そうしないと、俺の鼓膜が壊れちゃいます」

「そ、そうですの? 申し訳ありませんの。何分初めて使うものでして、勝手がまだよく分かっておりませんの……」


 ああ、そういやオルカと違って、グレアさんは今まで誰にも耳飾りを渡していなかったんだっけ。初めて電話を使うようなものか。それなら仕方なし。


「なら、これから慣れていきま―――」

「―――それならば、これから慣れて行けば良い。そうだろう、ベクト?」

「って、うおっ!? そ、その声はオルカ!?」


 グレアさんと通話していたと思ったら、オルカが俺の台詞を盗りつつ会話に参加して来た。これまた突然の事だったので驚かされる。


「えっ? ちょ、ちょっと確認なんだけど、この耳飾りって三人で会話できるもんなの?」

「私も今さっき二人の会話を耳にして気付いたのだが、どうやらそのようだ。二つの耳飾りを着けているベクトが仲介役となって、私とグレアも会話ができるようになった。そう考えるのが自然だろうか」

「さ、流石はオルカ、顔が見えない会話中も冷静ですわね。氷の女王の二つ名は伊達じゃないですわ……!」


 前々から思っていたけど、グレアさんはかなりオルカの事を信頼しているんだな。実のところモフモフ好きで、ちょっと天然って事も知っているんだろうか?


「さっきから挙動不審だけど、お兄ちゃん本当に大丈夫かな?」

「あ、後でストレス軽減のお茶でも淹れるべきでしょうか?」

「うーん、普通の冒険者は肉食って酒飲んでれば、ストレスなんてなくなっちゃうけど、ベクトはその辺繊細そうだもんねー」


 そしてこの会話の裏で、アリーシャ達に酷く心配されてる俺。違うんだ、耳元で大声出されたり、不意に声を掛けられたら、誰だってビックリしてしまうもんなんだ。だから決して挙動不審ではないんだと、声を強くして言いたい。


「それはさて置き、防具の強化作業と鞍の生産についてなのですが、大体三日ほど掛かりそうですの。その間は白の空間で待機して頂けると、私としてはいつでも連絡できて助かるのですが、如何でしょうか?」

「三日っていうと…… 朝昼晩がないから、大体72時間って事かな? 俺は構わないけど、オルカはどうだ?」

「私も問題ないよ。その間に、決戦に向けて精神統一でもしていよう」

「い、今からずっとか?」

「うむ、当然だ」


 なんとストイックな。


「おいおい、十分な休養も取ってくれよ? まあ、俺も今一度自分の戦い方を見直してみるけどさ。ああ、そうだ。グレアさん、何かあったら遠慮なく連絡してください。手伝える事があったら、喜んで協力しますので」

「フフッ、ありがとうございます。ですが材料も十分にありますし、お気持ちだけで十分ですのよ。では、作業の進展がありましたら、また連絡しますの! ごきげんよう、ですわ!」

「よろしくお願いします」

「うむ、ではまたな」


 よし、通信終わり。さて、今回の探索の成果をゼラに見てもらおうかな?


「さて、早速やりましょうか。まずはベクトさんの防具の強化作業から始めますの。軽鎧の特性上、防御力を強化しつつ、動きを阻害しない仕上がりにしなくてはなりません。あれだけの御仁、この世界ではそうそう見掛けませんからね。私の誠意と技術を示す為にも、凄まじく高いレベルで纏めなくてはなりませんわ。となれば…… あったあった、これですわ! 以前、オーリー卿が命からがら採掘して来た例の鉱石、遂に使う時が来ましたの! これを限界まで薄く加工して、私特製の魔力水に馴染ませて、それからそれから―――」

「―――グレアさん! 通信、通信切れてないですよ!」

「ほわわわわあっ!?」


 恐らく、耳飾りの向こうで腰を抜かしているであろうグレアさん。独り言もマシンガントークであった為、止めるのが若干遅れてしまった。何とか落ち着かせ、耳飾りでの通信の切り方を伝える。


「で、では……」

「うう、できれば忘れてほしいですの……」


 改めて通信を終える。切る間際、笑いを堪えるオルカの声がしたような気がした。精神統一、早くも敗れる。



◎本日の成果◎


討伐黒霊

せる屍×6体(感染LV1)

せる屍(農具)×2体(感染LV1)

屍荒し×1体(感染LV1、跳躍LV1)

激動の巨馬×8体(瞬発LV2、体力LV2)

錯乱の暴牛×11体(瞬発LV2、混乱LV2)

大斧の牛鬼×1体(斧術LV3、憤怒LV2、肉鎧LV1)

金棒の牛鬼×2体(棒術LV3、憤怒LV2、肉鎧LV1)

大剣の牛鬼×1体(剣術LV3、憤怒LV2、肉鎧LV1)


=====================================

魔剣ダリウス

耐久値:58/58(+3)

威力 :56(+4)[+6]

頑強 :90(+3)[+39]

魔力 :39

魔防 :39(+1)[+4]

速度 :41(+4)[-4]

幸運 :42(+3)[+3]


霊刻印

◇剣術LV3

◇耐性・感染LV4

◇統率・屍LV3

◇格納・屍LV4

◇融合LV4


探索者装備

体  :鋼鱗の軽鎧(頑強+20、速度-5)

腕  :刃の太陽

足  :鋼鱗の脚甲(頑強+12、速度-2)

靴  :戦人の履物(威力+3、頑強+3、速度+3)

装飾 :縁故えんこの耳飾(右)

装飾 :縁故えんこの耳飾(左)

装飾 :司教の首飾

=====================================

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る