第三章 双生の画廊編

第85話 融合試験

 俺は今、血塗監獄ちぬりかんごくへ単独で探索にやって来ている。オルカとの約束を果たす前に、少しばかり試してみたい事があったんだ。それは何かと言うと、ずばり前回の大黒霊戦で入手した、『融合』の霊刻印である! 白の空間では装備と装備を融合させ、新たに上位装備を作り出す事に成功した。しかし、黒霊と黒霊の融合は黒の空間でしか行う事ができない。だからこそ、こうして実地試験に来ている訳だ。


 融合機こと肉スライムを倒したお蔭なのか、今のところ黒霊の大群が現れる気配はない。つまるところ、俺とホワイト達だけでも、探索は十分に可能になった訳だ。女神像付近のエリアをぶらぶらして、お目当ての黒霊を発見したら『格納』へストック! 赤スライムも融合枠に含めるとすれば、現在の格納の融合枠は四枠なので、四体分の黒霊が集まったら融合開始だ。


「なるほどなぁ、これが融合の力かぁ」

「アァァ……?」

「ヂュウ?」


 色々と試してみて出来上がった黒霊、八つ腕の剣ゾンビと杖ズミさん二号を目の前に、俺は感嘆の息をついた。あの肉スライムが作り出した黒霊を真似てやってみたんだが、これが大成功、見事にあの時の黒霊を再現する事ができたのだ。融合材料は八つ腕が血みどろゾンビ兵士×4、杖ズミさんが血みどろネズミ×血みどろ聖ゾンと、見たまんまだったので予測しやすかった。


 一方で、顔が一杯埋まった巨人ゾンビの方は、四体だけじゃ頭数が足りなかったのか、融合できず。素材になるであろう赤ゾンビも、そこまで集まらなかったのもあって、こちらは失敗だった。まあ今回の試験で、融合の法則を何となく掴めたので良しとする。ざっと纏めるとこんな感じ。


①使役可能なゾンビ相手であれば、安全に融合を試す事が可能。逆にゾンビでない黒霊を対象する場合は、相当格下でない限り止めておいた方が良い。

②融合は手で触れた対象で行われる。一つの手につき一体まで。三体以上の融合は俺の手の数が足りなくてできないが、格納内で実施したら何かできた。

③組み合わせによっては融合できない事がある。というか、大抵の場合できない。できない場合は融合が起こらないし、事前に「あ、これできないわ」と本能的に分かる。

④融合ができる組み合わせは、大体が同じ強さ同士の黒霊で起こる。強い黒霊と弱い黒霊では成功例は今のところなし。


 重要なのは②だろうか。肉スライムは自分の体から何本も触手を生やして、何体も融合の対象にしていたが、俺の両手はどう頑張ったって二本しかない。要はこのままじゃ、二体までしか黒霊を融合させられないのだ。能力的にはできるのに、腕の数が足りなくてできないなんて、そりゃあねぇよ! と、一瞬絶望しかけた俺であるが、その後に格納内でも融合ができる事を発見。この時の感動は、言葉に言い表せないほどのものだったよ。


「以前の戦いの際は直接刃を交える事はなかったが、見た目がもう強そうじゃからのう。これは頼りなるのではないか?」

「だな。肝心の能力についても、ゼラに聞けば見れる事が分かった。帰還したら、早速確認してみよう」


 使役化に置いた黒霊達は一度倒した事のある者であれば、リザルトを確認する際に持っている霊刻印を把握する事ができた。しかし、ホワイトをはじめとした希少種は、初見のぶっつけ本番で仲間にする場合が多い為、その能力をハッキリとは分かっていなかった。不便だけど、こればっかりは仕方がない。そんな風に半分諦めていた事ではあったんだが、解決の糸口は意外にも近くにあった。


『ングング…… ング? それでしたら、私の方でお見せできますよ? 御覧になります?』

『ふぁっ!?』


 先日の祝勝会が終わった後、この事をゼラに相談してみたところ、格納に入れている黒霊の霊刻印であれば直ぐにでも確認できると、何とも軽い口調で教えてくれたのだ。あの時の俺、相当変な声を出しちゃったなぁ……


 ちなみにその時に確認できた霊刻印は、ホワイトが『嗅覚レベル4』『瞬発レベル4』『咆哮レベル3』『穴掘レベル3』『濃霧レベル4』、杖ズミさんが『感染レベル2』『爆毒レベル3』(感染はその後にイレーネの『魔法・結界レベル2』と交換)、知ってるけどついでに確認したハゼちゃんが『咆哮レベル3』『嗅覚レベル2』『耐性・感染レベル2』だった。やっぱりホワイトが頭一つ抜けていて、杖ズミさんとハゼちゃんがタイプは違うけど、実力は五分五分って感じだ。八つ腕のゾンビ君も、ハゼちゃんくらいかなと予想している。


「欲を言えば、ハゼちゃん達も融合して、もっと強くさせたかったんだけどな。ハゼちゃん達はそういうタイプじゃなかったみたいで、できなかったけどさ。他の黒霊を対象にしても駄目だったし」

「この辺りの黒霊では、微妙に同格ではないようじゃからのう。まあ、気長に探し出すのも乙なものじゃて。それに今のままでも十分強いぞい」

「ハハッ、それもそうだな。まったく、頼りになる配下が揃ったもんだよ。なあ、ホワイト?」

「ゴォ?」


 今の配下達を確認しよう。皆が認めるエースのホワイトに、ハゼちゃんが三体、杖ズミさんが二体、そして新たに加入した八つ腕の全七体だ。格納にまだ空きが二枠あるけど、一先ずはこの編成で良いだろう。うーん、どこからどう見てもバランスの良い編成だ。実に美しい。


「おい、何じゃそのキャラは……」

「いや、何となく…… と、兎も角だ、今回の目的は達した! 帰ったら杖ズミさん二号にも結界の魔法を覚えてもらって、八つ腕が持つ霊刻印も調べて、そしたらオルカと合流だ! ダリウス、新しい姿になったお前にも活躍してもらうからな!」

「おお、真か!? よし行こう、直ぐ帰って直ぐ出発しよう!」


 俺とダリウスは気分良く女神像の下へと戻り、白の空間へと帰還するのであった。


「カリカリカリ……!」

「杖ズミさん、杖かじったら駄目だよ! それ、多分大事な装備だから!」



    ◇    ◇    ◇    



「八つ腕だからエイト、いや、それだとホワイトと若干名前が被るし、やっちゃん、はっちゃんの方が親しみやすいか? それとも、トレードマークの剣にちなんでソードというのも捨て難い…… うーむ、難しい問題だ。ベクト、お前はどう思う?」

「……やっちゃんが良いかな、うん。はっちゃんだと、ハゼちゃんと少し被るだろ?」

「おお、なるほど」


 大真面目に納得されてしまった。


 黒の空間、屍街かばねがい・東門付近の女神像前でオルカと合流した俺。現在、唐突に始まった八つ腕ゾンビのネーミング大会に戸惑いを隠せずにいます。


『そうか! それなら、相応しき名前を決めてやらないとな!』


 女神像のセーフティーエリアを出た直ぐのところで、オルカに新たな仲間の八つ腕を紹介したところ、そんな事を言われたのが始まりだった。現在の候補はエイトにやっちゃん、或いははっちゃん、ソードが有力である。


「よし、それなら今日からお前はやっちゃんだ! これからよろしく頼むぞ、やっちゃん!」

「オ、オオォ……」


 ああ、やっちゃんに決まったのか。心なしか、やっちゃんも動揺しているように見える。


「そ、それよりもオルカ、次の探索先はどこにするんだ? 白の空間で指示された通り、屍街かばねがいに来たけどさ」

「ん? ああ、その事についてだが――― ベクト、そろそろ外壁の門番に挑戦してみないか?」

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